インフレ­とレジームの転換

Read the English version published on November 9, 2022.

本稿はBQuantコミュニティーヘッド、Sandrine Foldvariが執筆しました。

2020年1月に始まった新型コロナ危機以降、世界経済は高まるインフレ圧力を経験してきました。パンデミックによる一時的なサプライチェーンの混乱と考えらえたものから始まり、ウクライナ戦争でその状況は悪化し、一過性のインフレというシナリオから、インフレがより構造的なものになる可能性があるというシナリオへと変化してきました。事実、当初は一時的な原因による影響だと説明されていたインフレ圧力は、エネルギー転換や労働力の現在および将来の動向変化など、より長期的な影響を受けて悪化しています。

ブルームバーグ・ワールド・インフレ指数は、各国の前年比での最新の消費者物価指数(CPI)と、国際通貨基金(IMF)がまとめた購買力平価ベースの世界のGDPで加重したCPIに対応した数値に基づいています。世界経済の98%以上のCPIを網羅しています。新型コロナウイルスのパンデミック中の一時的な停滞以降は、世界のインフレは一貫して急激な広がりを見せ、足下のピークは前年比10%を上回っています。

投資家はどのようにポートフォリオのインフレ感応度をモニターできるのでしょうか。また、中・長期的に高インフレレジームの到来が予想される中、最も大きな影響を受ける要因に対してどのようにリスクをヘッジできるでしょうか。

90年代以降、欧米諸国は超低インフレレジームの恩恵を受けてきましたが、それは一部で中央銀行による金利のゼロ近辺(時にはマイナス)までの引き下げにつながりました。同時に、リスクコストも自動的に低下しました。低インフレレジームは以下のような多くの要因に支えられてきましたが、今や逆戻りしつつあるように見受けられます。

  • グローバル化:国際的な市場開放とグローバル化の長く安定したプロセスは、今では逆戻りしつつあるようです。背景には、世界各国でのポピュリズムやナショナリズムの復活や、主要国(中国・米国)間の関税および貿易摩擦の高まりがあります。
  • 安価なコスト労働力:さらにグローバル化および労働力の可動性によって低コスト労働力へのアクセスが容易になりました。しかし、グローバル化の巻き戻しで低コスト労働力へのアクセスは阻害されています。
  • ロボット化と労働生産性の向上:同時に、主に熟練労働者とロボット化がもたらした労働生産性の向上は、欧米の一部地域では横ばい、あるいは低下しており、相対的に労働コストの上昇を招いています。
  • 構造的失業率:しばらくの間、継続した無視できない水準の失業率と女性就業率の歴史的な上昇によって、低コストの労働力プールは拡大しました。こうした傾向はほとんどの欧米諸国(欧米の人口減少・高齢化の影響もあり)で、足下の失業率は歴史的低水準へと逆に低下してきました。
  • 低価格のエネルギー:70年代のオイルショック以降、エネルギー価格は右肩下がりに推移してきました。しかし、直近ではエネルギー価格は大幅に上昇するとともに、ボラティリティーも高まっています。化石燃料の埋蔵量減少に伴い、この傾向は今後も続くと思われます。エネルギー転換の影響で当面は構造的にコストの高い代替エネルギーへの移行が進むと予想されます。
  • 低金利:各国の金融政策は、成長を促進し借入コストを下げるため、基準金利をゼロ水準まで引き下げてきました。しかし、インフレ圧力、財政赤字の拡大、生活水準危機の中で税制改革の余地が比較的小さいことなどを受け、現在、金利は急上昇しています。
  • 高成長:上記のすべての要因は、長期的に安定した経済成長の恩恵を受けてきました。長期的な成長は今や危機にさらされ、インフレ見通しにも影響を及ぼしているのです。

以上の要因の逆戻りが、低インフレから高インフレへの変化につながっています。ここからは、ブルームバーグのBQuantプラットフォーム*で、インフレ指標が特定のポートフォリオや要因に与える影響を分析する方法を紹介します。

BQuantの例では、選択したポートフォリオのインフレ指標やインフレに敏感な要因に対する感応度を算出し、その時間の推移の中での変化をプロットし、感応度が高い期間をハイライト表示することができます。
また、インフレ指標値の変化に関する事象(イベント)分析も提供します。イベント(例:2022年11月2日に米連邦準備制度理事会が行った75ベーシスポイントの利上げ)を選択し、任意の要因がイベント前にどのように反応していたかを確認し、それをイベント前後の平均累積リターン(コンセンサス値に対するポジティブおよびネガティブなサプライズに分解)と比較できます。

ロンドン近郊のお客さまは、ぜひBQuantコミュニティーイベントにご参加ください。インフレに関する非公式なディスカッションと、インフレ時代のポートフォリオヘッジ・保護に関する方法をご提案します。詳しくはこちらをご覧ください

*BQuantは、クラウドベースのエンドツーエンド投資リサーチプラットフォームで、金融市場のクオンツアナリストやデータサイエンティスト向けに特別に設計されています。ブルームバーグの包括的かつ高品質な金融データセットへのアクセスをクラウド上のクオンツツールとともに提供し、金融サービス機関が新たな投資戦略を開発し、商品化するまでの時間を大幅に短縮することができます。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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