Read the English version published on June 5, 2023.
本稿はSheryl Tian Tong Leeが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。
気候変動への意識の高まりを受け、グリーンテクノロジーや再生可能エネルギープロジェクトが投資先として人気だ。特に環境問題に取り組む金融機関からの引き合いは強い。だが鉄鋼メーカーや航空会社、電力会社など排出量の多い企業は、真に削減を達成する上では大掛かりで費用を伴う改革が必要となる。
「トランジションファイナンス(移行金融)」は、グリーン投資をしのぐ可能性を秘めた急成長中の資産クラスで、途上国のよりクリーンな経済成長を後押しする。
今のところトランジションファイナンスに該当する対象について、一貫した基準はない。懐疑派は、企業が環境に及ぼす影響について消費者や投資家を欺くグリーンウォッシュの問題が特に生じやすいとの見方を示す。
トランジションファイナンスとは
トランジションファイナンスは、多排出産業の企業に対し、エネルギー効率向上や温室効果ガス排出削減を促すことを目的とする投資を指し、通常、債券やローンの形を取る。現状、適格・非適格なプロジェクトを巡り、共通の定義やルールはない。これまでの事例では、水素の混焼が可能な天然ガス発電所や、燃費の良い航空機のために資金を調達したケースがある。
グリーンとの違い
債券やローンに関わる「グリーン」ラベルは、比較的規制が整っている。多くの発行体は、10年近く前に国際資本市場協会(ICMA)が策定した「グリーンボンド原則」を順守している。調達した資金は、再生可能エネルギーやエネルギー効率の高いビル開発といった低炭素プロジェクトにのみ使用されることが想定されている。もっとも、これは必ずしもそうとは限らない。
重要である理由
銀行や投資家は、ファイナンス先企業の排出量への関心を高めている。汚染産業の企業による資本市場へのアクセスは、従来よりも難易度が増している。これを受け、特に新興国市場で環境により優しい技術の導入に向けて必要な資金が滞っているとされる。
スタンダードチャータードが実施した2022年の調査によると、60年までにネットゼロの目標を達成するには、新興国市場で94兆8000億ドル(約1京3200兆円)のトランジションファイナンスが必要だという。中国のみで35兆1000億ドルを要する。この資産クラスを定義することで、途上国への投資や「公正な移行」、すなわち全体の成長を損なわない排出削減が促されると推進者は主張する。
推進している国・地域
リードしているのはアジアだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)は、炭素回収や石炭火力発電所の早期閉鎖への投資など、地域向けのガイダンスを策定。また世界最大の汚染国である中国は、鉄鋼や農業などのセクターを対象としたトランジション・タクソノミー(分類システム)の策定を進めている。
日本では企業が発行するトランジションボンド(移行債)がブームだ。今後10年間で20兆円規模のソブリン移行債(GX経済移行債)の発行も計画されている。
もっとも恩恵を得ているのは、アジア諸国だけではない。石油・ガスを最大の排出源とするカナダでは、こうしたセクターへの投資に向け「トランジションファイナンス・ラベル」を検討している。
現在の市場規模
19年以来、世界で約180億ドル相当のトランジションボンドが発行されており、主に中国や日本がけん引している。アジア全体の発行額は昨年、前年比で2倍以上に拡大した。それでも2兆2000億ドル規模のグリーンボンド市場との比較では小さい。また債券市場全体から見れば微々たるものだ。
投資家にとっての障害
発行体の誠実さに対して一般的に疑いの目が向けられていることに加え、明確な基準がない点が大きな障害の一つとなっている。一部の企業は、炭素回収・貯留などの技術開発に充てる資金を調達するためにトランジションボンドを発行している。こうした技術は、排出のダメージへの対処を図るものだが、排出を減らすわけではない。グリーンファイナンスに関する基準づくりで世界をリードしてきた欧州におけるトランジションファイナンス反対論にも含まれる懸念点だ。
今後の可能性
トランジションファイナンスの成功を望むステークホルダーは多い。430億ドル超規模の多国間の気候ファイナンス枠組みである「公正なエネルギー移行パートナーシップ」(JETP)は、途上国の排出量を削減する上でトランジションファイナンスに頼る。
アジアがトランジションファイナンスを推進する上では、対象となるプロジェクトについての明確な基準や海外投資家の投資意欲、信頼できるデータの収集、透明性の高い報告が求められる。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。