ESG関連ETFへの資金流入減も、投資妙味あるSDGs債発行あり

日本のESG関連ETF、SDGs債まとめ

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のアナリスト田村晋一および本間靖健が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。契約者様は、全文および関連情報を端末でご覧いただけます。(2022/07/08)

2022年上半期(1-6月)において、ESG関連ETFへの資金流入は前年同期比で大幅減となりました。一方、グリーン債のパフォーマンスが急速に悪化したためか、気候変動関係ETFには資金が集まったものとみられ、全体的にESGから資金逃避が起きていることを示す資金の流れは見つかりませんでした。グリーン債、トランジション債、サステナビリティ債のいずれも、特徴的な事業に資金充当され、中には投資妙味のある債券もありそうです。

ESG関連ETFへの資金流入は減少、流入超には気候変動関連が多い

22年上半期におけるESG(環境・社会・ガバナンス)関連ETF(上場投資信託)は合計約600億円の資金流入超過と、前年同期の約1300億円から大幅減となりました。気候変動関連の銘柄に投資するETF(総合的なESG投資ETFを除く)の多くは上半期において資金流入超過となりました。金利の上昇に伴いグリーン債インデックスのパフォーマンスが急速に悪化しているため、気候変動関連ETFにマネーが集まっている可能性があります。今後も金利動向がグリーン債券とグリーンETFのパフォーマンスに影響するでしょう。またジェンダー等人材系のESG関連ETFは合計で資金流出超となりました。同期間に、日銀による人材投資系ETFの購入がなかった(前年同期は720億円の購入)ことが要因の可能性があるでしょう。総合的なESGスコアが高い会社の投資割合を高くするETFは資金流入超・流出超の両方に存在しており、日本ではESGからの資金逃避が起きていることを明確に示す事象は見当たりません。

ESG関連ETF資金流出・入/グリーン債インデックス

Source: Bloomberg Intelligence

関西電力が550億円のグリーン債を発行、ゼロカーボン社会へ投資

22年4-6月に発行されたグリーン債のうち発行額が最も多かったのは関西電力で、550億円を発行しました。資金使途は水力・風力といった再生可能エネルギーに加えて、水素関連事業の調査や実証等にかかる費用にも充てられます。同期間、中部電力が200億円、東北電力も100億円のグリーン債を発行しましたが、両社とも再生可能エネルギーへの充当が計画されており、関西電力の水素事業への充当は特徴的です。また、関西電力発行のグリーン債のうち250億円相当は、満期(10年)、格付け(AA)ともに同じ東北電力発行のグリーン債と比較して、発行額が2.5倍かつ発行日国債金利がほぼ同じであるにもかかわらず、若干低い利回りとなっています。

少額だが、日本取引所グループがグリーン・デジタル・トラック債を発行しました。二酸化炭素(CO2)削減量など、グリーン性指標に投資家がいつでもアクセスできる仕組みを作るものです。グリーン債は透明性の確保が重要であり今後他の発行体が同様の取り組みをするか注目されます。

2022年4-6月発行のグリーン債一覧

Source: Bloomberg Intelligence

ENEOSが大規模な移行債を発行、他の類似移行債と比べ利回り高

22年4-6月に発行されたトランジション債(移行債)のうち、最も大きな発行額だったのはENEOSのトランジション・リンク債で、2本で合計1000億円の資金調達となります。サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)と呼ばれる目標が設定され、未達の場合には同社が社債発行額の0.25%相当を寄付したり、排出権やグリーン電力証書の購入を行ったりする仕組みです。利回りがそれぞれ0.8%と1.3%に設定され、今までに発行された日本円建て移行債の中で最も高く、発行時対国債スプレッドもそれぞれ59ベーシスポイント(bp)と56bpと、最大です。未達の場合でも元本が棄損されるわけではなく、また同等の格付けと満期の他の移行債と比較しても利回りが高いため、投資妙味があります。

なお、SPTsでは、同社グループにおけるスコープ1、2のネットCO2排出量を、30年度までに13年度比46%削減、40年度までに排出量ゼロと設定されています。

2022年4-6月発行のトランジション債一覧

Source: Bloomberg Intelligence

高い利回りが魅力の大阪大学発行サステナビリティ債

22年4-6月に発行されたサステナビリティ債(環境事業及び社会貢献事業の両方に資金充当される債券)において、トヨタ自動車のウーブン・プラネット債(合計600億円)を除けば、大阪大学が発行した300億円のサステナビリティ債が目立つ存在です。同債券は日本政府と同格のJCR格付けAAAだが、対国債スプレッドが14bp(利回り1.17%)と高く、魅力的です。償還財源は国から与えられる運営費交付金ではなく充当事業から得られる収入あるいは運用収益とされ、戦略的な経営による収入の安定性と成長性が格付け機関から評価されています。大阪大学は民間企業との大型共同研究(1千万円以上)受入額において17年度から19年度の3年連続で国内大学1位、大学発ベンチャーも20年度は10社設立、総数168社で国内3位となっています。今後も収益能力のある大学が発行する債券には投資妙味がある可能性があるでしょう。

2022年4-6月発行のサステナビリティ債一覧

Source: Bloomberg Intelligence

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