LIBOR移行:財務担当のための3ステップ

Read the English version published on August 17, 2021.

この記事はDavid Mullenが執筆し、Treasury & Riskから複製されたものです。ブルームバーグのライセンスを受けています。

LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の廃止時期が近づきつつある中、メールや出版物、メディアなどでは移行にまつわる警告が騒がしいものの、大半の企業の財務部門にとってはゴールはまだ遠い先にあります。

LIBOR廃止が銀行や投資会社だけの問題ではないことは、今ではあらゆる企業の財務担当者が認識しているはずです。LIBORベースの変動金利付債を発行したり、リスクヘッジのためにスワップや先物契約を締結したり、LIBORに連動する金利で借り入れを行ったりしている企業もすべて、この移行の影響を受けます。

今年末までは、財務担当者だけでなく最高財務責任者(CFO)や最高経営責任者(CEO)、取締役会にとっても、新たな指標金利に向けて道筋をつけることを最優先課題に据える必要があります。ではどこから手を付けたらよいのでしょうか?

財務担当者が自社の財務業績を分析する際は通常、過去と将来の検証が求められます。LIBOR移行についても、その詳細を理解するために同様のアプローチをとることが適切でしょう。

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移行への長い道のり

LIBORに連動する金融商品の総額は200兆ドルを超えます。LIBOR廃止の動きは世界金融危機を発端とします。2017年に英金融行動監視機構(FCA)は、2021年末以降はLIBOR運営機関がLIBORの公表を一切停止し、これに伴いLIBORは主要指標金利ではなくなることを正式に決定しました。その後はおおむね当初のスケジュールに沿って移行プロセスが進んでおり、いくつかの米ドル建て金利を除き、すべてのLIBORは今年末までに段階的に廃止される予定です。

米国では、連邦準備制度理事会(FRB)とニューヨーク地区連銀が市場参加者らに呼びかけて設置した代替参照金利委員会(ARRC)がLIBOR移行を担い、米ドルLIBORからより信頼性の高い参照金利への移行に取り組んでいます。ARRCは、担保付翌日物調達金利(SOFR)を代替金利として推奨しています。

SOFRは、米国債を担保とした取引の翌日物借り入れコストを測定する、取引に基づいた金利です。SOFRは担保付き翌日物金利のみに基づくため、LIBORの2大特徴、つまりフォワード期間構造(1カ月、3カ月、6カ月物LIBORなど)と、動的な信用スプレッドが欠けており、これらの違いが移行における課題となっています。

2020年5月にARRCは、各種アセットクラスの金融商品に関してLIBORからSOFRに移行するためのベストプラクティスの提言を発表しました。企業のローンに関しては、ARRCは、今後の組成や証券化(具体的には2021年6月30日以降の組成)にLIBORを使用しないよう推奨しています。

一部の銀行や企業は対応済みですが、多くはまだ後れを取っています。また、当初予定されていたスケジュール通りに「ターム物SOFR」が実現しなかったことから、移行に懸念を示す企業もあります。問題は、銀行やその企業顧客がSOFRをローンの指標金利として使用するには、翌日物金利であるSOFRを該当するターム物金利に変換する必要がある点です。

その対応策として、銀行や財務担当者には現在2通りの方法があります。1つ目の方法は「後決め」方式によるSOFRの算出です。契約期間全体のうち過去の期間における複利に基づいて契約各日の金利を決めるものです。この方式の明白な問題は、「後決め」方式を使う借り手としては金利発生期間の開始前には金利がわからず、金利期間最終日になって初めて実際の金利を確認できるという点です。2つ目の方法は「先決め」方式です。契約の金利期間より前の過去の金利を複利計算して金利を決めるものです。

ブルームバーグにとっての事業法人顧客の方々の聞き取りでは、このようにSOFR参照金利の算出方法が複数あるということが、LIBOR移行に関して企業の財務担当者を悩ませてきた主な問題であることが明らかになりました。2020年半ば以来、ARRCは二者間ローンやシンジケートローンでは「後決め」方式を、会社間ローンでは「先決め」方式を使うように助言しています。しかし、そのやり方では一貫性に欠けるため、財務担当者には二者択一が求められます。また、借り入れコストを確実な水準で事前に知ることが難しく、40年以上にわたってLIBORが提供してきた明確性に慣れている財務担当者にとっては問題です。

自社システムでSOFRに対応できるのかどうかについて不安を抱えている財務担当者も少なくありません。「SOFRのさまざまなバージョンを実装するにはどれくらいコストと時間がかかるか?」「自社システムすべてを再設計する必要があるか?」「社員をどの程度トレーニングし直す必要があるか?」といった懸念点が挙げられます。

財務担当者の懸念を緩和するための3ステップ

こうした複雑な問題が絡み合っていることを考えると、移行が最終章に近づく中で財務担当者らが途方に暮れるのも無理はありません。プロセスを簡素化するために、以下の3ステップを財務担当者の方にお勧めします。

1. LIBORへのエクスポージャーと、付随資料をすべて分析する

LIBOR移行を成功させる最初のステップは、貴社のLIBORへのエクスポージャーに関して、できる限りの情報を収集することです。まだ始めていない場合、すぐに取り掛かってください。債券からスワップ契約、モーゲージまで、考えられる銘柄だけでなく、予期せぬところにも幅広いエクスポージャーが見つかる可能性があります。

同じくらい重要なこととして、財務担当チームはこれら金融商品の裏付けとなる資料を分析する必要があります。債券であれば、証書を精査します。スワップであれば、契約のただし書きを確認します。どの金融商品も独自の方法でLIBORを組み入れており、簡単に変更できる金融商品もあれば面倒なものもあります。例えば、中央で清算される金利スワップであれば、清算機関が一方的にベースライン金利をLIBORからSOFRやその他の継続金利に変更できます。一方、店頭デリバティブや変動金利ローンを変更するには、ローンのカウンターパーティーや多くの債券保有者の承認が必要な場合があります。

このプロセスでは、「フォールバック規定」に特に注意が必要です。対象証券の契約に盛り込まれている条項で、LIBORの公表が廃止された場合にどのように金利と支払いを計算するかを定めるものです。ISDAやLSTAなどの業界団体が設定したガイドラインに沿って起草されたものでなければ特に、契約の中にはLIBOR廃止の場合の対処方法が曖昧なものや全く規定されていないものがあります。この規定があるかどうかを確認するには、複数の資料をまとめて手作業で精査します。あるいは、証券のフォールバック規定が一元化されたデータベースを見直せば、より迅速に作業できます。

2. 今後の資金調達コストを決める

財務担当者の間で見られる最大の誤解は、選択肢はひとつと考えていることです。LIBORの代替金利としてSOFRを推奨している規制当局ですが、一方で、信頼性の高い取引データに基づきIOSCO(証券監督者国際機構)の「金融指標に関する原則」など国際標準を順守してさえいれば、市場参加者はどのような指標金利でも用いることができるとしています。

金融サービス各社は、銀行が資金調達に使う金融商品(コマーシャルペーパー、譲渡性預金証書、銀行預金、短期企業銀行債など)に基づき、期間構造や信用リスクの要素などLIBORの利点を持つ、SOFRの代替となり得る金利を開発しています。

その代替金利のひとつがブルームバーグ・ショートターム・バンクイールド・インデックス(BSBY)です。これは大手銀行が無担保のホールセール向け米ドル資金を調達する際の平均利回りを測定するものです。BSBYインデックスは、動的で、信用感応度が組み込まれているほか、5種類の期間(翌日物、1カ月物、3カ月物、6カ月物、12カ月物)について銀行の限界資金調達コストを示すものです。

LIBORの代替金利を決定する前に、財務担当者はそれぞれの代替金利の違いを理解し、スプレッドなどの全体的なコストを比較検討する必要があります。指標金利は、それを活用する各社のLIBORエクスポージャーに一致しており、かつ効率的に実装できて経営陣に説明しやすいものであるべきです。

3. 移行プロセスを通して意思疎通を徹底する

企業のLIBOR移行を指揮するのはおそらく財務担当者となるでしょう。しかし、移行の成功を大きく左右するのは社内外のさまざまなステークホルダーであることを忘れてはなりません。

まず第一に、社内のステークホルダーが確実に共通の認識である必要があります。つまり、(最高経営責任者までを含む)上級経営陣だけでなく、コンプライアンス、法務、IT、事業、IRなど、各部門との緊密な連携も必須です。さらに、LIBORベースの金融商品(住宅ローンなど)を取り扱う企業であれば、関与すべき社内ステークホルダーにマーケティング部門や顧客部門も加えなければなりません。

社内ステークホルダーを包括的に洗い出した後は、社外ステークホルダーに目を向けます。財務担当者であれば、銀行やフィナンシャル・アドバイザー、取引所などの金融面での各カウンターパーティーと直接連絡できるはずです。これらのカウンターパーティーがすべて、貴社の移行計画を認識しており、移行プロセスにおいて必要な支援をしてもらえるようにします。

さらに、投資家に対しては、移行に関連して貴社が直面する可能性のあるリスクを必ず適切に開示します。顧客には、彼らが影響を受ける可能性のある変更について説明します。

2021年は経済にとっても金融市場にとっても、変革の年となっています。とはいえ、LIBOR移行は、財務担当者にとっての2021年の単なる一懸念事項として考えるべきではありません。

適切に対処しない限り、新たな参照金利へ移行するということは、企業にとって甚大なリスクとなる可能性があります。しかし、正しく対応さえすれば、確固とした財務基盤に基づき自信を持って2022年を迎えることができるでしょう。

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