中央銀行の独立性

本記事はChristopher Condonが執筆し、ブルームバーグブリーフ・Quick Take の「中央銀行の独立性」に初出掲載されたものです。

深刻なインフレに見舞われた1960年代、70年代を経験した中央銀行の多くは、政治的な干渉を受けずに金利水準を定め他の金融政策決定を行う裁量余地の拡大を求めて戦い、それを勝ち取った。だが、2008年の金融危機後にはその中銀の独立性という盾にひびが入り始めた。世界金融システムの救済に向け中銀が巨額の資金を投じた後数年間で、中銀の政策運営に対する世論の信頼は弱まった。中銀に批判的な向きは、独立性を有する中銀が過度に秘密主義で納税者以上に銀行の利益を優先させると指摘し、よって公的な支配を強めるべきだと主張する。一方、中銀側は、インフレを抑制し完全雇用を目指し、金融安定を維持するためには政治的圧力から切り離される必要があると反論する。とはいっても、「我々を信じて欲しい」という言葉に納得できなくなっているのも事実だ。

現状

ドナルド・トランプ米大統領は大統領選に向けた選挙キャンペーンの中で、民主党候補のヒラリー・クリントン氏を支援するために低金利政策を維持していると、連邦準備制度理事会(FRB)のジャネット・イエレン議長を非難していた。連邦議会の共和党議員もFRBに批判的だ。「FRB監査」の必要性を訴える共和党は、金融政策を議会による評価の対象とし、FRBの規制権限や緊急融資権限を制限するほか、金利設定に際し定式に従うことをFRBに求める法律を準備している。英国では、テリーザ・メイ首相がイングランド銀行の政策が不平等を助長していると指摘し、一部の政治家は中銀に対する監視の強化を求めている。そして、インド準備銀行のスタッフは、昨年11月に発表された高額紙幣廃止の後に政府による「不当な干渉」があったと訴えていたほか、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、建前としては政府から独立している中銀に対し利下げをするよう求めている。また、過去2年間ではアルジェリア、カザフスタン、ベネズエラをはじめとする国で大統領の要請により中央銀行の総裁が辞任している。

背景

中央銀行の独立性の近代的概念は時間とともに進化してきた。世界恐慌の後、米国の連邦議会は金融政策運営におけるFRBの権限拡大を決定したが、だからといって政治的圧力がなくなったわけではなく、リンドン・ジョンソンとリチャード・ニクソンの両大統領はFRBに低金利政策を要求した。そして1970年代には、連邦議会が、FRBの使命を適度な長期金利を維持しながら完全雇用と物価安定を追求することと定めている。その後、当時のポール・ボルカーFRB議長が急激なインフレを抑制するために政策金利を過去最高の20%まで引き上げ、これが1981年から82年のリセッションを招いたことでFRBに激しい非難が集中した。しかし、それから間もなくしてインフレは抑えられ、安定した経済成長の時代がもたらされた。これは、中銀の独立性を支持する根拠となった。イングランド銀行が独立性を獲得したのは1997年だ。1998年に設立された欧州中央銀行(ECB)は設立時点で独立性を与えられている。だが、最近ではそれに対抗する流れが生じており、ドイツはECBがギリシャやイタリアなど財政難に苦しむ諸国の国債を買い入れていることや、デフレ回避に向けた量的緩和に膨大な資金を注ぎ込んでいることを批判している。また、日銀は2013年に政府との政策協調を行うことで合意しており、一部ではこれがその独立性を脅かす警戒すべき動きとみなされている。FRBに対する米連邦議会の最近の攻撃はほとんどが金融危機に端を発するものだ。FRBが危機を予測し阻止できなかったこと、そして、まさにその惨事を招く一因となった金融機関を一部救済したことが非難の対象となった。

論点

アルベルト・アレシナ教授とローレンス・サマーズ元米財務長官が1993年に発表した広く引用される論文は、独立性を有する中央銀行は政治的に支配されている中銀よりインフレをコントロールできると結論づけている。論文では、日々の政治的圧力から切り離されることにより、中銀は大衆から嫌われる決断を下し、長期的視野に立つことができるとされている。FRBのイエレン議長は議会での証言でこの点を再度指摘していた。現行のFRBの在り方を支持する向きは、議会への報告と米国会計監査院による財務監査が十分な監視機能を果たしていると付け加える。だが、一部のエコノミストはこれに反論する。ジョセフ・スティグリッツ氏は、政府から独立した中央銀行が必ずしも金融危機を首尾よく乗り切っているわけではないと主張する。加えて、「公的機関はすべて説明責任を負っているのであり、問題とされるのは唯一誰に対してかという点だけだ」と指摘する。一方、中銀は財政政策と金融政策のハイブリッド型である量的緩和のような新たなツールを導入し始めているが、それに伴い通常政府の領域とされる経済的責任をこれまで以上に負うようになっている。中銀の役割が広がり、その影響の及ぶ範囲が拡大するに連れ、政治が介入する余地も大きくなり、中銀の職務を中銀に委ねることはよりいっそう困難となるだろう。