本稿は、ブルームバーグのアジアパシフィック・ガバメントリレーションズ・ヘッドであるNitin Jaiswalにより執筆されました。英語原文はこちら。
ESGは投資の分野でいま世界的に最も注目が集まっていて、最近はアジアでも人気が高まっています。そうした中で、以前は課題であったESGのデータ不足は既に解消されています。「ビッグデータ革命」のおかげで、企業による自発的なESGデータ開示の進展をはるかに上回るスピードで、それ以外のソースからのESG情報が増え続けているからです。
最近シンガポールで開催されたブルームバーグ女性バイサイドネットワークのイベントで、MSCIのESGリサーチ担当マネージングディレクターであるLaura Nishikawa氏は、環境、社会、ガバナンス(ESG)には2つの側面があると指摘しました。1つは投資ポートフォリオを構築する上でのリスクとリターンに関する経済的な側面であり、もう1つは、責任投資を行う上での非財務的な目標という一部の投資家の価値を重視する側面です。
ESG投資が急速に変化するアジア
ESG投資はアジアにおいて急速に成長し、かつ変化しているとMSCIでは見ています。ESG投資が最も盛んなのは北欧ですが、欧州の考え方はアジアには適合しません。さまざまな国があり国ごとのESG普及度も異なるアジアにおいては、地域独自のモデルを開発する必要があります。
その中で日本は主導的な立場にあります。世界最大の年金基金で1兆3000億ドルの運用資産を有する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、保有する日本株のうちESG資産の比率について10%を目標にすると公表しました。また、ブルームバーグが最近行った調査では、香港のバイサイド専門家の46%が、現在のESGの重要性は3年前より高まっていると回答しました。中国も大きな可能性を秘めています。中国投資を考える中国人投資家および外国資本がESG投資の検討を始めており、ゲームチェンジャーになる可能性があります。
投資家はガバナンスに最も強い関心
政府も、スチュワードシップコードの策定を通じて、ESG投資推進の後押しをすることができます。しかし、企業にとって自社のESGプロフィールを向上させる動機となっているのは投資家および株主であり、政府ではありません。ESGのGを表すガバナンスについては、一貫性があり安定したデータが得られるために、世界的に最も強力なファクターであり、投資家も最も強い関心を持っています。
定量的計測と定性的計測
ESGに関するデータ情報源の数は著しく増加しましたが、それでもなおデータの品質と重要なシグナルの抽出方法は課題です。投資家がより明確なシグナルを見いだすことができるように、企業は定量的ESGデータの開示を増やし、シナリオ分析と戦略のレジリエンスについて徹底的に研究すべきです。既存の開示プロセスの中でより効果的な気候関連財務情報を作成するにあたっては、マイケル・ブルームバーグが議長を務める気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)が有益な枠組みとなります。
アジアでもESGが重視されるようになってきました。さまざまな国があり国ごとのESG普及度も異なる中で、他市場とは大きく異なるアジア独自のモデルが開発されつつあります。データ管理などの課題もありますが、ビッグシグナル革命においてはテクノロジーが役に立ちます。資産運用会社は、膨大な量のESGデータを解明して有用なシグナルを抽出し利益につなげる方法を開発する必要があります。