IBOR移行、本腰を入れるべき時期

Read the English version published on May 05, 2021.

この記事はManesh Samtani が Regulation Asia のために執筆し、ブルームバーグはライセンスを受けています。

ブルームバーグ、Standard Chartered Bank, ING Bank and Clifford Chance各社の専門家がIBOR(銀行間取引金利)移行をめぐる課題とその対応方法について解説します。

ブルームバーグとRegulation Asiaが共同主催したバーチャルイベントに出席したパネリストらは、3月初旬に英国FCA(金融行為監視機構)がLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)廃止に向けたスケジュールを発表したことで、市場が必要としていた明確さが提供されたと考えています。

その結果、金融機関でIBORの移行プログラムが加速しています。セルサイドの企業の大半では既に移行プログラムは比較的整備されていますが、これまで移行に遅れが生じていたバイサイドでは特に明確さが必要とされていました。

惰性を突き破る

「スプレッド調整が明確にされたことはバイサイドにとって有益でした。様子見をしていた企業や[ISDA]プロトコルに時間をかけていた企業も本格的に動き出しています」と、 Clifford Chance.のパートナー、Paul Landless氏は述べています。「ここ数カ月間見られた惰性を破るという点で、有益で必要な瞬間だったことは確かです」。

ただし、Landless氏によれば、アジア太平洋地域のバイサイドはそれでもまだ、規制当局からの正式なガイダンス(例えばCEO宛ての書簡など)を必要としています。アジア太平洋地域の中で今のところバイサイドの企業に規制当局が働きかけている国の1つは、オーストラリアです。Landless 氏は、同地域の他国の規制当局もそれにならって、今後バイサイドの業務対応に注目を高めるだろうとみています。

Landless氏は、LIBOR以外の金利に変換できない、あるいはフォールバックを追加するように修正できないLIBOR契約について、「英米に比べてまだ欠落している問題の1つは、(移行が実務上難しい)『タフレガシー』商品に関する協議だ」と指摘しています。アジア太平洋地域の規制当局がタフレガシー商品に関してもっとガイダンスを増やすことが予想され、また、一部の市場参加者はそれを期待しています。

ING BankのアジアIBOR移行プログラム統括、Henry Vu氏はアジア太平洋地域の中でも、国によって進行ペースが異なっており、特に香港や日本など一部の市場では複数の金利体系が採用されていることを指摘、「さまざまな国でマイルストーンやガイダンスの調和という点で、全般的に整合性の欠如がみられる」との見解を示しました。

パネリストらは、香港で新たなLIBORベースの契約を終了する期限が6月末から12月末まで延期されたことは、市場が必要としていた救済を意味するもので、銀行にとって、新たなRFR(リスク・フリー・レート)商品を設計し、コンプライアンスの承認を得て内部態勢の準備が整っていることを確認するための時間ができたと考えています。

ブルームバーグのスペシャリストは、銀行への取材によって、最終顧客の間では新規RFR関連商品に関する認識と理解に深刻な欠如が見受けられ、対処の必要があることが明らかになったと述べています。期限が延長されたことで、銀行はRFR商品とその特徴について顧客に説明する時間を手に入れたことになります。

変化に対する慎重なアプローチ

どの国でも、銀行にとって主要な課題の1つは、特に市場にさまざまなRFR商品が出回り、市場慣行も多岐にわたることから、IBOR移行に備えてテクノロジーとインフラの準備を確実に整えることです。各行は、それぞれのベンチマークのビジネスケースに基づいてシステム開発を計画し、優先順位を決定しなくてはなりません。

パネリストらは、最初のステップは自行のエクスポージャーを理解することであるとし、商品の分類、償還期限の分布、為替リスク、その他の要因を考慮した全体的なアプローチを推奨しました。インフラ計画の観点から見ると、要件は何かをはっきりさせて、できる限り早急に必要なリソースを確保することが重要です。

ブルームバーグのスペシャリストは「アジアでの商品開発要件が正しく認識されるよう、社内でリソース獲得に向けて戦うことに躊躇しないように」と助言しています。

パネリストらは、時間、リソース、予算、人材が制約されれば、開発の進行が妨げられる恐れがあり、場合によっては、システム開発においてわずかな数のコンティンジェンシーに対応するだけのリソースしか銀行にない場合もあるとしています。

また、これらのシステムが、例えばロックアップ期間やタイムラグの計算方法、あるいはスプレッド調整の適用方法など、マイナーな変更にも対応できるようにしておくことが重要です。インフラシステムの設計において柔軟性を確保するということは、企業が新たな市場慣行と、やがて見えてくるトレンドや市場で受け入れられるようになり始めたトレンドに順応できることを意味します。

Vu氏は、システム開発の計画策定と優先順位決定のためだけでなく、新たなベンチマーク導入のためにもビジネスケース確立に向けて銀行のエクスポージャーを理解することの重要性を強調しました。同氏は、新たなRFRのほかにも、BSBY(ブルームバーグ・ショートターム・バンクイールド・インデックス)やICEバンク・イールド・インデックスなど、信用リスクを反映した金利がやがて採用されるとみています。

同氏は、「期間構造(タームストラクチャー)や信用リスクのエレメントという点で、一般的には依然として見た目も中身もLIBORとそっくりな金利が好まれています。問題は、これら信用リスクを反映した金利がどれだけ堅牢か、という点です。IOSCOコンプライアンスとEUまたは英国BMRコンプライアンスを取得したベンチマークは幅広く採択されるようになるでしょう」と述べています。

パネリストからの主要メッセージは「手をこまねいていてはいけない」というものでした。企業はできる限り早急に、移行に向けて積極的に取り組む必要があります。

Vu氏は「既に数多くの発表があり、ベストプラクティスやツールキット、ガイダンス、文書、フォールバック文言なども提供され、市場参加者にとってかなり見通しははっきりしているはず。現段階では、移行に向けた実行と運用、そして顧客の啓蒙に注力すべきです」と述べました。

日本語ブログ記事をメールでお届け ニュースレターご購読はこちらから

本腰を入れる

本バーチャルイベントでの2つ目のパネルディスカッションでは、RFRへの移行におけるリスクマネジメントの課題を中心に協議しました。ブルームバーグの専門家によれば、最も影響を受けるリスクのタイプはバリュエーションと市場リスクです。

RFRへの移行によって、カウンターパーティーの信用リスクを考慮したバリュエーション調整も含め、商品のバリュエーションが影響を受けることになります。市場リスクという面では、企業はベーシスリスクにさらされることになり、それが市場のボラティリティと流動性に影響する可能性もあります。これは、資本コストの計算も含めた市場リスク関連モデルにも影響します。アジア太平洋地域では、現地のIBORがRFRと共存するため、ベーシスリスクがより困難な課題になっていると思われます。

金融機関は、RFRインデックスとカーブ、ボラティリティがリスク要因としてすべての市場リスク指標に含まれていることを確認する必要があるでしょう。ブルームバーグの専門家によれば、社内モデルのアプローチを採用する銀行は、新たなRFRカーブのため、これら市場が存在すらしなかった2007-08年までさかのぼって適切なリスク要因の時系列を見つけ出す必要があります。

Standard Chartered Bankのマクロ・ストラクチャリング部門グローバル統括兼マネージング・ディレクターのMathieu Lepinay氏は、IBOR移行において最も管理上の問題が少ないとされる金利スワップ商品ですら、市場リスクの課題があると指摘しました。具体的には、アジア太平洋地域で幅広く使われているクロスカレンシー・スワップの移行は、新たなベンチマークに移行するレッグが2つあることが課題となるでしょう。

Lepinay氏はまた、金利キャップやフロアー、スワップションについても、バリュエーションの大きな変化が課題と指摘、「おそらく、これらの契約は自動的に移行するだろうと考えて放置するべきではなく、もっと前向きなアプローチが必要かもしれない」と述べました。

同氏はまた、移行においてさらに難しい課題としてベーシスリスクを指摘しました。ベーシスリスクとは、現物商品(ローンなど)と、その市場リスクをヘッジするために使われるデリバティ商品との間でミスマッチが生じるリスクのことです。

Lepinay 氏は、「既に利用可能な、単純なソリューションの1つは、例えば米連邦準備制度理事会(FRB)がSOFRで利用可能にしているようなタイプの指標を使うことだ」と述べています。その指標とは、過去30日、90日、180日(暦日ベース)の複利平均SOFRのことです(SOFR平均)。

同氏は、ローンとスワップ双方にこの指標を使えば、ベーシスリスクを最小限にできるとし、「時間は刻一刻と過ぎていく。重要なのは前向きに取り組むことだ。前向きに取り組めば、ネガティブサプライズのリスクを抑えられる。様々な種類の取引、決済、異なるシステム間における接続性の問題などを検討する中で、今でも毎日のように、新たな発見がある。自らの手を動かし、本腰を入れて移行準備に取り組むことが非常に重要」と述べました。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。