ETFの執行戦略を強化するには

Read the English version published on November 3, 2021.

2021年はETFが好調です。欧州では9月までのETF市場への資金流入額が1200億ユーロを超え、すでに暦年ベースの過去最高記録を更新しています。

流入額と並行して、ETFの取引高や新規上場件数も増加傾向にあります。テーマ型ETF、ESGファンド、暗号資産ETPなどが市場に登場するのに合わせて、ETFの利用や取引が拡大しているのです。

この分野の成長が加速する中、市場ではこれまで以上に選別が強まって(そして、競争が激化して)います。ブルームバーグでは先頃、ブルームバーグ ターミナルご利用のお客さまがETFのトレンドを把握し、ETFの執行戦略を強化できるように、第一線のさまざまな専門家の知識や知見を共有するウェビナーを開催しました。変化するETFの環境にこれらの専門家がどう対応しているのか、以下で詳しく紹介します。

第一歩はファンドの切り替えから

ESGのトレンドの1つとして、ファンドマネジャーが既存のETFの名称を変更し、ESGファンドに切り替えて再設定する動きが挙げられます。それには組み入れ資産を入れ替える必要があり、そのためにはトレーディングに対してリスクとコストを意識したアプローチを取る必要があります。

Virtu ITG EuropeでETF&ポートフォリオ・トレーディング部門の責任者を務めるSimon Barriball氏は、次のように述べています。「スイッチ(切り替え)取引では、執行コストを最小限に抑えると同時にリスクを最小限に抑えることを常に目指しています。例えば、S&P 500連動型ETFをMSCI米国ESGインデックスに連動する商品に切り替えるとします。この2つの商品にはそれなりの相関が生じます。重複や相関がある場合、“条件付きペア”としての取引を検討するのは理にかなっています。そうした取引では、売りと買いの両方が行われることを勘案して、“往復料金”として取引相手に値付けしてもらいます」

それにより取引の両方の部分が同時に執行されるため、タイミング・リスクを最小限に抑えることができます。このようなクロスヘッジを行うことで、「NAV(基準価額)またはリスク価格(市場価格)の評価者が、よりタイトな価格を提示できるようにもなります」と、Barriball氏は言います。

NAV取引とリスク取引のどちらを選ぶか

NAVに基づいて売買するNAV取引の仕組みでは、将来の価格を展望することと、過去にさかのぼって取引を処理ことが必要で、ファンドの評価プロセスに混乱が生じる可能性があります。そのため運用会社はNAVとリスク価格のどちらで取引するのかを慎重に判断しなければなりません。

「一般的に、結局はリスク価格とNAVのどちらで取引するかということになりますが、両者は決して同じものではありません」とBarriball氏は述べています。「実際のところ、これらは同じ種類のリスク移転ではありません。NAV取引で、実質的に取引相手に求めるのは、これから行う取引の事前ヘッジです。原資産の流動性が特に低い場合、これは一段と困難になります」(Barribal氏の補足説明によると、流動性が低い場合、取引相手の「事前ヘッジに伴う行為、つまりこちらのために行ってくれるポジションの構築や解消が、最終的な価格に影響します」)

「重複している部分は何か、取引しようとしているファンドには何が適しているのか、仕組みや原資産はどのようなものか、それがリスク価格とNAVの間でどう変わるのかを考えなければなりません」とBarribal氏は語っています。

Nutmeg Saving and Investmentのトレーディング部門責任者であるJason Conan-Davies氏はバイサイドの経験から、自社では「(リアルタイムの価格に基づく)リスク取引に向かう傾向があります」と報告しています。

また、同氏は次のようにも述べています。「この1年半は過去3年間と比べてボラティリティが大きいため、NAV取引の注文を出したときに画面に表示される価格はいつも、実際に決定するNAVとは異なります。私たちとしては、価格を固めたいのです。実際に取引に適用されるNAVが決まるまで1日、原資産がアジアの資産の場合には2日も待つようなオペレーション体制は、当社にはありません」

適切な執行スタイルを見つける

スイッチ取引はさておき、適切な執行方法は、戦略や市況によって異なります。

DRWのETF機関投資家向けセールス&トレーディング部門の責任者であるBernardus Roelofs氏は、あるアプローチについて次のように語っています。「例えば、取引の規模を考えてみましょう。最近では、50万ユーロ以下あるいは100万ユーロ以下といった小規模な取引を、RFQプラットフォームを通じて、ルールに基づいて自動化されたソリューションに送るアセットマネジャーが増えてきています。そのルールとは、3つの価格を比較し、有無を言わさず最も有利な価格を選ぶ、といったものです」

この方法は自動化されているため、「はるかに効率的」であり、通常は1秒で完了します。一方、Roelofs氏によると、アセットマネジャーは、より多くのマーケットメーカーが値付けをするのを待つという、手作業による手法を取ることもあります。これには10秒ほど(場合によっては30秒以上)の時間がかかります。

Roelofs氏はさらに、次のように述べています。「そのメリットとしては、対象のETFの値付けを行うマーケットメーカーが増えることが挙げられますが、それだけでなく、マーケットメーカーが価格改善のための時間を確保できるということもあります。その重要な側面の1つは、当該商品を得意とするマーケットメーカーを見つけることができるということです。もう1つは、タイミングです。つまり原資産の市場が開く時間です。これが重要だと思います。(タイミングによって)スプレッドが少し広くなることもありますが、何時間も待った挙げ句に大幅に高いまたは安い価格で取引するリスクを、それによって相殺できる可能性があるのです」

的を絞った自動化の導入

どのマーケットメーカーがどの商品タイプに強いのか、といったことは、運用会社が自社の自動化技術に加えることができる知識の一部です。自動化ツールは洗練されてきたため、ETFのエコシステム全体で利用が広がっています。

今日の運用会社は、「アルゴリズムをプログラムして、ほとんどトレーダーのように振る舞うことができ」、取引が長く未処理のまま放置されるというオペレーショナルリスクを軽減している、とConan-Davies氏は指摘します。

「取引執行の速度と効率を上げるツールがあれば、どんなものでも歓迎します」とConan-Davies氏は述べています。

これは小口取引に特に当てはまります。

Barriball氏は、次のように述べています。「お客さまは、ポートフォリオにアルファを加える取引に時間を使いたいと思っています。しかし、そうした小口取引はアルファを生みません。それでは、手作業に無駄に多くの時間を割く必要がどこにあるのでしょうか。(小口取引は)自動化の検討対象です。その一方で、ポートフォリオのアルファにとって重要な大口取引については、もっと手をかけたいと、お客さまは考えています」

CSDRの不確実性を認識

証券集中保管機関規則(CSDR)の第3段階である決済規律体制(SDR)の導入が、2022年2月に延期されました。CSDRは、欧州の証券市場の効率性と流動性を高めることを目的としていますが、現在はETFの分野で疑問を生みつつあります。

Barriball氏は、次のように指摘しています。「重要な不確実性は、バイイン制度や罰金制度がどうなるか、そして最終的にどの程度のRFQ取引が中央清算機関(CCP)で処理される必要があるかです。これにコストがかからないはずはありません。誰がそれを負担するのでしょうか」

この制度によって、取引コストが増加することが予想されます。Conan-Davies氏によると、そのコストは「取引を引き受けることに伴う追加リスクを勘案してマーケットメーカーが要請するスプレッドの拡大という形でほぼ確実に現れ」、バイサイドにとって大きな懸念材料になっています。同氏は、さらに次のように述べています。「SDRも、マーケットメーカーがETFを迅速に受け渡すためのコストの増加につながる可能性が高いでしょう。マーケットメーカーは、SDR制度によって生じる受け渡し需要を満たすために、流通市場に在庫が生じるの待つのではなく、発行市場でETFを新たに発行しなければならないかもしれません。これは、特に新規発行の際に印紙代がかかる特定のETFについては、高くつく可能性があります」

また、Conan-Davies氏はこう述べています。「罰則があるため、受け渡しを確実に行うこと、ならびにマッチングが正しいかどうかを確認することに焦点を移さなければなりません。これらはすべて、現在の当社のオペレーション能力と、実際にETFを取引する際に必要となるオペレーション能力に影響を与える新たな留意事項です」

暗号資産に対する機関投資家の関心が高まる

機関投資家と個人投資家双方のニーズを満たすために、運用会社には暗号資産をサポートするオペレーション能力も必要となるでしょう。

Roelofs氏は、次のように述べています。「現在、暗号資産ETPの市場構成は、おおむね機関投資家が約20%、個人投資家が約80%となっており、大きく個人投資家寄りに傾いています。それに対し、欧州の通常のETFの比率は、機関投資家が80%、個人投資家が依然として20%にとどまっています。しかし、機関投資家は暗号資産の投資事例や暗号資産ETPの取引方法をより詳しく知ろうとしており、暗号資産ETPに流れが来つつあります。この関心の強さは、私自身の経験でも、複数の大手機関投資家によって裏付けられました。これらの機関投資家は、暗号資産ETPマーケットメーク能力を理由に当社(DRW)との取引を希望したのです。従って、機関投資家の間では暗号資産ETPの採用が進んでいると考えられます」

機関投資家によるETPの採用が広がれば、ETPに対する関心が全体的に高まるでしょう。

「こうした動きはすべて業界の発展につながるでしょう。素晴らしいことだと思います」とRoelofs氏は語っています。

詳細については、こちらをクリックして、ETF執行戦略を強化する方法を俯瞰したブルームバーグのオンデマンド・ウェビナーをご覧ください。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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