流動性規制の強化に悩む運用業界

アジアの金融規制2018年6月1日

本稿は、Peter GuyがRegulation Asiaに寄稿したもので、著作権はブルームバーグが所有しています。

「流動性は当事者全員が同等の情報を持っている場合に最も高く、同等に無知の場合さらに高くなる」。流動性について、市場をよく知るトレーダーは皮肉をこめてこのように語ったものでした。同様に、資産運用会社も、銀行と同レベルの流動性リスク管理を押しつける規制の枠組みに対して抵抗を示してきました。しかし、規制の方向性や市場データ需要は、定量化され管理が容易な流動性リスク規制へと向かっています。管理手続きや規制ガイドラインに対応するためです。正確なモニタリングや計測は、より正確なデータ収集を通じてのみ可能であり、それもすべて規制強化へとつながります。

2007年から2008年の世界的金融危機以降、各国の金融規制当局は銀行に対し流動性リスク管理ガイドラインを提示し、市場システミックリスクと金利変動の低減に努めてきました。 しかし、運用会社は銀行と同レベルの規制は必要ないと考えました。特に自己資本規制と流動性規制については、資産運用業には無関係と考えていました。しかし規制当局が懸念していたのはオープンエンド型投資信託の解約でした。

ブルームバーグ法人部門のグローバルヘッドであるBrad Fosterは、「規制当局は何らかの形で流動性リスクのプロファイルをモニターしたいのです。受け身ではなく自らが流動性リスクを計測、管理したいと考えており、ルールベースではなくプリンシプルベースの開示を奨励しようとしています」と言っています。

証券監督者国際機構(IOSCO)は、2013年からグローバル流動性リスクガイドラインを公表しています。また、流動性リスクのコンプライアンスを定める米国証券取引委員会(SEC)規則22e-4は2018年12月に発効します。アジアでも、香港証券先物委員会(SFC)やシンガポール金融管理局(MAS)などの規制当局が、運用会社に対して自社ファンドに関連する流動性リスク管理強化の必要性を強調しています。

しかし、金融機関が流動性リスク管理システムを構築するにはコストと手間がかかります。実際に有効で文書化可能な流動性リスク管理プログラムの導入には設計、テスト、運用開始というステップが必要で、さらに規制の変化に対応して常に更新していく必要があります。また、現状および想定される市場環境に対応したストレステストを行って、ファンドの流動性構成を定期的に評価する必要もあります。

これまで保有資産の流動性を推計するにあたっては、銀行も運用会社もトレーダーの意見に依存してきました。定量分析に使用可能な大規模かつ透明性が高い公表データは存在しないため、ある証券が一定期間内にどの程度売却可能であるかを推計する唯一の情報はトレーダーの主観でした。

このことが、一貫性、再現性、ガバナンスの障害となりました。そのため、有効なソリューションの必要性がこれまでになく高まっています。フォスターはこう続けます。「資産の種類は増え続けています。しかし、現代のテクノロジーと技術をもってすれば、取引後および取引前の大量のレファレンスデータについて、その流動性を計測する正確で応答性に富み体系的かつ整合性が保たれたシステムの構築が可能です」。

運用会社は保有資産の流動性プロファイルを公表する必要があります。しかし規制当局はその方法の詳細を規定していません。その部分が運用会社に任されていることが混乱を呼んでいます。流動性とは主観的なもので、人それぞれで受けとめ方が異なるのです。

標準的な定義の一つは、「流動性とは、ある資産または証券が、その価格に影響を与えることなく市場で迅速に売買できるかどうかの程度をいう。市場の流動性とは、たとえばある国の株式市場やある都市の不動産市場において、安定した価格で売買ができるかどうかの程度をいう」というものです。

ブルームバーグは、価格や量、スプレッド、時間軸などを組み込んで市場の流動性を計測する分析ツールを提供しています。しかし現状の定義を使用したモデルでは、大規模な流動性シフトにより複雑なフィードバックのループが発生した場合、短期売買のみならず市場全体やその参加者の売買手法にまで影響を及ぼしかねません。

この問題に対処するため、IOSCOは2018年2月に最終報告書「オープンエンド型ファンドの流動性とリスク管理-グッドプラクティスおよび考慮すべき点」を公表しましたが、ルールを定めることは控えました。

投資家の資本をプールして現金より流動性が低い資産に投資することは流動性変換と呼ばれ、投資ファンドの構造上鍵となるプラクティスです。オープンエンド型投資ファンドの取引頻度(多くの場合は毎日)とポートフォリオが保有する資産の流動性の間に大きな乖離が起こりうる問題について、IOSCOは政策論議を提起してきました。ファンドの投資戦略、運用と解約条件の間に整合性を保つことは、規制当局と運用業界の双方にとって重要な共通目標となっています。

ファンドが保有する資産の市場における現在および将来の流動性を考慮しつつ、適切な水準の流動性を維持するためにファンドの流動性プロファイルを継続的にモニターすることは大変複雑な作業です。しかしながら、IOSCOが定めた要件は漠然としたもので、この点を考慮していません。しかし、多くの場合において、大規模なファンドの解約が流動性管理ポリシーの発動につながっていないことはIOSCOも認めています。さらに、資産価格や金融システム全体に大きな影響を及ぼしたこともありませんでした。

一方で、ファンドの流動性プロファイルに関するデータが蓄積されれば、より踏み込んだ、厳格かつ具体的な規制につながることは間違いありません。当局が規制できるのは計測可能なものだけであり、運用会社は新たな規制に必要となるデータを図らずも当局に提供しているのです。この規制の目的は、秩序ある市場および評価プロセスを通じて、解約請求がファンドの評価やボラティリティおよび他の投資家への悪影響を最小限に留めた形で遅滞なく行われるように図り、投資家を保護することです。市場の流動性やシステミックな安定性に対してファンドが銀行と同水準の影響を及ぼすかどうかは、金融業界においてまだ答えが出ていない大きな論点の一つとなっています。