ビジネスの枠組みに柔軟性を:シンガポールに見る新時代の規制対応ベストプラクティスとは

投資家保護と透明性向上を求める規制強化の動きがグローバル市場で強まる中で、市場参加者がデータを分析して最良執行を実行しつつ急速に変化する規制環境に対応していくためには、テクノロジー主導の高度なソリューションが求められます。

規制対応の鍵としての柔軟性

アジアの規制当局は、グローバルな規制の動向に留意して自国への導入を検討していますが、その際には国内事情に適合させることも必要になります。新たな規則は往々にして明確性に欠ける場合があるため、市場参加者は規制要件を適切に順守しつつも、自社の環境に最も適した対応を柔軟に解釈する余地が生まれます。

シンガポール通貨監督庁資本市場政策局の Ken Nagatsuka氏は、ブルームバーグが最近主催した規制サミットで次のように述べています。「シンガポールでは最良執行を奨励していますが、具体的な方法についての規則はまだありません。各社で適切なものを導入してください。」

シンガポールにおける最近の規制動向について、Sidley Austin法律事務所のパートナーでアジア投資ファンドプラクティスの共同ヘッドであるHan Ming Ho氏は、証券監督者国際機構(IOSCO)などのグローバルスタンダードをシンガポール企業が導入する方向に当局が誘導していると考えています。その一例として、IOSCOをベースとして最近公表されたカストディアンのデューデリジェンスおよび開示強化のプラクティスに関するガイダンスを挙げました。

柔軟な解釈が許容されることは便利ではあるものの、コンプライアンスの観点からは曖昧さが残ります。そうした際に高品質のデータがあれば、柔軟な解釈の正当性を精度をもって説明することができるようになります。

このため今後は、テクノロジーを活用して新たな規制を順守しつつベストプラクティスを達成しようとする金融機関の増加が予想されます。Nagatsuka氏は次のように述べています。「電子プラットフォーム上での取引執行を推奨しています。データに基づけばよりよい意思決定が行えますし、得られたデータを使って調整を加えることにより我々の規制がよりよいものになります。」

データを用いたベストプラクティスで規制に対応する

新たな規制の導入は一時的なものと思いがちですが、実際には継続するプロセスと考える方が正確です。新たな規則が柔軟に解釈可能なように見えたとしても、当局が監督重視に舵を切りつつある中で、完全順守が求められるからです。

生の取引データを提出することはほとんどの市場参加者にとって簡単なことかもしれません。しかしこれからは、どのようにデータを捕捉、整理、保管しているかがより重視されるようになります。十分なシステムの備えがない企業にとっては、個別取引やテーマ別レビュー、市場調査などの当局からの問い合わせが早晩頭痛の種になると予想されます。

規制当局は、最良執行に関するデータを実際のプロセスや政策に反映させようとしています。Nagatsuka氏が言うように、データによって規制がよりよいものになるのであれば、アジアの市場参加者に求められているのはこの複雑な要求に対応可能な新しいツールです。

最良執行の枠組みを常に改善

最良執行は当局が最も関心を持つ点の1つですが、データに大きく左右される曖昧な概念であり、各種要素(価格、コスト、スピード、執行・決済の確実性、注文数量、取引の性質など)を組み合わせて考える必要があります。

金融機関は最良執行に関する規則と手続きを制定するのみならず、その枠組みの中で取引を監視・検証することが求められます。また、顧客に対して最良執行を証明するエビデンスを提出することも必要です。

ここで最も問題となるのがコストです。どのようにすればコスト効率よく最良執行を証明できるでしょう。取引ごとの条件は、取引前のリサーチや数量に関する検討からタイミングや決済に関する打ち合わせに至るまで、それぞれ異なっています。企業にとって最も重要なのは正確な取引コスト分析を行う能力を備えることです。

ブルームバーグのような電子ソリューションを使えば、規制基準全般にわたる数多くのカスタマイズグルーピング機能によりブローカーのパフォーマンスを評価することができます。データを活用すれば、カウンターパーティーの競争力評価や不審な取引の調査などチェックすべきポイントが見えてきます。

コンプライアンスに適合した通信手段の必要性

バイサイドの重要性が高まる中で運用会社は新たな規制への対応に頭を悩ませていますが、その多くは通信手段とデータコンプライアンスのベストプラクティスに関するものです。

データ保管で最も重要なのは不変性、言い換えればWORM(Write Once Read Many)ストレージです。データの信頼性を確保するためには、一体性が保証された形でデータを保管する必要があります。取引や通信に対応したソリューションは数多くありますが、ファイルや文書を安全に保管してくれるソリューションはほとんどありません。

次の問題は、コンプライアンスを目的とするデータアクセス権限の確立です。多くの企業が異なるシステムをつなぎ合わせ、さまざまな権限レベルによって保護して使っています。しかしこれでは、コンプライアンス部門が規制対応のために必要なデータにアクセスし、照合・確認することが難しくなります。

さらに問題を複雑にしているのがさまざまな通信手段の普及です。従業員によるソーシャルメディアやアプリを使った通信が増加していますが、これについてはコンプライアンスの観点からも使用に関する規則の制定が必要です。

メッセージをデータとして活用してコンプライアンスおよび記録保存の要件を満たすレポートを作成する統合ソリューションが、サードパーティープロバイダによって開発されています。同じソリューションを使用して、不正な取引を発見したり、異なる法域をまたいでリスクファクターを検証したりする機能をカスタマイズすることもできます。

コンプライアンスと業務効率の両立

最近のブルームバーグの調査によると、ファンドマネジャーの9割が自社のオンボーディング作業の遅れから取引を失ったことがあることが明らかになりました。デジタル化が進んだ市場においてアナログ作業は急速に姿を消しつつありますが、口座開設に必要なペーパーワークだけはいまだに残っています。あらゆる金融機関が顧客に対して国ごとに異なる要件を定めている上に、すべての市場参加者が各国監督当局の規制に服しているからです。

デジタル顧客確認ソリューション(e-KYC)を使えば、安全かつポリシーに捉われないデータ管理プラットフォームを使って、オンボーディング作業を円滑に進めることができます。セルサイド、バイサイド双方の企業がリスクを管理し規制を順守しつつ、取引関係を速やかに構築することができます。

まだ始まったばかり

アジアの金融業界はデータの重要性を認識してはいるものの、規制とコンプライアンスがまだその流れに対応できていないこともあり、データ主導のビジネス構築はまだ始まったばかりです。

こうした状況下、金融機関は流れの一歩先を行き、データの収集から分析、保管、維持に至るまでのデータエコシステム全体でベストプラクティスを導入する必要があります。強力、安全かつアクセスが容易なデータ管理システムを備えるのみならず、現状や将来のオペレーションの適合性を確保し、究極的には規制要件に効率的に対応可能な企業カルチャーの醸成が求められます。