感染拡大が金融規制に及ぼす影響

Read the English version published on April 1, 2020

本稿は、ブルームバーグで欧州・中東・アフリカを担当する規制関連業務スペシャリストであるJoe McHaleが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

2020年の年初には、欧州においてこの1年間で金融機関が対応すべき規制上の課題はほぼ見えていました。4月に始まる証券金融取引規制(に基づく取引報告をはじめとして、英国のEU離脱に関する交渉、バーゼルIIIの段階的実施、そしてLIBOR移行への対応です。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大によって混乱が生じ、幾つかのケースで規制の適用開始日が延期されました。

対応に追われていた金融機関はこれで一息つくことができますが、延期が正式に発表されるまではこれまで通りの対応を続けることが賢明です。また、対応プロジェクトの完全な棚上げも可能な限り避けるべきです。

コンプライアンスとリスク管理は継続

英金融行為規制機構(は、通常業務の縮小を発表しました。当面行う業務は、企業とのビジネス上必要不可欠なコンタクトおよび新型コロナウイルス感染拡大で混乱が続く現状への対応が主なものとなります。

一方で、FCAも欧州証券市場監督局(も、金融機関には市場における不正防止策を継続する責任があるとして、従業員がコンプライアンス部門やリスク管理部門から離れた自宅で業務を行う場合にも必要な業務水準を維持するよう求めています。ESMAはまた、電話が録音されないことから来るリスクを軽減するために代替策の検討を求めました。FCAも金融機関に対して、規制上の義務を順守するためにあらゆる合理的手段を取ることを求めました。金融機関は、注文や取引を関連システムに迅速に入力し、トレーディングの際には録音された回線を使用し、従業員が必要とする場合にはコンプライアンス部門のサポートを得られる体制を構築しなければなりません。

中央清算されないデリバティブの証拠金規制は延期

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)および証券監督者国際機構(IOSCO)は、中央清算されないデリバティブ取引に係るカウンターパーティー間の当初証拠金受渡しの次のフェーズ開始を1年延期すると しました。9月1日から適用開始予定であった次のフェーズについては、対象金融機関の数が非常に多いため、新型コロナウイルス発生以前から順守には大きな課題があると見られていました。このため主要業界団体は適用開始の延期を求めてきましたが、今回それが認められ、フェーズ5および6の対象となるカウンターパーティーについてはそれぞれ適用開始日が2021年9月および2022年9月まで延期されました。各国規制当局は、今回発表されたスケジュールに基づいて国内規制をそれぞれ修正することになります。

LIBOR移行は継続

2021年末までに完了する予定のロンドン銀行間取引金利(LIBOR)からの移行についてもさまざまな臆測がなされています。FCA、英中央銀行であるバンク・オブ・イングランドおよびポンドリスクフリー指標金利に関するワーキンググループ(Working Group on Sterling Risk-Free Reference Rates)は、パンデミックが今後数カ月間にわたり企業のLIBOR移行計画にどのような影響を及ぼすかについて議論を重ねてきました。しかし、現状においては2021年末以降もLIBORが公表されるという保証はなく、全ての企業が2021年末を目標期日として据え置く必要があります(そこまでの過程で中間的なマイルストーンが変更される可能性はあります)。

バーゼルIIIは1年延期

バーゼル銀行監督委員会(BCBS)は、銀行が投資損失を計測する方法を全面的に見直した新ルールの適用開始を延期すると発表しました。「トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)」として知られグローバルに適用されるこのルールに基づき、EU委員会は域内で強制力を有する自己資本規制を策定中で、2020年中に法制化される予定でした。しかし、バーゼル委員会の発表を受けて、EU委員会は改めて導入のスケジュールを検討すると発表しました。バーゼルIIIの延期に伴い、オペレーショナルリスク、信用リスク、レバレッジ比率など主要な要件の見直しも延期されることになります。

通常の規制監督にも影響

新型コロナウイルスの影響を受けたのは規模が大きい規制見直しの適用開始日だけではありません。プルーデンシャル規制や財務報告、会計など通常の規制監督にも影響が出ています。バンク・オブ・イングランドは毎年行っているストレステストを2020年は中止し、カウンターシクリカル資本バッファーを0%に引き下げました。欧州中央銀行(ECB)は、1,200億ユーロに上る自己資本規制の緩和措置を取り、銀行の業務運営に関する軽減措置も発表しました。また、英国とEUの規制当局は財務報告の要件を緩和するとともに、プロシクリカル効果に対処するため、予想信用損失に関するIFRS第9号の適用を明確化しました。

英国のEU離脱

現行の移行期間は2020年末までで、英国政府はその延長を求めることはないとしてきました。しかし、現在政府はパンデミックおよびその経済的影響への対応に追われているため、通商条約および将来の市場アクセスに関する交渉は進んでいないようです。

規制当局による市中協議の延期が相次ぐ

規制当局による市中協議(パブリックコメント募集)への対応は、平時であっても大変な労力を要します。ましてそれが、従業員が在宅で勤務したり、病気であったり、あるいは託児所を探して奔走しているときであればなおさらです。

FCAは、この大変な時期に企業が顧客対応に集中できるように、幾つかの措置を延期すると発表しました。市中協議のコメント提出締め切りも10月まで延期されました。

ESMAも、金融ベンチマークや非エクイティ商品の透明性などに関する市中協議の締め切りをわずか4週間ですが延期しました。EU委員会も、金融商品市場指令(MiFID)の見直しなどに関する市中協議について対応を検討中です。

グローバルレベルでは、バーゼル委員会が全ての政策イニシアティブに関する市中協議を一時的に中断し、2020年に予定されていた全ての国別評価を延期しました。

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