Decoded: 金融業界での機械学習とクラウド導入の課題

Read the English version published on February 17, 2021.

今日の金融業界には、テクノロジーに関して2つの主要なテーマがあります。機械学習とクラウドコンピューティングです。膨大な量のデータを取り扱う必要がある現在のビジネス環境において、機械学習とクラウドコンピューティングはどちらも新たな業務のやり方を提示するとともに、企業エコシステムにおける新たなツールやテクノロジーの開発を促しています。特にクラウドは、パブリッククラウドサービスを通じて人工知能(AI)の導入や規模の拡大に貢献しています。しかし、その導入は決して容易ではありません。クラウドベースのサービスを導入・活用するにあたっては、アーキテクチャーの決定やベンダーの選定から、プライバシー保護やシステムのセキュリティまで数多くの課題を検討する必要があります。

そこでソリューションの一つとなるのが知識の習得です。ブルームバーグのTech Decodedウェビナーシリーズは、金融のプロフェッショナルとテクノロジーのプロフェッショナルの双方が必要とする重要なトピックに関する情報を提供します。シリーズの第2回では、INGのグローバルチーフアナリティクスオフィサーであるKerem Tomak博士と、ブルームバーグのCTOオフィスでクオンツテクノロジー戦略のヘッドを務めるGary Kazantsevが、金融機関におけるクラウドコンピューティングと機械学習の展開に関して専門家としての洞察を披露しました。

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グローバルに展開する金融機関にとってデジタルバンキングは、あらゆる商品やサービスを多くのチャネルを通じて顧客に提供することができる便利で重要な顧客との接点となります。顧客体験をより重視するようになった結果として、変化する顧客ニーズを予測し戦略に組み込むための分析ツールや分析スキルを備えることが必須となりました。これに必要なインフラおよび人材への多額の投資を、金融機関はここ数年続けています。デジタル・トランスフォーメーション・テクノロジーへの支出は2019年には全世界で2兆1000億ドルを超え、2014年から2019年までの年平均伸び率は4.8%を記録しました。今後も効率性への投資の伸び率は二桁に上ると予測され、金融機関はあらゆるチャネルを通じてより良いサービスを顧客に提供し、顧客とのエンゲージメントを深めてそのニーズを探っていくと考えられます。

しかし、規制が厳しい金融サービス業界において新たなテクノロジーやビジネスのやり方を導入していくにあたっては幾つもの課題があります。分析面では、データから得られる洞察を組織がフルに活用するためにはデータフルエンシー(データ活用能力)が欠かせません。技術面では、実際のユースケースを本番環境に適用し、グローバルに展開することが課題となります。そしてその際には、世界各国の異なる規制を遵守することが重要となります。

ハイブリッド・クラウド・アーキテクチャーの課題

そこでソリューションとなるのがハイブリッド・クラウド・アーキテクチャーです。金融サービスには、パブリッククラウドを通じた提供に適したサービスもあればクラウドには適さないサービス(中核銀行業務など)もあり、適さないサービスはオンプレミス(自社設置)としてファイヤーウォールで保護する必要があります。しかしながら、こうしたクラウドとオンプレミスを併用するハイブリッドクラウドには、1社のクラウドプロバイダーに依存して他社への切り替えが困難になるベンダーロックインの問題や、プライバシー保護、機密データの取り扱い、複数のレガシーシステムの併用によるシステムの複雑化など数多くの技術的な課題があります。こうした課題の解決には、運用環境を深く理解することが重要な鍵となります。

国・地域の垣根を越えたユースケースのスケーラビリティを確保するためには、各州・国・地域(例えばEU)のデータ保護法制を正確に理解する必要があります。また、ユースケースの分析では、顧客の利便性を考えて開発されたアプリケーションをクラウドで提供する方がよいのか、それともある国のオンプレミス環境から別の国のオンプレミス環境に移植する方がよいのかを検討する必要もあります。さらに、マルチクラウドによる運用が必要となる場合も考えられます。この場合には、異なるアーキテクチャー間の移植性と互換性が鍵となります。各コンポーネントやコンテナについて、それらが他のベンダーのクラウドに円滑に適合するのか、あるいは何らかの適応作業が必要になるのかどうかを見定める必要があります。

企業戦略を念頭に置いてデータを深く掘り下げる

欧州において機械学習を有効に活用するためには、顧客データに関してディープラーニングモデルを構築することが必要ですが、これが大きな課題となります。パブリッククラウドプロバイダーのインフラにデータを移行する前にデータをスクラブすることがソリューションの一部とはなりえますが、データ保護とプライバシーの問題が、特に導入を検討し始めたばかりの金融機関ではすぐに発生します。

個々の企業がクラウドを構築する際にまず必要となるのは社内のデータプロテクションオフィサーのニーズと要件を正しく理解することです。さらに、導入しようとしているビジネステクノロジーについて法務部および取締役会と連絡を取り、トップダウン戦略の形を適切に作り上げることも重要です。

社内的なコンセンサスを得た戦略的ビジョンの構築に加えて、社内システムをクラウドベンダーのデータセンターに接続する際には、適切なセキュリティ対策を講じることが重要です。最後に、システムにデータを保持する期間やアクセス監査権に関するガイドラインなどについて適切に規定することも重要です。

機械学習とクラウドテクノロジー戦略を成功させるために求められる企業文化の構築について、Tomak博士は、ビジネスとの整合性が取れた明確な使命を組織が共有していることが生産性の向上につながることを見いだしました。また、コンサルティング、ビジネス、戦略の立案だけではなく、技術、データサイエンス、AIを担当する部門を設置することも推奨しています。データ分析に基づくインサイトとクラウドで強化されたサービスの提供を行おうとする上では、さまざまな視点やスキルを取り込むことが重要だからです。

Tech Decodedシリーズについて

Tech Decodedウェビナーシリーズは、豊富な機械学習モデルの構築に関する実務的なガイダンスからテクノロジーが金融市場とそこで働く人々に及ぼす影響の予測まで、優れたAIリサーチャーやデータサイエンティストの知見と洞察を提供しています。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。