Read the English version published on August 30, 2023.
中国で過去最大級の債務再編が始まろうとしている。不動産開発大手の中国恒大集団は2021年終盤に初のデフォルト(債務不履行)認定を受け、業界を襲った流動性危機の最も有名な犠牲者となった。
政府は再建に乗り出し、世界経済を揺るがしかねない無秩序な経営破綻を巡る懸念を和らげようとした。しかし、同社の債権者は騒ぎが収まった後に自らの資金がどの程度回収できるのかと今も懸念を抱いている。
1. 過去の経緯
1996年創業の中国恒大は、事業拡大の原動力として多額の借り入れに依存。業界最大のドル建て債務を抱え、契約販売で業界トップだったこともある。同社のウェブサイトによると、280都市に計1300余りのプロジェクトを抱えている。
恒大は長年、電気自動車(EV)から地元のスポーツチームまで幅広い分野に手を広げてきたが、2020年の流動性危機を受け、1000億ドル(約14兆6000億円)の債務を23年半ばまでにほぼ半減させる計画を策定。
しかし、当局が行き過ぎた借り入れを抑制したことで中国住宅市場が減速し始めたほか、さらなる資金調達の問題もあり、同社の株式と社債は急激に値下がりした。
恒大は一部ドル建て債の支払いを遅らせ、その後、21年12月に期限を迎えたドル建て債2本の利払いを履行できなかった。同社の完全な破綻を回避し、再建を主導するため、政府当局者を中心とする「リスク管理委員会」が直ちに設置された。
2. 再編計画の内容
今年3月に公表された債務再編計画では、恒大の債券投資家は10-12年物の新発債を受け取るか、同社自体あるいは傘下の不動産サービス部門やEV部門の株式に関連した商品を新発債と組み合わせて受け取る案が提示されている。
一方、恒大はデロイトの回収分析を含む新たな情報を債権者向けに用意したと同社の弁護士が明らかにした。この弁護士によると、同社債の平均回収率は22.5%となる見込みだが、事業清算の場合は3.4%に下がるという。
3. 債権者との交渉
一部の海外投資家は、中国政府が大きく関与していることを踏まえれば、中国の裁判所で訴訟を推し進めてもほとんど意味がないと考えていた。初期の段階で、そうした債権者グループは恒大の取り組みの欠如を批判していた。
しかし、22年6月に恒大の清算を求める訴訟が香港で提起された際に、債権者は一段の影響力を確保。香港の裁判所は同社に対し、清算を回避するため、債務再編交渉の進展に関する具体的な証拠を提示するよう求めた。
恒大はオフショア債の再編計画に関し、今年8月下旬に投票を実施する承認を裁判所から得たが、その後、投票は9月下旬に先送りされた。同社は、提案の諸条件について債権者が検討できるようにするためだと説明。8月28日には香港市場で恒大株の売買が1年5カ月ぶりに再開された。
4. 深刻な財務状況
恒大は7月、公表が大幅に遅れていた21-22年決算を発表し、合わせて810億ドル余りの損失を計上。09年の上場以来、初の2年連続赤字となった。23年1-6月(上期)は増収にもかかわらず、45億ドルの赤字だった。
一方、負債総額は6月時点で2兆3900億元(約48兆円)と、高水準のままだ。借入金は6250億元と若干の増加にとどまったものの、サプライヤーなど取引先への未払い金は1兆元に上った。
同社の「深刻な現金不足」により、完成前に販売された物件6040億元相当の完工が危うくなるほか、赤字の長期化が資本のさらなる欠損につながりそうだとブルームバーグ・インテリジェンス(BI)は分析している。
5. 恒大の決算は信頼できるか
恒大の監査法人に1月に指名された会計事務所プリズムは恒大の21-22年通期決算の監査報告書に意見を表明しない旨を記載。十分かつ適切な監査証拠が入手できないと説明した。23年1-6月決算については、複数の不確実要因を理由に、結論を見送った。それでも同社の決算はオフショア債保有者が考える上で、若干の手掛かりとなっている。
6. 現在の事業状況
恒大の建設現場は今年に入り、通常の活動状態に戻りつつあるようだ。許家印会長は7月の社内会議で一部のプロジェクトについて、引き渡しに向け「完成に近づいている」と述べたと地元メディアが報道。未完成のプロジェクトは主に昆明や貴陽といった内陸部の都市にあるという。
法的な圧力も続いており、中国本土の不動産部門に関連した訴訟は6月時点で2229件(総額5350億元相当)に上る。同社株は8月に香港市場での売買が再開されたものの、再開初日の28日は79%安で終了。17年のピーク時に500億ドルを超えていた時価総額は、わずか6億ドル前後に縮小した。
恒大の成約販売ランキングが7月時点で約200社中19位に回復したのは明るいニュースだが、延滞したローンの支払いのため割安で売却した不動産や同社の理財商品からの販売がどの程度回復に寄与したのかは不明だ。
7. 政府による恒大の救済はあり得るか
中国人民銀行(中央銀行)の易綱総裁(当時)が恒大の債務問題について、市場に基づくやり方で扱われることになると発言したことで、救済の可能性は低いと長く考えられてきた。全面的な救済は、安邦保険集団や海航集団(HNAグループ)などかつての有力企業を苦境に陥れた無謀な借り入れを認めることにもつながる。
その一方で、恒大のような巨大企業が完全に破綻するのを容認すれば、他の多くの企業だけでなく、これから住宅を購入しようとする人々にとっても痛手となるだろう。同社は中国当局から出稼ぎ労働者やサプライヤーへの支払いを優先するよう指示されている。
8. 危機の波及
中国の住宅販売は22年に28%減少。今年に入り始まった回復は年央までに失速した。住宅価格は大都市から小規模の都市に至る各地で再び下落し、不動産投資は1-7月に減少ペースが加速した。
別の民間不動産開発会社、碧桂園は恒大よりも深刻なデフォルトの危機に直面している。また、赤字拡大の恐れがあると明らかにする国有デベロッパーが増えており、危機が政府系企業に波及すると懸念されている。
リスクは金融部門にも広がりつつあり、不動産に巨額のエクスポージャーを持つ信託会社が一部投資商品の支払いを怠った。
9. 政府の対策
中国共産党の最高指導部は年央の会議で、不動産セクターの支援強化を示唆。「住宅は住むためのもので、投機の対象ではない」との習近平総書記(国家主席)のスローガンへの言及もなかった。
中国当局は8月、主要都市における住宅ローン政策のさらなる緩和を発表した。これには、住宅ローンを組んだことのある人を、たとえ完済していたとしても初めて住宅を購入する人とは認めないというルールを廃止する裁量を地方政府に与えることも含まれている。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。