本稿は佐野日出之が執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。(2023年8月30日)
福島第一原子力発電所による処理水の海洋放出に対して中国が反発し、日本株はインバウンド(訪日外国人)関連銘柄が下落したが、中国からの影響はそれだけではない。製造業銘柄への向かい風がより深刻だとの見方も出ている。
野村証券の須田吉貴クロスアセット・ストラテジストは「今後、中国政府の製造業PMIがさらなる減速を示した場合、マクロ・ヘッジファンドは日本株をショートする可能性が高くなるだろう」と述べた。
須田氏は現在のところ、中国の景気減速の織り込み度合いはほぼ適正な水準と見るものの、マクロ・ヘッジファンドが日本株に投資する際には中国経済を注視する傾向があると指摘する。モルガン・スタンレーも中国経済の低迷を理由に機械セクターなどを格下げしている。
IFAリーディングの最高投資責任者(CIO)、穂積拓哉氏は「ファナックのような安くて何でも機能がそろっている機械を取りそろえている企業でも在庫が積みあがっているということを考えると、製造業の状況は厳しいのではないか」と指摘する。
中国は日本の最大の貿易相手国であり、日本の製造業の中国依存度は高い。ブルームバーグのデータによると、東証プライム指数に採用されている製造業企業の少なくとも4分の1、時価総額で見ると35%を超える製造業企業が売り上げの10%以上を中国で稼ぎ出している。
インバウンド株売りは一時的か
中国の動きをきっかけにしたインバウンド関連株への逆風は、過去の例に照らすと一時的なものになると言える。
日本政府の尖閣諸島国有化に対して中国が抗議した2012年には、不買運動や大規模な反日デモによる悪影響を懸念した売りが関連株に出たものの長続きはしなかった。中国からの観光客は半年ほど低迷した後に13年からは回復基調に入った。
みずほ証券の王申申シニアストラテジストは今回の影響を一時的と見る。「団体旅行の回復ペースは当初の想定よりは緩やかなものになる可能性があるが、12年のような落ち込みはないのではないか」と述べた。