Read the English version published on August 09, 2022.
金融機関は、気候崩壊を食い止めるのに必要な脱炭素化プロセスを加速させることができる一方で、それを実現するには地球温暖化がもたらすリスクをより深く理解する必要があります。
ブルームバーグの「 Risk Regulation Week(リスク規制ウィーク)」ウェビナーシリーズの基調談話で、Kepos Capital創業者のRobert Litterman氏は「気候変動リスクは「否定しようがない」ものであるにもかかわらず、世界はそれに対する備えができていない」と指摘しました。さらに「住宅やインフラは、将来のリスクではなく今あるリスクに対して建設されており、持続可能なものではない」とリスク委員会議長も兼任する同氏は述べました。
前出のLitterman氏は、「Quantifying Climate Risk and Looking Forward(気候変動リスクの定量化と見通し)」のセッションで、「気候変動リスクを無視すれば、経済に財務的負担がかかる」と述べています。例えば、保険会社が極端さを増す異常気象の発生確率の上昇を織り込めば、結果的に保険料は上昇するでしょう。また、気候変動を背景に、債券を発行する地方自治体では増税が難しくなり、地方債の債務不履行(デフォルト)確率が高まることを格付け会社が織り込む結果、地方自治体の借り入れコストは上昇するでしょう。
「気候変動リスクは企業やその資産に完全に織り込まれているわけではありません」と指摘するのは、米ゴールドマン・サックス・グループの元リスク専門家で、米商品先物取引委員会(CFTC)の気候関連リスク小委員会議長も務めた人物です。気候変動リスクが反映されている産業もあります。例えば自動車業界では、米テスラのような電気自動車(EV)メーカーのバリュエーションはガソリン車メーカーをはるかに上回っています。
警鐘
一方、その他の産業では、気候変動リスクへの対策がいまだ施されていません。例えば、気候変動が及ぼす悪影響に対する解決策を模索しているクリーンテック新興企業は、その潜在価値を反映した評価を受けていません。
ただし希望が持てるのは、実現すべき事柄に対する認識が企業間で高まっていることです。Litterman氏は、環境・社会・ガバナンス(ESG)の実績が乏しい企業や、ネットゼロ目標との整合性を欠いている企業に対する最近の投資家の行動を「警鐘」と表現しました。
「資本を動かす最善の方法は、環境を破壊する活動を抑制するインセンティブを提供することで、中でもカーボンプライシング(二酸化炭素(CO2)排出量に対する価格付け)は最も効果的なメカニズムといえるでしょう」と同氏は主張しました。CO2排出量の価格が完全に織り込まれれば、そのコストが企業の投資利益率にどれだけ影響するかを考慮した上で、資本支出が決定されるようになるでしょう。
一部地域では炭素税がすでに機能していますが、同氏はその例として、米カリフォルニア州や米北東部の州による「地域温室効果ガス・イニシアチブ(RGGI)」を挙げています。しかし、米国でCO2排出量の総コストは1トン当たり10ドル台半ばであるのに対し、欧州では80ドル台半ばと、本来あるべき100ドルにより近い値です。同氏は国際通貨基金の意見を引用して「カーボンプライシングが欠如した状況は、化石燃料産業に対して暗黙の補助金を与えているようなものです」と述べ、「要するに、環境を汚染する者・組織が代償を支払うべきでしょう」と主張しました。
世界的にカーボンプライシングが統一されれば、ネットゼロへの移行が加速する可能性があり、その実現を期待させるような明るい兆しも見られます。「中国やインドなどの経済大国は脱炭素化を熱望しており、欧米と一体となって世界的な変革をリードすることができるでしょう」とLitterman氏は述べています。
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本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。