本稿は、ブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニア・アナリスト北浦 岳志が執筆し、ブルームバーグターミナルに掲載されたものです。(12/10/21)
エネルギー事業は脱炭素を強みに引き続き三菱重工の収益の柱
エネルギー事業は三菱重工業の2022年3月期計画事業利益の6割を占めており、同社にとって最も重要な収益の柱であることには変わりありません。化石燃料依存度が高い日本は、脱炭素の流れの中で世界的にも批判されていますが、三菱重工は環境技術資産の活用によって日本の発電をグリーン事業へ転換することが可能とブルームバーグ・インテリジェンス(BI)では考えています。三菱重工のガスタービンは,水素への燃料転換により既存設備の大きな改修をせずとも排出ゼロへ持っていけるよう開発が進められています。三菱重工の脱炭素オプションを有するガスタービンを用い、アジアでの石炭発電に置き換えていくことでCO2排出削減が進み、同設備の水素転換により排出ゼロが達成が可能となります。発電設備の導入に際し、今後重要な検討項目となるでしょう。経済成長を目指しつつも脱炭素を意識せざるを得ない新興国における導入のメリットは大きいといえます。業績面では、エネルギー事業の収益は22年3月期には大幅な回復に至らない見通しですが、今後ガスタービン事業でさらなる成長を目指す可能性があるでしょう。
同社は2025年までに100%水素燃焼エンジン技術を実現することを目標としていますが、実際の実現にはもう少し時間を要しそうです。
三菱重⼯のエネルギー事業利益の推移
Source: Company Filings, Bloomberg Intelligence
三菱重工は縮小する石炭火力事業を水素とガスタービンで補う
三菱重工のエネルギー事業にとって、脱炭素の流れはプラス面もマイナス面もあります。石炭火力の設備新設は今後減少する可能性が高く、再生エネルギーの導入や水素発電への流れによってアフターサービスも減少基調が続く可能性があるでしょう。ガスタービン事業では水素転換によってCO2排出を削減できるため、今後も安定的な需要、さらには事業拡大の余地もあると考えています。同社は、さらには水素やCO2回収・有効利用・貯留技術を活用することで、エネルギー転換をさらなる売上拡大の原資とすることを目指しており、最終的には事業全体での脱炭素を目指す方向です。
ガスタービンは、当初はガスで発電し、大きな設備変更をせずに100%水素燃焼に転換することで脱炭素が可能となるため、近い将来、持続可能な電力ソリューションとして新興国での需要が加速する可能性があります。
三菱重⼯エナジートランジション戦略
MHI Report 2021
グリーンシフトの恩恵を受ける日立のパワーグリッド事業
日立製作所のエネルギー事業の65%を占め、送配電分野で世界トップシェアを誇る日立ABBパワーグリッドは、安定成長が期待されています。脱炭素に向けて再生エネルギーへの転換が進む中で、需要に合わせて多様な方法で電力を供給していくにはパワーグリッドへの投資が不可欠であり、日立の電力事業における構成比が最も大きいパワーグリッド事業は今後高い需要が続くことが期待されまう。また、GEと共同でカナダでの小型原子炉を改めて受注したことは、アフターサービスを主体とする日立の原子力事業に新たな収益拡大の可能性を示すもので、同社のエネルギー事業の事業機会の大きさを示唆しています。脱炭素による規模縮小が懸念される事業への依存度は、相対的に低いとみられています。
日立のエネルギー事業では、引き続きパワーグリッドや原子力を中心にアフターサービスの面での収益確保が重要となります。脱炭素社会でより先進的な電力供給が求められるなか、ルマーダIoTプラットフォームとの連携も今後さらに重要性が高まるでしょう。
⽇⽴エネルギー事業の売上⾼構成
Source: Company Filings, Bloomberg Intelligence
パンデミックはエネルギー需要の回復を遅らせ、環境対応を加速か
中国以外の地域では、パンデミックからのエネルギー需要回復に苦戦が予想されます。一方で、カーボンニュートラルに向けた再生エネルギーへの投資の動きが進む可能性が高いでしょう。国際エネルギー機関(IEA)は、2020年の世界のエネルギー需要はパンデミックの影響で19年に比べて6%減少、21年になっても一部の地域では完全に回復しない可能性が高いと想定しています。21年の中国のエネルギー需要は19年比で8%の回復が見込まれますが、欧州、米国、日本などの主要先進国ではパンデミック前の19年の水準を下回る可能性が指摘されています。
燃料種類別に見ると、すべての地域で再生可能エネルギーが引き続き成長するとみられます。一方、先進国では21年も再生可能エネルギー以外への需要が19年を下回る状態が続くと想定され、より環境に優しいエネルギー源へのシフトが加速する公算が大きいでしょう。
エネルギー需要成長-国別、燃料別(2021年、19年対比)
Source: IEA
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