脱炭素目標の「未達ドミノ」に懸念、COPで進捗状況を初検証へ

本稿は梅川崇、稲島剛史が執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。(2023年11月22日)

アラブ首長国連邦(UAE)で30日から始まる国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)は、世界全体の地球温暖化対策の進捗(しんちょく)状況を初めて検証する。主要7カ国(G7)などはネットゼロに向けて2030年の排出量削減の中間目標を掲げるが、達成を楽観視できる状況にはなく、専門家からは目標未達が相次ぐ事態を懸念する声が出ている。

世界が脱炭素の道しるべとする15年のパリ協定は、世界全体の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度より十分低くし、さらに1.5度に抑える努力を追求することを明記する。同協定の発効を受け、全ての締約国は排出削減目標を定めた上で、脱炭素施策を進めてきた。

今回のCOPは、これまでの取り組みを初検証する場となるだけに注目度が高い。しかし、国連が20日に公表した報告書では、「1.5度目標」を達成できる可能性は最も楽観的なシナリオでも14%とされ、今後の見通しは必ずしも良好ではない。世界の脱炭素に向けて国際的な結束力をどれだけ強められるかが問われる。

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日本は30年に13年比46%の排出量削減目標を掲げる。経済産業省の高浜航・地球環境対策室長は「日本はオントラック(順調)だ」と強調するが、専門家らの見方は異なる。

国際大学の橘川武郎学長(エネルギー産業論)は、原子力発電所の稼働が進まないことなどを想定すると「30年目標の達成は絶対不可能だ」と指摘する。

経産省のトランジション・ファイナンス推進のための検討会で座長を務めた、地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾・主席研究員には、政治主導で決めた日本の46%目標は「あまりに意欲的過ぎる」と映る。

秋元氏は日本に加え、米国やカナダなども中間目標の達成は困難と指摘する。「そういう状況の中で世界全体として諦めムードが充満しないかという懸念はある」と述べ、発生し得る「未達ドミノ」に備えた対応策を練ることが重要との認識を示した。

実際、世界の脱炭素の進捗は思わしくない。国際エネルギー機関(IEA)によると、エネルギー関連の二酸化炭素(CO2)排出量は22年に過去最高を更新。環境省がまとめたデータでも、環境先進地域とされる欧州連合(EU)でさえ順調とは言い難い状況が見てとれる。

また、21年はコロナ禍の反動で、G7各国の排出量は軒並み前年比で増え、経済活動と脱炭素の両立が難しいことも浮き彫りにした。

目立つ日本批判

目標達成が危ぶまれるという点では、各国に大きな違いがないように見えるが、脱炭素の議論を巡っては日本が批判にさらされることが少なくない。特に非難を受けがちなのは、日本がトランジション(移行)戦略の主軸に据える「水素・アンモニアの混焼技術」だ。

水素やアンモニアは燃焼時にCO2を排出しないという特徴を持つ。それぞれ天然ガスと石炭と混ぜて燃焼させることで排出量を抑制するという考え方だが、欧州のシンクタンクなどは「化石燃料の延命」などと指摘する。

これに対し、混焼技術の実証を進める国内最大の発電事業者JERAの奥田久栄社長は、先進国だけでなく途上国でも受け入れられるシナリオ作りが求められると強調する。自国だけで削減を進めても、他国で排出量が増えれば、地球規模での改善効果が得られないためだ。

「特にアジアでは、まだできて10年以内の火力発電所が多くあるが、これを直ちにスクラップして新しく再生可能エネルギーにするというのはあまりに非現実的だ。先進国だけで進めても意味がなく、途上国の人たちにも受け入れられるように進めなければ世界の脱炭素は進んでいかない」と、奥田氏は話す。

途上国で排出削減の機運が損なわれれば、その影響は大きい。環境省のデータによれば、20年の世界のエネルギー起源CO2排出量は、G7が全体の23%であるのに対し、G7を除く20カ国・地域(G20)は59%を占める。

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