グローバルインサイト:マクロ予測における AI三大革命

Read the English version published on October 28, 2025.

2030年になっても世界は経済学者を必要とするのでしょうか。当事者としてはもちろん必要であってほしいですが、人工知能(AI)はすでに経済分析の手法を大きく変えつつあります。ブルームバーグ・エコノミクスの業務の経験と、関連文献のレビューの両方から、AIが三つの側面からマクロ研究と予測に変革をもたらしていることが分かります。

  • AIはデータの領域を拡大しています。中央銀行に関するニュースの自然言語処理から、公式統計データよりも優れた結果を出し得る衛星画像に至るまで、ブルームバーグ・エコノミクスは最新ツールを駆使し、非構造化データソースからシグナルを抽出しています。経済学者たちが複雑なデータセットを価値のあるインプットに変換して分析している方法について、以下に紹介します。
  • AIは業務を加速させています。データクリーニング、分類、コード作成といった労働集約的な作業の自動化により、AIはインサイトをより迅速に提供できます。これに伴い経済学者は、そのインサイトの解釈や戦略的影響の特定により多くの時間を割くことができます。
  • AIは計量経済学分析の精度を高めています。機械学習から大規模言語モデル(LLM)、時系列基盤モデルまで、さまざまなAI技術が非線形のダイナミクスを捉え、従来の手法の限界を超えた予測を可能にしています。

金融ストレスをより正確に把握できるようになった中央銀行や国際機関は、すでにこれらの新しいデータセットとツールを活用して、より的確に先を見据えた政策対応を策定しています。

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データギャップを埋める

経済学者はこれまで長い間、研究や予測にテキスト抽出を活用してきました。初期の応用例としては、経済不確実性(Bakerほか(2016年))から、中央銀行のセンチメント分析(Bulirほか(2012年))に至るまで、主にキーワードを数える手法に依拠していました。

今日では、自然言語処理や大規模言語モデルによって、はるかに豊かなシグナルを引き出せるようになっています。例えば、購買担当者景気指数(PMI)のコメントに基づくセンチメントスコアは、従来のデータと組み合わせることでGDPナウキャストの精度改善に役立ちます(de BondtおよびSun(2025年))。ニュースのトピックモデリングは、株式市場全体のリターン予測に貢献します(Bybeeほか(2023年))。また、言語モデルは、ニュースのヘッドラインを中央銀行政策の先行指標に変換します。これは、ブルームバーグ・エコノミクスによる中央銀行(米連邦準備制度理事会(FRB)、欧州中央銀行、イングランド銀行(英中銀))指数として実装されています。ブルームバーグ ターミナルをご利用のお客さまは、BECO MODELS CBSPEAK <GO>で、各中央銀行のセンチメント指数をご確認いただけます。

衛星画像も重要なデータソースの一つです。コンピューター・ビジョン・モデルは、道路、駐車場、農地などの解釈可能な特徴を使って、公式統計が捉えにくい、あるいは反映が遅れがちな情報を提供できます。例えば、ブルームバーグ・エコノミクスは夜間光データを使って月次のグローバルGDPトラッカーを構築しています。また、他の研究では、宇宙から観測した小売店舗駐車場の稼働率データが投資家に役立つこと(Katonaほか(2018年))や、港湾の占有率データのスナップショットがGDPや貿易状況のナウキャスト(短時間予測)に役立つこと(Speltaほか(2025年))を示しています。

強化されるワークフロー

AI は、経済学者が分析する対象だけでなく、経済学者の仕事のやり方も変えています。

  • ルーティン作業を自動化:データクリーニング、分類、特徴量エンジニアリングといったルーティン作業はAIに任せ、研究担当者は分析結果の解釈や戦略に専念できるようになりつつあります。
  • 反復作業をスピード化:文献の要約、計量経済のコード作成、仮定のストレステストなど、LLMは研究アシスタントとしての役割を強めています。生成AIを組み込むことで、プロジェクトの期間を数週間から数日に短縮できる場合があります(Korinek(2025年))。
  • 進化する共同作業ツール:AI駆動型プラットフォームは、データ・モデル・可視化を統合し、透明性と再現性のより高い研究パイプラインを構築します。

ブルームバーグ・エコノミクスでは、より幅広いモデル群を使い、作業を速め、研究結果の解釈に多くの時間を割けるようになりつつあります。

線形モデルを超えて

AIで計量経済モデルの予測力が高まっていることで、政策当局が金融リスクをより先回りしてモニタリングできるようになってきました。古典的な機械学習からトランスフォーマー型の基盤モデルまで、新たな手法では、非線形の関係も含むシグナルを捉え、ストレスイベントを早期に警戒できるシステムを構築できます。

  • Lasso、Ridge、Elastic Netなどの古典的な機械学習手法は、大規模データセットの処理に適しています。一方、ランダムフォレストや勾配ブースティングなど決定木ベースのアンサンブル手法は、マクロ経済の不確実性が高い局面で現れる非線形性を捉えるのに有効です(Aldasoroほか(2025年))。さらに、マクロ・ランダム・フォレストのような比較的新しい手法は、機械学習の柔軟性と経済モデルの構造を組み合わせ、時系列が短い場合でも従来の計量経済学手法を上回る成果を発揮しています(Chinnほか(2023年))。
  • ディープラーニングモデル(ニューラルネットワーク)は、為替のかい離予測(Aquilinaほか(2025年))など、より複雑で高次元なタスクにまでこうした成果を広げています。これらのモデルは、大幅な調整が必要とはいえ、非線形パターンや希少なイベントの特定に優れています(AtheyとImbens(2019年))。
  • テキストベースの大規模言語モデルやNLPシステムは、ニュース、政策声明、企業報告といった非構造化ソースからセンチメントや情報を抽出します。これを数値データと組み合わせることで予測精度を高めることができます(de BondtとSun(2025年))。同様に、TimeGPT(Nixtla)、Moirai(セールスフォース)、TimesFM(グーグル)などの時系列基盤モデルは、経済予測にトランスフォーマー型アーキテクチャを適用しています。これらは現時点ではベイジアンVARのよう従来の計量経済分析手法を上回る水準には至っていないものの、、予測の柔軟性とモデル構造を組み合わせることで、さまざまな変数や期間で精度の向上が見られます(Carrieroほか(2025年))。
  • 一部の研究では、LLMをそのまま予測モデルとして使う試みもありますが、LLMは、確実な「ポイント・イン・タイム(ある時点のデータ)」を使うという概念が無いため、将来を予測するというサンプル外評価では信頼性に課題があります(Lopez-Liraほか(2025年))。現在の最前線は、むしろ、構造経済学の解釈可能性と、AIの適応力やデータ駆動の強みと組み合わせた、ハイブリッド型手法にあるといえるでしょう。

中央銀行や国際機関も、金融ストレスを予測するために、これらのAIモデルをますます活用するようになっています。例えば、欧州中央銀行のCassandraシステムは、言語モデルを微調整して金融ニュースのセンチメントを分析し、その結果にブースティングとニューラルネットワークの手法を適用して、銀行への早期警戒シグナルを検出します(Petropoulosほか(2025年))。

同様に、BISの研究(Aquilinaほか(2025年))では、再帰型ニューラルネットワーク(RNN)とLLMと組み合わせて、為替市場ストレスの事例を予測・解釈します。BISのシステムでは、定量的な評価と金融ニュースの定性的な解釈を組み合わせることで、最大2カ月先のストレスイベントを予測します。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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