Read the English version published on January 22, 2025.
本稿は、ブルームバーグのコモディティ・インデックス・プロダクトマネジャー、Jim Wiederholdが執筆しました。
2020年代は、コモディティ指数が良好なパフォーマンスを示す期間となりそうです。ブルームバーグ商品指数(BCOM)は、2021年から2024年までの最初の4年間で、それぞれ+27.11%、+16.09%、-7.91%、+5.38%の上昇率を記録しました。2024年のパフォーマンスにはセクター間でばらつきがあり、貴金属、ソフトコモディティ、家畜が2桁台の上昇を見せたのに対し、穀物は約20%下落、エネルギーおよび工業金属も小幅の下落となりました。2025年、コモディティ市場にとって好材料がそろう中で、注目すべき5つの主要テーマをまとめました。ただし、過去の実績が将来のパフォーマンスを示すものではないことには注意が必要です。

再び高まるボラティリティ
2024年は、8月に株式市場でボラティリティが急上昇したことを除くと、ほとんどのアセットクラスで2023年と同様に、ボラティリティが低い一年となりました。過去2年間、BCOMとブルームバーグ米国大型株価格リターン指数(B500)の30日間ボラティリティは、ともに平均で13%以下でした。図表2は、二つの指数30日平均が、5年平均を数ポイント下回る水準にあることを示しています。7月には、ブレント原油のボラティリティは5年ぶりの低水準まで低下しました。過去の動きを見ると、2022年のようにボラティリティが上昇した局面では、コモディティと株式は相反する動きを示してきました。ボラティリティが上昇すると、コモディティ価格が急騰する一方で、株価は下落する傾向があります。2025年にも同様の現象が起こる可能性を示唆する多くの理由が見受けられます。まず、過去2年間株式がアウトパフォームしてきたことで、今後は株式市場に下落リスクがあり、投資家のセンチメントを冷やす可能性があります。ボラティリティが上昇した2022年と同程度のリターンが今年も見込まれると仮定した場合、アロケーションの中にコモディティを含む分散型ポートフォリオは、市場の混乱を乗り越えるのに役立つと考えられます。2022年、株式は20%下落した一方で、コモディティは16%上昇しました。

供給のピークアウト
今注目されているのは、コモディティ市場に最も大きな影響を与える要因の一つ、供給です。昨年、主要コモディティが豊作だったことを受けて価格が下落しましたが、特に顕著なのが穀物でした。米国では、豊作と在庫増加を背景に、トウモロコシ、大豆、小麦の価格が1年を通して下落しました。価格の底打ちが近いと考えられますが、一般的に低価格は農家の減産意欲を高めます。原油については、今後も供給が増加傾向にあると予想されています。図表3は、供給が原油価格の動きに大きく影響した2024年下半期のトレンドを示しています。石油市場のアナリストは、2025年も増産が続き、エネルギー価格への下押し圧力は継続すると予想しています。ただし、年初には原油に対する弱気な見方がコンセンサスとなっていましたが、予想に反して供給に逼迫(ひっぱく)が生まれると、2025年に価格が転機を迎える可能性もあります。米国で生産縮小が始まることも考えられ、石油輸出国機構(OPEC)と非加盟産油国で構成されるOPECプラスが、すでに発表されている減産計画を一層順守する方向に動く可能性もあるでしょう。

インフレ再加速の懸念
インフレが再加速する可能性をめぐっては、これまで当社が説明してきたシナリオが現実味を帯びてきたと言えるかもしれません。インフレは冷静化しましたが、水面下ではくすぶっており、再燃する可能性があります。インフレ率はこの10年間(2020年代)に、一度急上昇した後沈静化しました。これは、1970年代にインフレ率がいったんピークを迎えた数年後にその2倍の水準まで再加速した時と同じようなヘッドフェイク(見せかけの動き)かもしれません。米国の経済成長と消費は依然として堅調である中で、2024年に米連邦準備制度理事会(FRB)が3度の利下げを実施したことから、同様の状況に直面する可能性があります。FRBが今後発表される経済データにどのように対応するのか、そして足元での雇用統計重視の姿勢からインフレ退治に再びその軸足を戻す可能性があるのかに関して、投資家は先を見通せずにいます。
高インフレ環境下で、一部のコモディティセクターは、他のセクターよりも相対的に良いパフォーマンスを示す傾向があります。図表4は、BCOMの6つのコモディティセクターの中で、エネルギーのインフレ・ベータ(インフレ率の変化に対する感応度)が最も高い傾向を示しています。近年、ほとんどのセクターがインフレ・ベータで1桁台前半の緩やかなプラスを示していますが、貴金属のインフレ・ベータは意外にもマイナスとなっています。これは、金がインフレヘッジとして用いられるというコンセンサスに反する結果です。最近の動きを見ると、金がインフレ対策となるという見方の説得力が薄れていると言えそうです。

関税の影響
12月の連邦公開市場委員会(FOMC)会合後の記者会見で、FRBのパウエル議長は、関税がインフレにどのような影響を与えるかについて調査中だと述べました。関税が交渉の手段として提案されているのか、あるいは実際に関税が課されるのか、どちらにしても消費者は将来の価格上昇に備えています。関税の影響を直接的に受ける可能性のある輸入品目では、実施を見越して2024年第4四半期に在庫を積み増す動きが見られました。
第一次トランプ政権下では、貿易戦争が農産物のコモディティ価格に影響を与えました。 米国と主要貿易相手国との間の貿易収支に変化が生じた場合、追加関税の導入がコモディティ価格に再び影響を与える可能性があります。図表5は、世界各国との米国の輸出入を示しています。米国からの輸出で見ると、同国産の食品および副産物の最大の出荷先は中国で、2022年の輸出額は合計で358億ドルでした。一方、米国への輸入では、カナダが最大の貿易相手国で、輸入額は427億ドル。これにメキシコが396億ドルと僅差で続いています。中国、カナダ、メキシコが、米国の最大の農産物貿易相手国です。これらの関税が発動されるかどうかについて言及するのは時期尚早ですが、穀物と家畜市場のボラティリティが今年上昇する可能性は高いと言えるでしょう。

出遅れ銘柄に上昇余地
2024年、金、コーヒー、ココアなどの主要コモディティの価格が最も上昇したのに対し、天然ガスと穀物価格は最も下落しています。 金価格にはさらに上昇するための追い風が吹いているようですが、銀の価格は金の値動きに出遅れる傾向がある一方で、そのボラティリティは金以上となっています。1970年以降の値動きからすると、コーヒーやココアの価格急騰には過熱感が見られます。最近のココア価格は前例のない急激な動きとなっていますが、コーヒーの価格で50年前に同様の急騰が起きました。現在のコーヒー価格は過去のピーク水準に達しています。最近のコーヒー価格高騰の恩恵を受けるのは、砂糖かもしれません。図表6には、このソフトコモディティ2品目の価格急騰の状況が示されています。補完関係にあるコモディティとして、一方が上昇すると数年以内にもう一方も上昇する傾向があるようです。1999年以降、砂糖とコーヒーの価格はそれ以前の25年間と比べ20%以上密接な相関関係を示しています。今年はコーヒー価格に出遅れていた砂糖の価格が上昇する可能性が考えられます。コーヒーと砂糖はどちらも同じ地域で栽培されており、ブラジルなどで悪天候や干ばつが続いていることも価格上昇の一因になるかもしれません。

本稿では、昨年とは大きく異なる展開が予想される2025年をどう乗り切るかについて、今年、市場関係者の間で注目されている主要コモディティのテーマを取り上げました。リスク資産は過度に楽観的なシナリオをすでに織り込んでおり、ボラティリティが上昇する可能性が高まっていると言えそうです。長期にわたりコモディティの供給が豊富だったことから、2025年は在庫減少への転換点になるかもしれません。インフレは常に存在しています。このところ沈静化していましたが、今年は再燃することも考えられます。関税は不確実要因ですが、発動されれば主要なコモディティ市場は影響を受けることになるでしょう。最後に、一部のコモディティセクターと特定のコモディティが他をアウトパフォームしたことで、それに連動したコモディティにも追随して上昇する動きが出る可能性が高まっています。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。