オルタナティブデータ、投資利用の現状

Read the English version published on March 10, 2020

本稿はJeff Kearnsが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

グローバルな経済や政治の状況を把握するために数多くの投資家がこれまで読んできたのは、企業のSEC提出資料や政府統計資料でした。しかし今では多くの投資家が、公式統計を補完する材料として従来とは異なる情報、オルタナティブ・データに目を向けています。ウェブ検索、ツイート、クレジットカードによる購入、人工衛星などから毎日生成されるテラバイトの激流が、さまざまなインサイト(メキシカン・ファストフード・チェーン「Chipotle」の客の出足からアフリカの国のマクロ経済パフォーマンス、ひいてはウォーレン・バフェットとの共同事業をもくろんで誰がオマハを訪ねているかまで)に変換されるのです。

1.オルタナティブデータの例を教えてください。

インドのNarendra Modi首相の前主席経済顧問は、自動車販売や電力消費などのデータを使用して、2012年から2017年までの同国の経済成長率が実際よりも平均で年率2パーセントポイント高く公表されていたことを明らかにしました。研究者で起業家のApurv Jainは、失業または就職について投稿した23万人のTwitterユーザーの12億件のツイートを分析して、米国雇用の見通しに関する手掛かりを見つけました。ヘッジファンドのPoint72 Asset Managementは、ソーシャルメディア、オンライン検索、クレジットカード購入履歴などのデータを分析した結果、米ダイエットプログラム大手のWeight Watchersについて競合他社の勢いに弾みがついていることが示唆されたため、同社株を空売りしました。

2.なぜそんなに多くの情報が利用可能なのですか。

ソーシャルメディアに投稿したり、それに誰かが「いいね」を押したり、インターネットで検索したり、活動量計を着用したり、テレビ番組をストリーミング配信したりするたびに、デジタル情報が排出されるからです。予測分析はいま成長分野ですが、それに携わる企業はノイズの中から有益なシグナルを探し出します。携帯電話の位置情報やカードを読み取り機に通して得られるデータ(カードスワイプデータ)からは、小売店の人気度から製油所の操業停止に至るまで豊富な情報が得られます。クーポンに関するオンライン検索の急増は、経済の不確実性の高まりを示しているのかもしれません。データ収集業者は、Glassdoorのような就職関連サイトを監視したり、企業の福利厚生について国に提出が義務付けられている資料を精査したりして、開発中の新商品や新サービスに関するヒントや経営不振の初期の兆候を見いだそうとしています。また、夜景の衛星写真から紛争地域の政治・経済の状況に関するインサイトが得られることもあります。

3.誰がデータを使うのですか。

大量のオルタナティブデータの活用が最も進んでいるのは世界的規模の大手ヘッジファンドで、そのために多額の投資を行っています。また、定量分析を活用した運用戦略をとる運用会社も、原データを直接アルゴリズム運用モデルにフィードしています。優位性を得ようとする試みは投資そのものと同じくらい古くから行われていますが、オルタナティブデータの情報源は豊富にあることから、それを購入する余裕がある投資家は、月次や四半期ごとに公表される政府経済統計を使うよりも迅速かつ詳細な分析が可能となります。

4.このビジネスの規模はどの程度ですか。

オルタナティブデータのプロバイダーであるEagle Alpha Ltd.によると、プロバイダーの数は3年で3倍になり、現在1,126社あります。また、オルタナティブデータへの支出は2021年までに2017年の水準のほぼ2倍にあたる9億ドルに達すると同社は予測しています。(オルタナティブデータ業界の情報を収集するAlternativeData.orgはプロバイダーの数を445社としています。)主なプロバイダーとしては、実店舗と電子商取引サイトから数百万枚のレシートを集めて消費トレンドを分析するNPD Group Inc.、航空機追跡データを使ってOccidental Petroleum Corp.とBuffettが率いるBerkshire Hathaway Inc.との取引を公表前に探り出したQuandl Inc.、Tesla Inc.本社における夜間のスマートフォンの使用状況を計測してModel 3生産台数の急増を予測したThasos Group、衛星追跡を行うOrbital Insight Inc.とUrsa Space Systems Inc.、インターネット上の会話やコメントからデータを抽出して国ごとに「地政学リスク」指標を提供するPredata Inc.などがあります。

5.伝統的な政府統計はどうなりますか。

米連邦準備理事会は経済予測の補完にカードスワイプデータを使用しており、経済動向の把握にさまざまなデータがどう役立つかについてコンファレンスを主催しました。また、米労働省は消費者物価指数の算出にビッグデータ測定値を使用していますが、その数をさらに増やしました。しかし一般論としては、従来の統計データが幅広く利用されているため、政府はオルタナティブデータの導入には慎重です。また、従来の統計データには何十年もの積み重ねがあるため、直近の結果のみを示すオルタナティブデータよりも価値が高いとの見方もあります。そうした中、国による先進的な導入事例としてはエストニアがあります。同国の中央銀行は携帯電話の位置情報に基づいた国際旅客統計を2012年から公表しています。

6.リスクはありますか。

依然として最も重要なのは公式統計です。オルタナティブデータについては、JPMorganとGoldman Sachsは有望であると同時に落とし穴もあると見ています。まず、長期の蓄積がないことが一番の障害です。また、往々にして算出プロセスが不透明であることから来るデータの信頼性の問題もあります。政府統計機関が民間のデータを公式統計に取り入れる場合には、データプロバイダーが事業を継続する、またはデータの算出方法を変更しないという保証はありません。これは、労働省がアパレル衣料価格の新データをテストしていた際に遭遇した問題でした。ほかにもいろいろなリスクが考えられます。「データサイエンティストは、あらゆるツールやシステム、プロバイダー、データベース、プラットフォームなどを使い放題であるため、特に従来と異なるロケーションでのハッキングや不正アクセスの恐れがあります」と、Ernst & Young LLPの米州資産運用アドバイザリーの責任者であるSamer Ojjeh氏は述べています。

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