新型コロナウイルスがLIBOR移行準備に及ぼす影響

Read the English version published on July 29, 2020.

本インタビューはRisk.netに最初に掲載され、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

ブルームバーグで金利デリバティブのプロダクトマネジャーを務めるBenjamin Bullockが、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)はロンドン銀行間取引金利(LIBOR)廃止の期限にどう影響するか、公表停止前トリガーのメリットと課題、CCPにおけるディスカウントカーブの移行など、LIBOR移行に関する業界の主要な懸念について解説します。

Q

新型コロナウイルスのパンデミックの影響を考慮したときに、2021年末というLIBOR廃止の期限は現実的なのでしょうか

A

英国の金融行為規制機構(FCA)および中央銀行であるイングランド銀行(BoE)は、2021年末以降に公表されるLIBORについては、企業がそれに依拠することはできないというこれまでの前提に変更はないとの立場を明確にしています。

多くの企業がパンデミック以前にLIBOR移行計画を順調に進めており、中には過去数週間に準備作業を加速化させた企業もあります。

ただし、FCAやBoE、さらには米代替金利参照委員会(ARRC)が中間段階におけるスケジュールを緩和するとすればそれは賢明かつ適切な動きと言えます。それにより企業は、2021年末という期限を視野に入れつつ足元においては新型コロナウイルス対策に経営資源を集中することができるからです。

Q

FCAは、LIBORにリンクしたキャッシュ商品の発行停止期限を2021年第1四半期末まで延期しました。LIBORにリンクしたキャッシュ商品の発行を停止するためにはさらにどのような準備が必要でしょうか。

A

幾つかのことが必要です。まず発行体および投資家が現在の思考プロセスを改め、リスクフリーレート(RFR)を参照するキャッシュ商品の発行や投資への意欲を高める必要があります。そのためには投資家も発行体もシステムやリスク管理制度をRFRにリンクしたキャッシュ商品に対応させるとともに、従来使われてきたLIBORのものとは異なるコンベンションや手法にも対応していかなければなりません。米国、英国では、RFRにリンクした変動利付債、ローンやリボルビング・クレジット・ファシリティからの発行が順調に増加しています。しかし他の国や地域では、恐らく流動性への懸念からそれほど進んではいません。概して言えば、RFRの利用をさらに進めるためには、関係者全員の努力が必要です。

Q

3月におけるLIBORと担保付翌日物調達金利(SOFR)の乖離(かいり)を考えたとき、SOFRは米ドルLIBOR契約のフォールバックとして適切なのでしょうか。

A

この移行プロセスにおける長年のテーマはLIBORに内包されるクレジットスプレッドおよび流動性スプレッドで、市場は長くこれに依存してきました。国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)のフォールバック手法では過去5年間の複利FRFと銀行間取引金利(IBOR)のヒストリカルスプレッドを使って調整が行われるため、既発デリバティブや証券に対するフォールバック時の価値移転の影響が最小限に抑えられます。従って、市場の価格変動が激しい時期におけるヒストリカルスプレッドの拡大も過去5年のヒストリカルスプレッド調整の中に取り込まれます。さらに、クレジットリスクおよび流動性リスクへのエクスポージャーを有する市場参加者は、新商品を使ってリスクを管理することも考えられます。

Q

AmeriborやICE Bank Yield Indexなどの信用リスクが反映される代替金利指標は移行期においてどのような役割を果たすのでしょう。複数の指標が併存することになるのでしょうか。

A

米連邦準備制度理事会とARRCは最近、証券監督者国際機構(IOSCO)に準拠したSOFR以外の金利指標の使用を容認する姿勢を示しました。このため、LIBOR廃止後にIOSCOに準拠した複数のベンチマークのうちのどれかが使われる可能性が出てきました。すべてのケースに使用可能な万能指標が実現する可能性は低いですが、SOFRはさまざまなユースケースに適する優れた金利指標であることから、キャッシュ商品およびデリバティブのほとんどがSOFRに移行する可能性は依然として残っています。

Q

業界では公表停止前トリガーを支持する声が高まっています。現状における市場の不確実性を踏まえた上で、公表停止前トリガーのメリットと課題は何でしょうか

A

金融安定理事会(FSB)は、IBORデリバティブのフォールバックとして恒久停止トリガーに加えて公表停止前トリガーを含めることをISDAに要請しました。市中協議を行った後、ISDAは公表停止前トリガーを含めることを暫定的に決定しました。

従って、IBORが指標性を失ったとFCAが判断した場合、企業は指標性を有しないIBORを使い続けるのではなく、公表停止前トリガーを発動してより健全な新指標にフォールバックすることができるようになります。市場参加者からは、LIBORが指標性を失ったとFCAが発表した場合に、既存あるいは新規のデリバティブ契約でLIBORへの参照を継続することは望ましくないとの声が聞かれました。こうして、LIBORが指標性を失った場合の不確実性が公表停止前トリガーによって排除されました。

中央清算されないデリバティブ契約における公表停止前トリガーの扱いは中央清算されるデリバティブと同様になるでしょう。金利スワップの清算を行う中央清算機関(CCP)であるLCHとシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)は、公表停止前トリガーを導入する予定であると発表しています。

同様にキャッシュ市場においても、ARRCがドルLIBORを参照するキャッシュ商品に公表停止前トリガーを導入しています。

最後に、公表停止前トリガーと恒久停止トリガーを1つのプロトコルに組み込めば、市場参加者のLIBOR移行プロセスが簡素化され、さらに導入が進むでしょう。

Q

企業がLIBOR移行に備えるにはどのような手順を踏む必要がありますか。そこで直面するオペレーション状の課題にはどう対処していますか。

A

既に大多数の企業においてLIBOR移行準備は順調に進捗(しんちょく)しています。今後も既に決定されたロードマップに沿って作業を進めていく必要があります。2021年末という期限に変更はなく、そこに至る過程におけるマイルストーンはFCA、BoE、ARRCによって詳細に提示されています。LIBOR移行にまだ経営資源を十分に振り向けていない企業は、まずロードマップの決定が優先課題となります。LIBORからの移行に向けた明確なロードマップを作成するために企業がベンダー、顧客、カウンターパーティーなどと協議を開始するのに役立つ十分な情報が、公的および民間セクターから提供されています。

Q

CCPが7月および10月に予定しているディスカウントカーブの移行に対してはどのような準備ができるでしょうか

A

大手CCPはディスカウントカーブ移行の考え方を既に公表しています。企業は、CCPや清算ブローカーと協議してリスクとバリュエーションへの影響およびディスカウントカーブ変更の結果生じるリスク移転に対処する方法を正しく理解することが重要です。また、2者間のデリバティブと中央清算されるデリバティブのコンベンションの間で、短期的および長期的な乖離が発生したり整合性が失われたりする可能性があります。さらに、新しいRFRであるユーロ短期金利(€STR)やSOFRベースのリスクに初めて対応する企業は、必要な市場データや分析の入手が不可欠です。影響評価を自社でできない場合には、Bloombergのようなテクノロジーベンダーに相談してデータ、リスク分析、独立したバリュエーション評価などの提供を受けることができます。