ウイルス対策で分析能力を発揮するウォール街のクオンツアナリスト

Read the English version published on April 29, 2020.

本稿はブルームバーグニュースのJustin Leeが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

いまやウォール街の誰もが在宅アマチュア疫学者となっているかのようです。なかでも、さまざまなクオンツアナリストがウイルス分析をまったく新しい段階に引き上げようとしています。ヘッジファンドマネジャー、金融工学の専門家、そしてリスクの専門家らがデータマイニングの知恵を臨床科学に適用し、この100年に1度のパンデミック(世界的大流行)の行方を予想しようとしています。

正式に投資戦略の一環として組み入れる者もあれば、国民としての義務感から、非営利団体とタグを組む人々もいます。彼らの手法が突破口となるかどうかはわかりませんが、ウイルスによって引き起こされた混沌とした世界で道理を見つけようとする取り組みにクオンツ手法が加わっていることは確かといえるでしょう。

Kai Lin氏はその中の1人です。

オーストラリアの債券ファンド、Coolabah Capitalでシニア・データ分析家を務める同氏のチームは、線形混合モデルと呼ばれる、統計金融学で使われる一種の回帰分析を利用して、感染経路をマッピングする同社固有のモデルを開発しました。

Coolabah社は、米国から欧州までの感染が今月でほぼピークに達するとの結論に達した後、3月に市場の反発を見越して約5億8000万ドルをリスク資産に投資しました。

Lin氏はメールで、「一般に利用可能なモデルは、すべてとは言わなくても大半が政府の政策決定に役立つことを目的としたもので、金融市場参加者の特殊なニーズに応えるものではないため、クーラバーは自分たちのニーズに合わせて独自の新型コロナウイルス感染予測モデルを開発することにした」と述べています。

Coolabah社は金融業界内外の人々に役立つよう、その手法と結果を公開しています。

最もよく知られた疫学データさえ専門家から疑問視される中で、このように、人口調査と医療経済学の領域を切り開いて複雑な感染の傾向を予測し、意味を見いだそうとするクオンツ専門家は同社だけではありません。

市場を上回るリターンを出すことが目的のクオンツアナリストらはこのところ、本業で活躍しているとはとてもいえないなか、世界の感染者数が290万人を突破した今、各国の政府当局はあらゆるところから建設的な支援を求めています。

ホワイトハウスも含めたコンソーシアムは、人工知能の専門家を招いて「Kaggle」と呼ばれるグーグルのデータ分析家用プラットフォームで新型コロナウイルスに関する膨大な研究資料から知見を得ようとしています。一方、英国の王立学会によれば、災害モデル構築のサポートを募集したところ、初回の募集だけで1800人の応募があったということです。

ヘッジファンドのAtlas Ridge Capitalでは創設者のChristos Koutsoyannis 氏が非営利の「Covidネットワーク」の発足を支援しています。これは高度な統計手法を使って個人用保護具(PPE)の供給業者と病院側の需要をマッチさせるものです。

Koutsoyannis 氏はまた、社会的距離の有効性を推定するのに役立つかもしれないとして、携帯電話の利用状況や衛星画像などのデータを共有することを金融業界に呼びかけています。「クオンツアナリストは疫学の経験はないかもしれないが、数学的な問題という点ではよく似ている」としています。

そして同業者の多くも意を同じくしているようです。

創設以来25年の歴史を持つシステマティック・ヘッジファンドのRotella Capital Managementは、ウイルスによる死者数に関し、公開データを基に構文解析するモデルを開発しました。戦略的ビジネス開発部門のグローバル統括、Dean Crowder氏によれば、「この手法に関して政府機関と連絡を取り合っている」としています。「どのクオンツファンドにも、それぞれの政府機関や医療専門家に感染拡大を制御するための実行可能な知見を提供できる、知識豊かなデータ分析家がいる」と同氏はみています。

データの危機

経済活動をいつ再開すべきか、これまでの介入がどれだけ効果があったのか、そしてリソースの最適な割り当て方法は何かを判断するには、ウイルスの感染予測が極めて重要となってきます。金融クオンツアナリストらはこれら3つの点に関して支援を提供しようとしています。

Guggenheim PartnersやAQR Capital Management LLCなど最大級の資産運用会社のために機械学習のアルゴリズムを開発してきたMarcos Lopez de Prado氏もその1人です。同氏は学会と協力して人口をさまざまなグループに分け、もっと的を絞ったロックダウン(都市封鎖)をシミュレーションする方法を提案しています。

Marcos Lopez de Prado氏とその共同執筆者であるヘブライ大学のAlex Lipton 教授によれば、現状の「データの危機」がパンデミックへの対応を遅らせているため、こうした努力の必要性は今まで以上に高まっているということです。

例えば、一体何人が感染しているのかは正確にはわかりません。全員が検査を受けているわけではないからです。また、国によっては統計情報を操作している場合もあるかもしれません。

こうした難題がクオンツアナリストの知的関心を喚起しています。

HSBCホールディングスのリスク・アナリスト、Yang Liu氏は、2月初旬に中国の感染データを収集し始めました。同氏はプライベートな時間を使って2週間かけ、いわゆるマルコフ・モデルを使って真の死亡率を推定する方法に関する論文を執筆しました。

同氏は、さまざまなシナリオのシーケンスを分析する統計上の課題は、企業の破綻をモデル化するという本業で取り組む課題と全く異なるわけではないと考えています。

「仕事を終えた後の時間ではあるものの、こうした分析をすることは自分が何かに専念できる1つの方法で、外の世界とつながっていられる気がする」と同氏は述べています。