ニューノーマル下のLIBOR移行:不可欠なデータとテクノロジー

Read the English version published on September 16, 2020.

本稿は、ブルームバーグのAPACヘッドであるBing LiがRegulation Asiaに寄稿したもので、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)など数多くの重要なイニシアチブの実施時期が新型コロナウイルスの感染拡大により延期されていますが、ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)からの世界的な移行については延期対象となっていません。

2020年6月、米代替参照金利委員会は、企業が新たに発行する変動利付債の参照金利として米ドルLIBORを使用することを2020年末までに終了し、新たなデリバティブおよび企業向け融資に米ドルLIBORを使用することを2021年6月末までに終了するよう勧告しました。英国でも、金融行為規制機構(FCA)はポンド翌日物平均金利(SONIA)を参照するローンの提供準備を2020年第3四半期末までに終え、ローン商品におけるポンドLIBORの使用を2021年第1四半期までに終了するよう求められています。

対応が急がれるが、国により進捗度が異なるアジア

LIBORは全世界で何兆ドルにも上る金融商品の参照金利として使われており、アジアも例外ではありません。この地域では、企業向けローン、住宅ローン、証券化商品、デリバティブなどさまざまな市場で幅広い金融商品やバリュエーションにLIBORが使用されています。ブルームバーグのデータによれば、LIBORを参照するアジア企業のローンと債券の残高は6000億米ドルに上り、その約3分の2はLIBOR廃止日以降に満期を迎えます。

LIBORからの移行に伴い新たに参照金利として使用されるリスクフリーレート(RFR)は、翌日物金利で流動性が高い取引市場が存在します。しかし、アジア地域における対応状況は国によりばらばらです。EUには統一された移行ルールがありますが、アジアにはそれがありません。

日本、香港、シンガポールなどの先進国では、一貫性があり明確な移行対応を規制当局が主導したおかげで、金融機関のLIBOR移行準備は他のアジア諸国よりもはるかに早く進んでいます。一方、マレーシアやインドネシアでは規制当局による指導が遅れているため潜在的なリーガルリスクが高まり、アジア市場におけるシェアを失う恐れがあるとブルームバーグ インテリジェンスでは分析しています。また、シンガポール金融管理局(MAS)はシンガポール翌日物金利平均(SORA)を参照する初の変動金利債を発行し、さらに、複利計算されたSORAインデックスの公表を間もなく開始する予定です。

新型コロナウイルスとスマートデータソリューション

折あしく、新型コロナウイルスの感染が拡大した現在の環境下では、規制順守、プライシング、リスク管理など金融機関が緊急にやらなければならない業務が大幅に増加しました。

最近開催されたブルームバーグ・APLMA ウェビナーに参加した180の市場関係者のうち60%が新型コロナウイルスがLIBOR移行計画に影響を与えたと述べた一方で、11%はまだ移行計画策定に着手していないと回答しました。

コロナ危機のさなかに1つのことが明らかになりました。それは、金融の世界の動きを止めないためにテクノロジーが役に立ったということです。同様に、円滑なLIBOR移行のためには、堅牢なデータソリューションやテクノロジーを利用した自動化が必要不可欠です。これにより、規制当局への報告やコンプライアンスに必要なデータ管理が自動化され、手作業による業務フローを削減することができます。

最近ブルームバーグは日本の銀行と共同でこの問題に取り組みました。その結果、幾つかのチャネルを利用した取引データ入力と新たな計算方法を活用した新しい業務フローを完成させました。このように、複雑なプライシングやリスク計測のためにさまざまなデータを収集、活用できるようにすることが、LIBOR移行作業には必要不可欠です。

これから分かることは、LIBOR移行がデータとテクノロジーの使い方について根本的に再検討する機会を企業に与えてくれるということです。この機会を活用して企業は、製品やサービスを顧客に提供する方法をより競争力があり安価かつ高精度で迅速な配備が可能な方法へと変革させるとともに、コンプライアンスやリスク管理を高度化させなければなりません。

金融業界、規制に関するワーキンググループ、そして規制当局は、企業によるLIBOR移行計画優先課題の特定を熱心に後押ししています。一方でデータおよびテクノロジーのプロバイダーは、関連するデータへのアクセス、分析機能、計算ツールなどを提供して金融業界を支援しています。

世界がニューノーマルへの適応を進める中、金融業界が2022年以降も成長を続けるためには、LIBOR移行をデータとテクノロジーの使い方を再検討する絶好の機会と捉えることが大変重要です。

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