Read the English version published on September 17, 2024.
本稿はブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のESGリサーチ担当ディレクターのEric Kaneと同シニア・アソシエイト・アナリストのMelanie Ruaが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。
大西洋のハリケーンシーズンは今月ピークを迎えており、米国のコミュニティー・ヘルス・システムズなどの病院運営企業は気候変動による物理的影響に対して引き続き脆弱です。コミュニティー・ヘルスは、売上高の30%以上をフロリダ州とテキサス州から計上しており、気候変動による事象の発生頻度と深刻度が増すにつれ、患者の避難や施設の閉鎖が増加すると予想されます。 一方、このようなリスクに関する開示は依然として限定的です。
気候変動、救急治療に慢性的なリスクをもたらす
HCAヘルスケアやコミュニティー・ヘルスなどの病院運営企業は、気候変動による物理的影響に対するエクスポージャーが非常に高くなっています。米国病院協会(AHA)の最新データに基づくと、ユニバーサル・ヘルス・サービシズのフロリダ州の施設は純患者収入の12%、総許可病床数の9%を占めています。コミュニティー・ヘルスの場合、純患者収入と総病床数の10%をフロリダ州で占めています。これらの病院運営企業は、強靱性(レジリエンス)の強化に伴うコストの増加やサービス中断による収入損失に直面する可能性があります。
昨年、HCAはハリケーン「イダリア」のために、フロリダ州タンパベイ全域の施設の運営を一時的に中断し、患者を移送しました。 2022年のハリケーン「イアン」に関連する影響により、HCAは主にフロリダ州の施設で推定8500万ドルの損失を被りました。
米主要病院運営企業の病床数と患者収入:テキサスとフロリダ州
気候変動による物理的リスクを回避する方法はなし
HCAの場合、フロリダ州とテキサス州の病院を合わせると、総認可病床数と総患者収入の50%以上を占めており、気候変動に伴う暴風雨の頻度と強度の増加による著しい被害の可能性を示唆しています。HCAをはじめとする上場病院運営企業では、気候変動による事業リスクを認識していますが、FEMA(米連邦緊急事態管理庁)が指定した「100年の氾濫原内(100年に一度の確立で発生する特別洪水危険区域)」区域にある施設の規模や数など、この問題に関連する主要な指標は公表していません。異常気象が頻発し事業や物的資産に影響を与え続けているにもかかわらず、情報開示不足により投資家はこのようなリスクを評価する能力が限られています。
2022年にGeoHealth誌が発表した調査によると、「カテゴリー1」のハリケーンが発生した場合、米国の78の大都市圏にある682の病院のうち147カ所が浸水する可能性が報告されました。「カテゴリー4」に至っては、この数字は306カ所に跳ね上がります。
ハリケーン「イダリア」の影響で閉鎖したHCAの病院
気候変動による影響への備え、政府補償プログラムにリンク
HCA、テネット・ヘルスケア、コミュニティー・ヘルス、ユニバーサル・ヘルスでは、ハリケーンなどの緊急事態への備えに総収入の最大44%を充てることが可能です。これは、メディケア・メディケイドサービスセンターによる緊急時対応規定とひも付けられています。この規定では、病院に対し、電力喪失、サイバー攻撃、施設所在地域で発生する可能性が高い災害などを想定したリスク評価と緊急時対応計画の策定を義務付けています。施設は、緊急事態に関するコミュニケーションプログラムを策定し、訓練とテストを実施する必要があります。病院が政府補償プログラムの適格性を維持するには、この規定に対するコンプライアンスが義務付けられています。
CMSは、ニューヨーク州の病院に30億ドルを超える被害をもたらした2012年のハリケーン「サンディ」を含む最近の自然災害を受けて、緊急時対応規定を策定しました。
上場病院企業、気候変動の影響大でも炭素誓約に署名せず
943の病院と数千に及ぶその他の医療提供者を代表する140近い医療組織が、2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を50%削減し、2050年までにGHG排出量を正味ゼロにする「ネットゼロ」に合意しました。米ヘルスケア業界は米国のGHG総排出量のおよそ9%を占めているため、米政府主導による「ヘルスケア業界の気候変動対策に関する誓約」へのこれらのコミットメントは、気候変動への取り組みにおいて大きな成果をもたらすと期待されます。上場している大手病院運営企業グループ(テネット、HCA、コミュニティ・ヘルス、ユニバーサル・ヘルス)は、地球温暖化に大きく貢献し、またその影響に大きくさらされているにもかかわらず、これまでのところ同誓約に署名しておらず、総エネルギー消費量の報告すら開始していません。
世界全体では、ヘルスケア業界はGHG総排出量の5%近くを占めており、この業界が国であれば、世界第5位の排出国となることが示唆されています。
HCAのブルームバーグ環境スコア
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。