機械、造船プラント、産業エレクトロ ニクス業界のESG評価

本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニア・アナリスト北浦岳志および本間 靖健が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。【ブルームバーグターミナル用リンク】(09/10/21)

機械セクターESG:環境、労務、品質課題の改善が鍵

機械、造船・プラント、および産業エレクトロニクスセクターのESG(環境・社会・ガバナンス)評価は、今後も企業努力により改善が進むと思われます。サステイナリティクスのリスクスコアでは、キーエンスが最もリスクが低く、開示の拡大次第ではさらなる改善の可能性もあります。これまでの議論では脱炭素に向けた環境が中心でしたが、労務・品質問題を含むS(社会)やG(ガバナンス)の注目度も高く、数値による横軸比較では十分状況を把握できないことも明らかになっています。各社特有の課題や改善の経過は引き続き注視する必要があり、開示の改善とともに、その内容も重要と言えるでしょう。日本の製造業が誇る高品質は、管理面での不正の撲滅が課題です。過剰労働を含めた労務環境の改革や経営層におけるガバナンス体制等の改善も、今後各社の事業持続性に影響を及ぼすこととして注目していく必要があります。

機械・工業セクターESG:リスクが低いのはキーエンス

ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)がカバーする日本の機械、造船プラント、産業エレクトロニクスセクター企業をサステイナリティクスのESGリスクスコア順に並べると、キーエンスが最も低リスクとの評価となりました。事業領域が工場自動化などプロセス改善製品であることや、自社工場を持たないことも一定の評価につながっている可能性があると思われます。同社は法令順守や必要開示を実施している印象であり、ブルームバーグの開示スコアに示される開示水準は低いものの、事業面でのリスクの低さは評価されているようです。セクター全体としては、製造業が中心であるため環境面での課題は多く、脱炭素に向けた努力や目標設定と目標管理が引き続き注目されることになるでしょう。S(社会)とG(ガバナンス)においては、環境問題も含め工業化時代から循環時代への転換が急務となっており、事業構造の変革が求められるでしょう。労務問題や製品品質面を担保するガバナンス体制の強化も、セクターに重要な課題です。

アジア⼯業セクターESGスコア

Source: Bloomberg Intelligence, Company Filings

ESG特集 2021 Vol.1: 脱炭素社会へ向けて加速する産業界 リポートを読む

E(環境):脱炭素はスコープ3を含めた全体削減トレンドに

脱炭素は従来、自社が製品製造などで排出する温暖化ガスの排出削減が中心でしたが、自社製品が顧客での使用時に排出する温暖化ガス等「スコープ3」も削減目標に織り込む傾向が強まっています。コマツは鉱山機械を製造販売していますが、排出される二酸化炭素(CO2)の9割が製品稼働時に排出されると説明しており、生産時のみならず、顧客での製品稼働時におけるCO2排出の削減も目指しています。それに伴い、主要鉱山企業と「コマツGHGアライアンス」を立ち上げ、顧客と一体で電動化ソリューションを検討していく考えです。また、電力駆動の装置を事業の中心としている企業は、三菱重工業、IHI、川崎重工業、東芝などが目指す水素、アンモニア活用による発電から、脱炭素の恩恵を享受できるでしょう。火力中心の日本の発電におけるCO2排出削減は電気駆動製品稼働時のCO2削減に直接つながるため、業界としてのメリットは大きいでしょう。自社製品の製造から、使用時、使用後におけるCO2削減まで考慮した排出削減が業界全体での標準となっていく可能性が高く、企業間協力なくして削減は進まないと言えるでしょう。

サプライチェーン排出量のスコープ1、2、3

サプライチェーン排出量のスコープ1、2、3

Source: Ministry of the Environment

S(社会):製造業では労務環境、安全、品質が喫緊の課題か

ESGのS(社会)における課題は多岐にわたるが、製造業では、労働環境、品質、安全が特に重要な課題と考えられます。労働環境では、調達に関わる人権問題の管理も重要でしょう。製品品質では、日本企業は従来、生産時の多様な変動要因をシックスシグマを代表とする統計手法で管理し、様々な要因の安全しろの積み重ねを高い品質水準につなげてきました。管理項目の多さが一部負担となり、昨今の品質不正につながっている向きもあり、各企業管理の再点検が急務と言えるでしょう。また、新興国企業との競争が激化する中で、必要品質に対しての、デジタル化を含めた管理基準適正化もコスト面で重要でしょう。品質管理を積極的に実施しているコマツは、品質部門を製造部門から独立した組織としています。不正の発見が続く三菱電機も品質保証専門部門を設置、社外人材をトップに置くと日本経済新聞記事で漆間社長がコメントしています。

労務問題では、企業文化の変革が必要であり改善には時間を要するが、従業員アンケートを積極活用し、改善策と効果の管理を遂行するのが効果的でしょう。オムロンのように従業員満足度や回答率、個別コメントの開示を行っている企業も増えています。

機械セクターに特に重要な社会課題

機械セクターに特に重要な社会課題

Source: Bloomberg Intelligence, METI

G(ガバナンス):スコアでは日立が突出、東芝と三菱は改善の兆し

ESGにおけるガバナンス関連の指標(2020年度)がカバレッジ企業の中で平均を上回っている項目が多いのは日立製作所であり、開示水準、独立取締役比率や女性役員の登用を含め、平均を上回っています。総合的なESG評価でそれほど振るわない背景には、事業そのものが多岐にわたるため、環境課題などリスクへのエクスポージャーが大きいこともありそうです。また日立は、製造業ではまだ少ない指名委員会等設置会社であり、よりガバナンスが機能すると言われている形態をとっています。東芝や三菱電機も指名委員会等設置会社であるもののガバナンスには課題があるとみられ、単純な組織形態だけでは議論は難しいでしょう。

東芝の社外取締役比率は今期の株主総会後で75%と引き続き高く、取締役人数は一時的に8名になっていますが、今後臨時総会で追加が計画されており、引き続きガバナンス強化に取り組むとみられます。ガバナンス改善が急務となっている三菱電機も、社外取締役を過半とする可能性が日本経済新聞で報道されています。全体として、ダイバーシティ(多様性)の観点から社外取締役比率や女性役員比率の改善は必要でありますが、候補人材の確保が引き続き課題と言えるでしょう。

機械セクターカバレッジ企業ガバナンス評価

機械セクターカバレッジ企業ガバナンス評価

Source: Bloomberg Intelligence, Company Filings

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