FRTB最後の課題、債券ファンドの取り扱い

Read the English version published on January 12, 2021.

本稿はブルームバーグのマーケットリスクプロダクトの責任者であるEugineSternが執筆しました。

トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)を適用するにあたり、他社のファンドやインデックスは最も扱いが難しい分野と考えられています。しかし一口にファンドと言っても、このカテゴリーは幅が広く、用途もモデル化の課題もさまざまです。FRTBの適用期限が近づきつつあるため、銀行はファンドについて直面する問題を具体的に把握しなければ、それに対応する時間がなくなる恐れがあります。

最も扱いが困難なサブカテゴリーの1つが債券ファンドです。本稿では、銀行が直面する具体的な課題をより深く理解できるよう、FRTBによる資本賦課に対応するための債券ファンドのモデル化で生じる主な課題を見ていきます。

一般的に、銀行がファンドのエクスポージャーを持つようになるのは、損失を限定するためのフロアを設定した分散型の債券投資を投資家が求めた結果です。ファンド運用会社は、値下がりに対するプロテクションを個々のファンドまたはファンド・バスケットのレベルで備えた分散型債券ファンドを提供することでそのニーズに応えます。すると、多くの銀行はファンド・デリバティブのマーケットメイクを行います。銀行が売る、リスク管理に役立つプットオプションは、ファンド運用会社によって投資家に販売されます。

このプロセスはリスク移転にほかならず、金融仲介のサクセスストーリーになることもあれば、厳しい教訓になることもあります。リスクの評価、移転、管理が適切に行われればハッピーエンドになるでしょう。しかし2007-08年の金融危機では、リスク移転の結果、リスク管理ができなかった、あるいはそれをしなかった金融機関の帳簿に多くの証券化商品が残されました。こうした経験は、ハッピーエンドが保証されているわけではないことに気づかせてくれます。この危機から学んだ(と思われる)教訓は、リスク移転でリスクを曖昧にしてはいけないということ、ならびにリスク移転を行うには、根源的なリスクが把握できるように対象資産の完全な透明性と情報開示が求められるということです。

ストーリーの最後に登場するのは、規制・監視当局です。その責務は、多数の投資家のリスクが集約される個々の銀行の健全性を保つことと、金融システムにリスクが波及しないようにすることです。前回の金融危機から得た教訓を踏まえ、FRTBに基づく資本賦課の枠組みにおいては、標準的手法(SA)では明示的に、内部モデル手法(IMA)でも黙示的に、透明性に重点が置かれています。SAでは、構成銘柄に基づいてファンドのエクスポージャーをモデル化する(ルックスルー)方式が銀行に対し強く奨励されています。一方、IMAで構成銘柄レベルのモデル化をするには、まずモデルの承認が必要となります。

FRTBに基づくファンドのモデル化について過去1年間に銀行の間で交わされた真剣な議論から明らかなのは、ファンドを前回の危機における証券化に例えるのが妥当だということです。つまり、銀行はファンドを原資産とするオプションを売る際、そのファンドについて、ファンド運用会社ほど情報を十分持ってないことが多いという問題です。特に債券ファンドの場合、FRTBによって以下のような課題が提示されています。

1. アセットクラスにおけるハイゼンベルクの不確定性原理

大まかに言って、債券ファンドは株式など他の一般的な投資商品よりもリスクが小さくなるように作られています。しかし資本賦課を算定する上では、ファンドのリスク量を規定に基づいて判断するのではなく、直接測定する必要があります。銀行がファンドの保有銘柄を少なくとも何らかの形で示すことができない限り、SAではファンドをリスクウエートが最も高い一般的な保有株式として扱うことになります。

2. 構成銘柄ごとの計算の負担

債券ファンドは規模が大きく、CMOをはじめとする複雑なストラクチャーを持つ金融商品を含め、何千もの債券やモーゲージのポジションを持つものが多くあります。1つのファンドでも、完全なルックスルー方式でモデル化するときの計算負担は小さな銀行のトレーディング勘定全体に匹敵することがあります。銀行によっては、計算の負担だけを理由にファンドのモデル化にIMAではなくSAを採用しています。

3. 重層的なルックスルー

ファンド運用会社は常に運用方針に従って保有現金を全額投資に充てているとは限りません。特定のファンドに余剰現金があると、それを同系の別のファンドに割り当てることはよくあります。ファンド運用会社にしてみれば、これは単純なことですが、銀行の自己資本算定モデルにとっては悪夢となり得ます。重層的なルックスルーが必要になるからです。つまりファンド内のファンドに含まれるファンドにまで目配りしなければならないのです。これによりファンドのモデル化に必要とされる保有資産のデータ量も分析の幅も格段に大きくなる可能性があります。

4. リスク管理用デリバティブ

ファンドはリターンだけでなくリスクにも配慮しなければなりませんが、債券ファンドは極めて進んだリスク管理体制を持つのが一般的です。このことは投資家には好都合ですが、銀行でファンドのマーケットメイクを担当する部署にとっては、やはり頭痛のタネになります。この部署はファンドが収益を期待する債券とモーゲージについても、ファンドがリスク管理に利用しているデリバティブについても、モデル化を行う必要があります。こうした状況はデータの問題であると同時に分析の問題でもあります。なぜなら、これらのデリバティブを明示的に説明し、中核的な保有債券と整合する形でモデル化する必要があるためです。これに対応するには、さまざまな商品やリスクのタイプにわたって一貫性を保つためにアセットクラス横断的なリスク管理プラットフォームが必要となります。

5.ファンドを原資産とするデリバティブ

最後にもう1点指摘すると、銀行のマーケットメイク担当部署はファンドのエクスポージャーを持つだけでなく、これらのファンドを原資産とするデリバティブの売りポジションを持つのが一般的です。こうしたデリバティブには、ファンド・バスケットに対するプロテクションを提供するワースオブ・プロテクションなど複雑なものもあります。こうしたデリバティブ評価のモデル化には、まずリスク要因に対するファンドの感応度を計算し、次にファンドの値動きに基づいてデリバティブを評価するという複数な段階を踏む手法が求められます。

上記の課題一覧は全てを網羅しているわけではありませんが、これを見れば、マーケットリスクに対する資本賦課を目的とした債券ファンドのモデル化にはデータと分析を扱う包括的なプラットフォームが必要であることが明らかでしょう。ブルームバーグでは、お客さまがこうした課題に対処するのを支援しています。

  • 具体的には、弊社独自のマーケットリスク分析プラットフォームであるマルチアセット・リスクシステム(MARS)とそのFRTB-SA資本モジュールに、ファンドとインデックスの構成銘柄データを組み込むことで適切な評価を実現します。MARSには次のような強みがあります。
  • MARSをご利用でファンドのエクスポージャーを持つお客さま向けに、ファンドの構成銘柄に関するブルームバーグの膨大なデータセットが自動的にMARSに投入されます。
  • 以下の特長を生かして、MARSのプラットフォーム上でファンドの各構成銘柄が個別にモデル化されます。
    ・ 証券化商品を含む複雑な債券を分析できるプライシング・ライブラリー
    ・大型ポートフォリオのスケーラビリティに対応できる、リスク計算を並列処理する分散計算グリッド
    ・アセットクラス横断的な枠組みは、一貫性のある市場データにアクセス可能で、債券とデリバティブの損益相殺を捕捉できるマッピング機能を整備
  • 重層化したファンドの保有資産を個々の銘柄まで完全に分析できます。構成銘柄は完全なルックスルー方式で、必要なだけ詳細にモデル化されます。
  • DLIBスクリプト言語を使用すれば、ファンド・バスケット・デリバティブのような仕組み債をモデル化できます。
図1. 多くの債券ファンドには、複雑な証券化商品を含む数千もの銘柄が組み込まれています。MARSは、こうした多くのファンドのポートフォリオをルックスルー方式で評価して、FRTBに基づく自己賦課を算出する分析能力とスケーラビリティを持ちます。

FRTBの適用期限が迫る中、ブルームバーグは、ルックスルー方式の評価に必要なデータに加え、構成銘柄レベルのリスク特性の分析に求められる分析精度と計算能力を提供することで、リスク管理と資本賦課算定を目的とした銀行のファンド・エクスポージャーのモデル化を支援しています。さまざまな課題がまだ残されていますが、2007-08年の金融危機の再発を防ぐという基本的な目標は、これまでと同様に重要であり、おそらくはこれまで以上に達成に近づいていると考えられます。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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