グリーンファイナンスで地球を救えるか

Read the English version published on October 18, 2019.

本稿はEmily Chasan の協力を得てTom Frekeが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

グリーンファイナンスとして知られる分野は今、転換点にさしかかっています。爆発的な成長が10年間続いた後に見えてきた課題は少し驚くべきものでした。十分にグリーンなプロジェクトが足りなくなったのです。そのため、商品や発行企業の幅を広げる試みが続けられています。中央銀行やますます増え続ける投資家は、この世界最大の資金プールの1つとなる100兆ドル規模の債券市場を、喫緊の課題である気候変動抑制の原動力にしようとしています。


1.グリーンファイナンスの現状は?

多額の資金が環境に配慮した投資へとシフトしています。その正確な額は、環境に配慮した投資の定義によって異なってきます。最も広い定義は、環境、社会、ガバナンス(ESG)スコアが低い企業を除外した資産への投資で、31兆ドルに上ります。一方で、最も分かりやすくかつ分野として確立しているのがグリーンボンドで、環境にやさしいプロジェクトに必要な資金を調達するために発行されます。2019年上半期の発行額は前年同期比44%増加し、チリ政府、アイルランド政府、PepsiCo Inc.Verizon Communications Inc.などが新たに発行体として登場しました。これまでに発行されたグリーンボンドの総額は約7500億ドルに上りますが、債券市場全体から見ればまだほんの一部に過ぎません。

2.なぜプロジェクトが足りないのか?

グリーンボンドの定義は非常に厳密です。調達資金はグリーンな目的のみに使用される必要があります。そのため、多くの企業が自社プロジェクトの適格性について不安を抱かざるを得なくなっています。太陽光発電の企業がグリーンボンドの調達資金を石油採掘に使うことはないと保証するのは簡単です。しかし、石油会社が同じように保証したとしても、投資家は疑いの念を抱くに違いありません。

3.できることは何か?

定義がグリーンボンドほど厳密ではない債券、例えばトランジションボンドを発行するための努力が続けられています。「ブラウン」な企業がよりグリーンに近い方向へビジネスのやり方を切り替えるために調達資金を使うことができるというコンセプトで、新しいアセットクラスの創設です。第一陣の発行企業の1社がイタリアのガス会社Snam SpAで、2019年初めに5億ユーロ(5億5,000万ドル)のトランジションボンドを発行しました。調達資金は、メタンガスの排出を2025年までに25%削減するプロジェクトに充当されます。また、同じくイタリアのEnel SpA は、サステナビリティリンク債という新しい形の債券を発行しました。同社が一定の再生可能エネルギー関連の目標を達成できない場合には、金利が上乗せされます。

4.過去に同様の事例は?

ローンの世界ではサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)またはポジティブ・インセンティブ・ローンと呼ばれる事例があります。グリーンファイナンスの中で最も急成長している分野で、利率が特定の目標にリンクしています。ブルームバーグNEFによれば、これまでに実行されたSLLの約4分の3が環境関連の目標にリンクされています。金利は目標達成度に応じて上下に変動しますが、変動幅は数bpにとどまっています。しかしSLLが持つより重要な意味は、企業に対して環境、社会、ガバナンス(ESG)を不可欠なものとして企業戦略に組み込むよう促すことにあるのかもしれません。

5.投資家のメリットは?

これまでのところ、グリーンボンドと従来の債券のパフォーマンスにはほとんど違いが見られません。しかし、ESG目標を重視した投資戦略の方がリターンが大きいという研究結果は増えています。これはおそらく業績が悪い企業を除外しているためと思われます。また、グリーンローンの増加による石炭企業や石油企業の調達コスト上昇はこれまでのところ見られませんが、投資家心理や政府の政策が原因でそうした企業の調達コストが上昇する恐れも長期的にはあるかもしれません。

 6.本当にグリーンかどうかは誰が決める?

いわゆるグリーンウォッシングは依然としてリスクとして存在します。ESGに関するグローバル基準の欠如と、既存のESGスコアリング手法間で整合性が取れていないことは批判の的になっています。こうした中でEUは2019年6月、グリーンボンド基準とその検証方法に関する提言を公表しました。これが世界中でグリーンボンドの販売を後押しするベンチマークとなるのではと期待されています。(ブルームバーグ ニュースの親会社であるブルームバーグLPは、ブルームバーグターミナルおよびデータライセンスサービスを通じて、ESGデータ、分析、インデックスを提供しています。)

7.グリーン融資が活発な国は?

中国では、国の大気汚染対策の一環としてグリーンボンド市場急成長しています。また、スカンジナビア各国の投資家とフランスの銀行(BNP ParibasCredit Agricoleなど)はこのセクターのパイオニアと言うことができます。米国の投資銀行もこのセクターで競争力をつける必要性を感じています。インドネシアやナイジェリアなどの新興国は資本が不足しているため、グリーン融資により環境にやさしい形でインフラの構築が可能になるとして期待しています。しかしこれらの新興国のプロジェクトは透明性に欠け、ガバナンスリスク対策も不足しがちです。

8.ほかにグリーンファイナンスを推進している人は?

新たに欧州委員会委員長に就任するウルズラ・フォン・デア・ライエン氏は、気候変動対策に1兆ユーロの融資を行う銀行を設立するというフランスの提案に支持を表明しました。ドイツでは弱体化する経済への財政刺激策が議論されており、その中では化石燃料の切り替えを加速化させるための融資計画が重要視されています。また、世界の主要な中央銀行のほとんどが2019年4月、グリーン融資拡大の工程表作成に参加しましたが、米連邦準備理事会だけは参加を見送りました。

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