トランプと中国貿易

本記事はLaurence Arnold, Enda Curranが執筆し、ブルームバーグブリーフ・Quick Take の「トランプと中国貿易」に初出掲載されたものです。

米国大統領選の共和党候補だったドナルド・トランプ氏は中国を盛んに引き合いに出し、中国という単語を発音することに取り憑かれているかのようだった。そして大統領に就任した現在、米国の雇用、知的財産、資本のほとんどを奪っていると批判していた中国に対し行動を起こす機会を手にした。だが、貿易戦争は、実際の戦争のように報復攻撃や巻き添え被害を招きかねず、それゆえに、大統領は公約していた同国に対する集中砲火の一つをすでに先送りしたのではないかと思われる。

1. トランプ大統領の対中国政策は?
トランプ氏は候補者時代に、「大統領就任初日」に中国を為替操作国に認定すると宣言していた。だがそれは実現しなかった。同氏はまた、「不公平な補助金政策」に対し訴訟を起こす、「貿易摩擦を解消するため、(関税適用など)大統領に法的に認められるあらゆる権力」を行使するとも述べていた。中国からの輸入品に45%の関税をかけると主張していたこともあったが、後にそれを言ったことを否定している。

2. 中国は為替を操作しているのか?
米国をはじめ中国と競合関係にある国は、中国が意図的に人民元安を誘導して不平等に国内輸出企業の競争力を高めていると長年にわたり批判してきた。だが、中国は過去10年間で対米ドル人民元の変動相場制への移行を模索している。昨年は国際通貨基金(IMF)が特別引き出し権と呼ばれる準備通貨の5番目の構成通貨として人民元を採用することを決めているが、これは、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事が言うように、中国が「ルールに従った経済ゲーム」をプレーし始めたことが評価された結果だ。米国は人民元が「大幅に過小評価されている」と批判することを止めている。むしろ、中国は最近では人民元を切り下げるのではなく切り上げるための努力を行っている。これらすべてが、トランプ政権が口頭での攻撃の手を緩めた理由なのかもしれない。スティーブン・ムニューチン米財務長官は、為替市場の四半期評価を待ってから中国が不正行為を行っているか否かを判断すると述べている。

3. トランプには何ができるか?
米国の大統領には議会の承認なしに貿易に関する決断を行うことのできる幅広い裁量が認められている。1974年通商法は、「通商協定に違反する、または不公正な貿易慣行を用いる外国」に対し関税を課したり他の制裁を加えたりできる権限を大統領に与えているほか、「米国の大幅で深刻な国際収支不均衡」を根拠に関税率を最高150日間にわたって最大15%引き上げることを認めている。バラク・オバマ前大統領は2009年にこの通商法に基づく権限を活用し、中国製タイヤの輸入に関税を課していた。トランプ大統領も中国に対する不服を世界貿易機関(WTO)に申し立てるよう貿易交渉の担当に命じることができるが、過去のケースを見る限り、そのプロセスが終了するまでに何年もかかる場合がある。

4. 中国への影響は?
世界の主要な輸出大国である中国にとって貿易戦争は景気の収縮やデフレを招き、11兆ドル規模の経済において数千億ドル相当の生産減という事態を引き起こしかねない。大和証券キャピタル・マーケッツ香港のアジア担当チーフエコノミスト、頼志文(ケビン・ライ)氏は、トランプ氏が選挙キャンペーンで示唆していた中国製品に対する45%の課税が実施されれば、対米国の中国輸出は87%落ち込むと試算している。これは4,200億ドルに相当し、やがて中国GDPを4.8%抑制する効果となり、関税率が15%にとどめられた場合でも、中国のGDPは1.8%減少するとしている。

5. 中国は反撃できるか?
できる。中国は米国の裁判所またはWTOを通して米国に対する法的手続きを開始することができる。特定の米国企業や製品を対象に関税を課すという方法で対応することも可能なほか、米国企業を税務調査や反トラスト調査の対象とすることもできる。中国共産党機関紙『人民日報』の国際版である環球時報は、中国が講じる可能性のある「目には目を、歯に歯を」の報復措置として、「ボーイング社から購入する予定の航空機をエアバス社から購入する。米国車とiPhoneの中国での売り上げは落ち込み、米国産の大豆、トウモロコシの輸入は中止される。米国に留学する中国人学生の数を制限することもできる」と指摘している。

6. 中国による報復措置の影響は?
おそらくは、トランプ大統領を熱心に支持する層である労働者階級のアメリカ人が経済的な打撃を受けやすい。衣類から電気製品に至るまで幅広い種類の製品の価格が上昇する可能性があるほか、世界貿易への依存度の高い農業や工場での雇用が脅かされかねない。

7. では、トランプ大統領は中国にとって悪いニュース以外の何ものでもない?
必ずしもそうとは言えない。ブルームバーグ・ビューのコラムニストでジャーナリストのマイケル・シューマン氏によると、中国は経済ナショナリズムに根ざした貿易戦争に直接対決することに意欲満々である。また、トランプ大統領は、オバマ前大統領が「中国を助けることになる」と公言していたグローバル貿易協定である環太平洋パートナーシップ(TPP)協定から離脱するとの公約を速やかに実行した。TPP協定をめぐる交渉は完全に暗礁に乗り上げたが、中国はこれで、アジア地域をカバーする自らの貿易協定を目指すという方針を続行できるのだ。