原油と米国株が不安定な中、金は高値更新の余地

Read the English version published on April 8, 2025.

本稿はブルームバーグ・インテリジェンスのシニア商品アナリストMike McGloneが執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。

ブルームバーグ商品スポット指数は今年、主に金属価格の堅調な推移を背景に、3月28日までに約8%上昇しました。ただし、米国株式市場の下落が続けば打撃を受ける恐れがあります。米国が極めて異例な財政引き締めと関税政策を導入し、中国が経済刺激策への依存を強める中、今年は銅が金をアウトパフォームする可能性はあるのでしょうか。ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)は、金が有利とみています。ただし、金価格が1オンス3000ドルまで高騰した強気相場を維持するには、新たな材料が必要だとも考えています。最も望ましいシナリオは、米国株式や国債利回りがさらに下落することです。トランプ政権が目指すエネルギー価格と利回りの低下は、既存の市場トレンドによって後押しされている状況です。

CMEで取引されている銅は、3月26日に1ポンド5.37ドルの過去最高値を記録しましたが、2024年に5.20ドルのピークに達し、その後4ドル付近まで下落した時と同様の展開となる可能性があります。穀物については、南米からの供給が潤沢なため、コーンベルトで深刻な干ばつが起きない限り、価格は引き続き軟調に推移する可能性があります。

あの投資家も
ブルームバーグ

潤沢な供給と高騰する株価

金の上昇を第二次大戦後の世界秩序の変化と比較

金やその他商品価格は、米国株式市場に対して数十年続いていた低水準から脱しつつあり、今後の材料次第では、さらなる上昇余地があるかもしれません。米国の極めて異例な緊縮財政や関税政策のほか、日本で約30年前に起こった状況に似た中国のデフレ局面に伴い、2025年は貴金属が最もアウトパフォームする可能性があります。

正常化が近づく兆しか-金と米国株式の比較

米国株式市場があらゆる資産をけん引してきた状況は、ピークに達した可能性があります。商品にはデフレ的な影響が及ぶ一方で、金は例外となるかもしれません。BIのチャートによれば、金の1オンス価格をS&P500種株式指数で割った比率が0.50を突破しており、これは1972年と2007年以来の節目です。パンデミックやロシアのウクライナ侵攻は、マネーサプライや商品価格、資産価格を持続不可能な水準にまで押し上げ、歴史的なゆがみをもたらしました。例えば、WTI原油は2022年に1バレル130ドルにまで急騰しましたが、今年3月28日時点では約70ドルにとどまっています。

US Stocks/GDP, Gold/Stocks

原油と穀物は過熱した水準から妥当な価格帯へと調整が進んでいます。米国株式市場の時価総額対GDP比が2000年の高水準(1.5倍)付近まで低下した場合、好調な銅や非鉄金属も同様のデフレ的な下落圧力にさらされる可能性があります。今、問われているのは「この下落の動きをどうやって止めるのか」という点です。米国による未曽有の緊縮財政や関税政策は、通常の下落サイクルをさらに加速させる恐れもはらんでいます。

材料次第では大きな上昇余地

ブルームバーグ商品スポット指数やハンセン指数は、S&P500種株価指数に対して数十年間、割安な水準にとどまっていましたが、2024年に回復へのきっかけが見えてきた可能性があります。トランプ政権が掲げる緊縮財政と関税政策という前例のない組み合わせは、加速するデフレ的技術革新(例えば、中国電気自動車(EV)メーカー比亜迪( BYD)が発表した最新モデルはわずか5分の充電で約250マイルの走行が可能という技術の進展)と相まって、過熱した米国株式価格が正常化されることを暗示しているのかもしれません。50年間の推移を示すBIのチャートからは、中国株式や商品価格に本来の水準にまで回復するだけの大きな上昇余地があることが分かります。

Multidecade Commodity, Chinese Stock Lows vs. Beta

とはいえ、2009年から約10倍に上昇したS&P500種株価指数が一部でも調整局面に入れば、それこそが2025年におけるインフレの反動として、最も強力なデフレ圧力になる可能性があります。米国株式が安定した場合でも、エネルギーと穀物価格は依然として下落圧力を受けるとみられます。さらに、ベータ(市場全体のリスク資産)が継続的に巻き戻しを見せる場合、デフレが経済全体を支配する可能性があります。

商品の安定性:金が原油をアウトパフォーム

2025年の商品市場において、金は最も堅調なパフォーマンスを示し、一方で原油が最も出遅れています。米国株式市場が下落すれば、この状況はさらに加速する可能性があります。2008年以降、商品価格に継続的に見られるトレンドの一つに、金1オンスに相当する原油バレル数が増えている点があります。これは、米国政府の財政赤字の拡大とエネルギー供給過剰の両方が背景にあります。3月28日時点で金/原油比率は約44バレルと、17年前の最低水準である約7バレルから上昇しています。金が「価値の保存手段」として他の商品を上回るペースで上昇を続ける中、どうすればこの上昇は止まるのでしょうか。金の魅力を弱めるには競争環境の活発化、つまり米国金利や株式の上昇が必須ですが、金ETFに大幅な資金流入が見られることからも分かるように、現状は異なりつつあるのかもしれません。

US T-Bonds

リスク資産としての性質を踏まえると、ビットコインが10万ドルに達するという水準は、25年前にナスダック総合指数が5000ドルに達した状況にますます似通ってきています。

商品市場はインフレからデフレへ移行しつつあるのか

価格に対する供給の弾力性が最も高い穀物セクターは商品市場の年間パフォーマンスで最下位に沈んでいる一方で、貴金属が首位となっています。この状況は2020年から2022年にかけて生じた市場のゆがみに起因します。この傾向は、いつ、どこで転換するのでしょうか。トウモロコシ、大豆、小麦の価格が低水準から回復する際は、石油や天然ガスと似たパターンをたどる可能性があります。すなわち、供給ショックのような材料がない限り、価格は2019年の水準に向かって重力に引かれるように下落するリスクがあります。これは、WTI原油なら1バレル約57ドル、つまり米国の損益分岐点価格に相当します。

米国で取引される銅は2025年は堅調に推移する可能性がありますが、これには、まだ課されていない関税が価格を押し上げているという背景があります。3月26日に記録した過去最高値の1ポンド5.37ドルという水準も、2024年に5.20ドルが頭打ちとなったように、反落リスクにさらされる可能性があります。昨年の底値はおよそ4ドルでした。金の比較対象が銀、プラチナ、パラジウムの3種類に限られる一方で、ビットコインは無数の暗号資産の動きを左右しています。これを踏まえると、金はビットコインとは異なる特性を示す可能性があります。

What Stops Gold From Outpacing Most Commodities?
Index performance

ブルームバーグ ターミナルをご利用のお客さまは、BI <GO>で本リポート全文をご確認いただけます。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

免責事項

本資料に含まれるデータは情報提供のみを目的としています。ブルームバーグ ターミナルのサービスおよびブルームバーグのデータ製品(以下「本サービス」)は、ブルームバーグ・ファイナンス・エル・ピー(以下「BFLP」)が所有および配信しています。ただし、(i) アルゼンチン、オーストラリアおよび太平洋諸島の一部の法域、バミューダ、中国、インド、日本、韓国、ならびにニュージーランドでは、ブルームバーグ・エル・ピーおよびその子会社(以下「BLP」)がこれらの製品を配信し、(ii) シンガポールおよびブルームバーグのシンガポール・オフィスがサービス提供する法域では、BFLPの子会社がこれらの製品を配信しています。BLPは、BFLPおよびその子会社にグローバルマーケティング業務および運用支援・サービス業務を提供しています。特定の特徴、機能、商品およびサービスは、高度な専門的知識のある投資家のみを対象としており、許容されている場合にのみ提供されます。BFLP、BLPおよびそれらの関連会社は、本サービスに含まれる価格またはその他の情報の正確性を保証しません。本サービスのいかなる事項も、BFLP、BLPもしくはそれらの関連会社による金融商品の勧誘、または投資戦略もしくは金融商品の「買い」、「売り」、または「ホールド」に関するBFLP、BLPもしくはそれらの関連会社による投資助言もしくは推奨を構成するものではなく、そのように解釈されないものとします。本サービスを通じて提供される情報は、投資判断の根拠とするために十分な情報とみなされるべきではありません。以下は、米国デラウェア州のリミテッド・パートナーシップであるBFLPまたはその子会社の登録商標およびサービスマークです:ブルームバーグ、BLOOMBERG ANYWHERE、 ブルームバーグ マーケッツ、ブルームバーグ ニュース、ブルームバーグ プロフェッショナル、BLOOMBERG TERMINAL、およびBLOOMBERG.COM。登録商標またはサービスマークがこのリストに記載されていない場合も、その名称、マーク、またはロゴに対するブルームバーグの知的財産権を放棄するものではありません。無断複写・複製・転載を禁じます。© 2025 Bloomberg.

デモ申し込み