気候変動リスクを見失わないために

Read the English version published on April 1, 2021.

この記事はブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューションズ、ビジネスマネジャーのNadia Humphreysが執筆しました。

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の影響で、世界中の政府と民間セクターが荒療治ともいえる対策を余儀なくされる中、多くの専門家は気候変動との類似点を指摘しています。しかし、大きな違いは、気候変動は予想外の出来事ではないということです。

2020年からの10年間は、政治・規制面で気候変動の課題が前面に押し出され、投資機関にとってそれが優先課題となるでしょう。国連の持続可能な開発のための2030アジェンダや、パリ協定などの国際協力に加え、グレタ・トゥーンべリが始めた「フライデー・フォー・フューチャー」や「エクスティンクション・リベリオン」などの市民運動も加わり、脱炭素社会に向けた潮流は高まりつつあるようです。

気候変動リスクは2つの相互に関連するリスクに大別されます。つまり、気候変動に関連する異常気象を原因とする物理的なリスク、そして低炭素経済への移行に伴う移行リスク(市場と技術のシフト、および政治介入)です。企業にとって、物理的リスクと移行リスクのどちらのリスクが高いかは、政策対応によって異なるでしょう。

規制当局は、どのようにして気候リスクを測定するのか、そしてそれがどのように個別企業と財務の安定性に影響を与えるかを積極的に検討しています。例えば、2019年12月に、イングランド銀行(英中央銀行)は、物理的リスクと移行リスクに対する銀行や保険会社の弾力性を測定するストレステスト実施案に関するディスカッション・ペーパーを発表しました。このテストは、以下3つのシナリオに基づくものでした。

  • 各国が2050年までにゼロ排出に合意し、今すぐ介入を開始
  • 政策決定の想定される遅れで、その後厳格で懲罰的な政策を導入
  • 実質的な政策による介入なく、物理的なリスクが高まる

規制当局からのメッセージは明らかです。つまり、銀行や資産運用会社は気候変動リスクを真剣に受け止め、変化に向けて準備を開始する必要があります。例えば、大規模融資や住宅ローンのポートフォリオを有する企業は、海面上昇や干ばつ、その他の環境悪化が新常態になる、平均気温が4度上昇した世界ではどうなるかを自身に問いかけるべきでしょう。ブラウンに分類された企業に投資する企業は、もっと厳格な規制が施行された場合にどうなるか、自社のポジションを評価する必要があるでしょう。

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何もしないことのコスト

将来を見据えて行動しない企業は、特定の形態の金融へのアクセスが制約されることになる可能性があります。ESG(環境、社会、ガバナンス)は容易に新たな投資適格商品となる可能性がある一方で、二酸化炭素排出量を削減できなかったり、ビジネスモデルを改善できない企業は将来、「ハイイールド」銘柄となるかもしれません。

移行に既に真剣に取り組み始めた企業もあります。例えば、ブラックロックは2020年半ばまでに一般炭からの収入が全体の4分の1以上を占める企業への株式投資を減らすことを最近発表しており、同社は、何よりも気候変動リスク問題について提起するクライアントが増えていると指摘しました。

グリーン・アジェンダに対して懐疑的な企業ですら、ルール変更がもたらす課題を認識しています。炭素ベースの企業や、炭素へのエクスポージャーがある企業は、グリーン移行ペースが加速すれば、資金調達コストの急増に直面することになるかもしれません。

データの質は向上

今のところ、企業はESGデータを自主的に提供しており、監査はされていません。ときには、ベンダーはAIや自然言語処理によってデータをスクレイピングしており、信頼できない結果につながる場合もあります。さらに、ESGデータの背後にあるビジネスモデルの「歪み」という問題もあります。例えば、カーボンフットプリントを減らしたい資産運用会社は、最適のカーボンフットプリントを提供するベンダーを探し出すかもしれません。

しかし、新たな開示ルールの導入に伴い、データの質と一貫性、可用性は改善するでしょう。例えば、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、投資家や融資行、保険の引受会社などが気候関連リスクと機会を評価し、価格設定するために必要な情報の特定を支援しようとしています。その結果、セクターや国を問わず、あらゆる組織に適用可能な気候関連財務情報開示に関し、幅広く採択できる4つの提言が発表されました。

いくつかの国はこれらの提言に注目しています。イングランド銀行と英国の金融行動規制機構(FCA)は、上場企業に対する気候関連の財務情報開示義務付けに関して声明を発表しました。一方で、欧州連合(EU)は、「グリーンウォッシング」の問題を是正するために、非財務情報開示指令(NFRD)とEUタクソノミーを導入しました。これは移行の取り組みを促進するための共通言語を提供するものです。この指令は2021年に発効し、気候ベースの報告と監査を義務付けることになります。

銀行やバイサイドの企業は、質のよいデータにアクセスできてこそ、気候変動リスクをよりよく管理できます。NFRD開示によって、企業の売上高または資本/営業支出のうち、どれくらいの比率がネットゼロまたは低炭素活動への移行に関連するものかが明らかになります。長期リスクとみなされていたものが間近に迫るにつれ、企業の排出量を示すデータは、投資家による意思決定にますます影響するようになるでしょう。

排出量の測定の基となる科学もまた、データセットに影響します。例えば、衛星を使って排出量を測定しようとする大学もあります。そのような方法が普及すれば、「報告ベース」から「測定ベース」のデータへとシフトすることも考えられます。

気候変動リスクの管理に向けたブルームバーグのサービス

ブルームバーグでは、企業が気候変動リスクの面から投資を分析するためのソリューションを幅広く提供、特にFA ESG <GO>からアクセスできる総合的なESGデータは80カ国以上にわたる1万2000社近い企業のために、主要な環境・社会・ガバナンスに関するデータセットを約1000件取り揃えています。

移行リスクの管理に関しては、Bloomberg NEF(BNEF)がクリーンエネルギー、先進輸送技術、デジタル産業、革新的な素材やコモディティを中心に、移行関連の業界リサーチを行っています。BNEFの洞察は企業戦略や財務、政策専門家らが現実と誇張を切り離し、めまぐるしく変化する業界で道筋と機会をみつけるのに役立ちます。世界中18カ所の拠点から250名のアナリストが生み出すBNEFリサーチにはオンライン、モバイル、ターミナルからアクセスできます。

ブルームバーグはまた、財務分析に地理的なコンテキストを追加する地理空間ソリューションを通して、物理的リスクの分析も支援します。ターミナルから利用可能なマッピングツールを使えば、企業や投資家、研究者は気候関連リスクと機会を視覚化できます。カスタムマップMAP <GO>、企業マップCMAP <GO>、地理的洞察MAPS <GO>といった一連の機能を使い、ユーザーは、例えば世界銀行や世界資源研究所、アメリカ地質調査所などからの最新データを含め、財務および環境関連のデータセットをターミナルから重ねて表示できます。

世界資源研究所からの水不足データ

現行の気候変動と予測される気候変動を示す地理データを資産の所在地ならびに財務・生産データと重ね合わせることで、投資家の資産やポートフォリオ、業界に対して気候変動が与えるインパクトに関する洞察を提供する、示唆に富むビジュアルを作成できます。企業活動は最高レベルの「ルーフトップ」精度でプロットされ、20年以上にわたる気候データ分析結果を重ねてリスク評価に利用できます。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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