ウィズコロナの時代:人間の仕事はロボットに奪われるのか

Read the English version published on January 13, 2021.

本稿はThomas Blackが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

そう遠くない未来にロボットが仕事の半分をこなすようになり、多くの人間が失業して生活が不安定になるとの見方があります。他方、ロボット技術が人間の仕事のあり方に革命を起こし、現状では想像もできないような雇用を創出するとの見方もあります。オートメーション(自動化)の新たな波が仕事を変えつつあり、新型コロナウイルスの感染拡大がそれに拍車をかけています。

1.なぜこれが問題になるのですか?

機械が膨大な量のデータを取り込むことにより学習する能力、すなわち人工知能の進歩が、人間にしかできない仕事とは何なのかという問題を投げかける中で、人間から機械への切り替えは既に始まっています。国際ロボット連盟(IFR)によれば、物流、検査、保守などといった工業分野以外の専門的なサービスを提供するロボットの販売台数は2018年に27万1000台に達し、2017年から61%増加しました。一方、全世界の工場で現在稼働する工業用ロボットの数は270万台に上り、IFRでは2022年までに400万台に達すると予想しています。

2.これは恐れるべきことですか?

さまざまな意見があります。全米経済研究所が2018年に公表したワーキングペーパーは、「ロボットにより大量の失業が発生するという警戒的な予想から、純新規雇用が創出されるという楽観的な予想までさまざまな意見がある」としています。

3.どのような仕事が自動化に適しているのでしょう?

店のレジ係、事務職、テレマーケター、パラリーガル、料理人、ウェイター、受付係、銀行の窓口係、警備員、データアナリスト、税務申告書作成代行業、トラック運転手などが最も自動化されやすいと言われています。また、外科医、会計士、金融アナリストなども実はロボットに置き換えられる可能性があります(最近では一部のニュース報道も機械により行われるようになり、ブルームバーグ ニュースも例外ではありません)。最初に自動化の影響を直接的に受けたのは系統だった環境の中で反復的な作業を行う職種、すなわち主に製造業で、中でも主導的な役割を果たしたのは自動車産業でした。1980年以降、米国の製造業労働者数は3分の1減少して約1300万人となりましたが、生産量は2倍に増加しています。最新鋭の機械には、視覚や可動性、学習能力が備えられています。また高い機能を有するソフトウエアは、顧客と電話で会話を続けることさえ可能です。

4.どれくらいの数の職が失われるのでしょうか?

IBMのビジネスシンクタンクであるIBM Institute for Business Valueの調査によれば、自動化とAI(人工知能)利用が進む結果として、今後3年のうちに世界の12大経済圏において1億2000万人が職を失う可能性があります。また、米ブルッキングス研究所の大都市圏政策プログラム(Metropolitan Policy Program)は、自動化されやすい職に就いている米国人の数は約3600万人に上ると発表しました。さらにマッキンゼー・アンド・カンパニーは2017年に発表したレポートの中で、自動化により転職を余儀なくされる人の数は2030年までに世界の労働人口の14%(約3億7500万人)に上ると予測しています。これらはもちろん、現存するテクノロジーのうち例えば自動運転のように実用化にはまだほど遠いものの今後の進展次第です。全米の労働人口は現在約1億6000万人ですが、そのうちトラック運転手は約350万人を占めています。

5.自動化によりどのような種類の仕事が生み出されるのでしょう?

テクノロジーによりリスクにさらされる仕事を特定するよりも、新たに創出される仕事を予測する方がはるかに困難です。インターネットやスマートフォンが出現する以前には、モバイルアプリのデザイナーやソーシャルメディアの専門家の必要性、さらには高額を稼ぐYouTubeインフルエンサーの出現などを予測することは困難でした。世界経済フォーラムは2018年のレポートの中で、機械学習の専門家、ヒューマンマシンインタラクションのデザイナー、デジタルトランスフォーメーションの専門家などを新たな職種として挙げています。またフォレスター・リサーチは、ボットマスターやユーザーインターフェースのデザイナーを挙げています。

6.新型コロナウイルスの感染拡大はどのような影響を及ぼしましたか?

何百万人もの人々が職を失う中で、ロボットの強みが浮き彫りになりました。ロボットであれば感染を気にせず並んで働くことができます。米食肉大手のタイソン・フーズは加工工場での新型コロナウイルス集団感染により工場閉鎖に追い込まれ、ロボットによる処理ソリューションの検討を開始しました。フィラデルフィア連邦準備銀行のエコノミストが2020年9月に公表したレポートでは、新型コロナウイルスによる一時解雇が自動化に向いた職種でより多く、それらの職種がやがて消え去るリスクが高まっていることが明らかにされました。同レポートはまた、リモートワークが不可能な職種(有料道路の料金徴収、ホテルのフロント業務、駐車場係員など)の自動化がコロナウイルスの感染拡大により加速される可能性があるとも述べています。一方で、新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こした新たな問題の解決にも自動化が役立っています。ハネウェル・インターナショナルは、飛行機の通路を移動しながら客室内を紫外線で殺菌する飲料カートサイズのロボットの販売を開始しました。

7.影響を緩和するにはどうすればよいでしょうか?

テクノロジーの進歩に伴い頻繁に転職せざるを得ない人々のために、職業訓練の拡充が必要になると一般に考えられています。英誌エコノミストの調査部門であるエコノミスト・インテリジェンス・ユニットは2018年に公表したレポートで、来るべきインテリジェント・オートメーションの波への対応が進んでいる国として、韓国、ドイツ、シンガポール、日本、カナダを挙げました。米国は25カ国中9位でした。

8.未来の仕事について楽観的な意見はどのようなものですか?

歴史を振り返ると、機械が人間を駆逐するという最悪の事態は起きないであろうことが分かります。AIとロボット技術は、18世紀、19世紀、20世紀にそれぞれ起きた大きな変革に続く第4次産業革命であるという人もいます。それぞれの時代において新たなテクノロジーの到来により職が失われてきた一方で、その影響をある程度相殺する新たな仕事が出現しました。英オックスフォード大学のCarl Benedikt FreyとMichael Osborneは、2013年に公表し大きな話題となった論文の中で、テクノロジーの進歩により大量の失業が引き起こされるという懸念は歴史を通じて「誇張されていることが証明されている」と述べています。むしろ、技術の進歩は「雇用の構成を農民や職人から製造業、事務職、サービス業や管理職へと大きくシフトさせた」と書いています。世界経済フォーラムが行った調査によれば、7500万人の雇用が失われる可能性がある一方で、人間、機械、アルゴリズムの分業に「適応する1億3300万の新規雇用が創出される可能性がある」との結果が出ています。

9.それでは悲観的な意見はどのようなものですか?

AIが肉体労働だけではなく知的ベースのホワイトカラーの仕事をも脅かしている点で、今回の自動化はこれまでの変革とは異なるという意見があります。ブルッキングス研究所で技術革新センター所長を務め、『仕事の未来:ロボット、AI、自動化(未邦訳 原題:The Future of Work: Robots, AI and Automation)』の著者でもあるDarrell Westは、大規模な雇用の混乱が起きる可能性を「真剣に捉える必要がある」と述べています。マッキンゼーやオックスフォード大学などが最近行った研究によれば、失われる可能性がある雇用の割合の中央値は38%で、これは大恐慌の数字に匹敵する多さとなっています。

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