Read the English version published on October 4, 2023.
本稿は、ブルームバーグのシステマティック・アンド・インデックス・ソリューション・リサーチャー、Kartik Ghiaが執筆したものです。
コモディティの役割を考える
気候変動リスクと持続可能な経済開発のいずれの面から見ても、サステナブル投資はこの10年で投資家の議論においてますます重要なテーマとなっています。 株式や債券ポートフォリオではサステナブル投資は一般的なものとなっていますが、コモディティ投資家の間ではまだ十分に受け入れられているとはいえません。それはとりわけ、コモディティ・ポートフォリオが何を目指すのかについて疑問が生じており、ポートフォリオ構築に関してサステナブル投資が何を意味するかについてのコンセンサスが形成されていないことが理由です。 さらに、サステナビリティの原則を幅広い構成銘柄を対象としたベンチマークに適用する場合と、テーマを絞ったバスケット投資(多くの場合、特定のセクターに集中)に適用する場合に関して、根本的な誤解がみられます。
2つの投資アプローチの違いは、投資家のポートフォリオにおけるコモディティの役割に直接関係しています。 コモディティ資産を保有する目的は一般に、株式・債券以外への分散投資とインフレリスクのヘッジ、景気循環に対するエクスポージャーの提供という3つが挙げられます。 セクター間におけるリターン特性の違い、生産水準、経済的役割などを踏まえ、これら3つの目標を達成するためには、幅広い種類のコモディティへのエクスポージャーが必要で、例えば、ブルームバーグ商品指数は、米ドル建ての24種類のコモディティから構成されます。投資家にとって一番の関心事は、サステナビリティを目的の1つとしても、既存のコモディティ・ポートフォリオのアセット・アロケーションを維持できるのかという点です。 大きな違いがある場合は、ポリシー・ポートフォリオにおけるコモディティの役割の再評価が必要になる可能性があります。 株式債券市場とは対照的に、コモディティ・ポートフォリオの銘柄数はずっと少なく、それらの間の相関関係は比較的低くなる傾向があります。 その結果、サステナビリティ目標と既存のリターン特性との間でバランスをとる必要があるため、コモディティ・エクスポージャーのウエイトを見直すことは困難を伴う場合があります。
投資家が持続可能な開発を考慮すべき理由
持続可能な開発とは、広義には、天然資源の枯渇や劣化に配慮した経済開発計画と定義されます。 温室効果ガス(GHG)排出量、水使用量、生物多様性などは、天然資源の枯渇を示す尺度として比較的多くの実務家が挙げているものです。 これとGHG排出量は気候変動の影響を評価する際の重要な入力情報の一つであり、GHG排出量は自ずと、ポートフォリオを評価する際の出発点となります。
株式や債券のポートフォリオとは異なり、コモディティ投資家は取引所でのデリバティブ商品を通じて投資する傾向があります。 先物を保有することが現物市場の需要・供給に直接影響せず、特定コモディティのデリバティブ取引量が現物の出来高の倍数であるならば、なぜ金融投資家は原資産のGHG排出量を気にする必要があるのでしょうか?
重要な理由は2つあります。 第一の理由は、デリバティブのリターンには、対象となる現物資産価格の変動が反映されるということです。コモディティがなければ、コモディティ先物のリターンはありえません。幅広い資産で構成されるベンチマークのリターン特性のエクスポージャーを得るためには、そのコモディティの現物が生産される必要があります。 それがひいては生産プロセスからのGHG排出につながるのです。第二の理由は、コモディティ生産者と消費者の価格感度が異なり、生産者は一般的に価格感度が比較的高いということです(これをそれぞれ「需要・供給の価格弾力性」と呼びます)。 その結果、価格下落時には、同等の価格上昇時に需要が減る度合いよりも、供給の減る度合いの方が大きくなる傾向があります。
「Investment under Uncertainty (不確実下の投資)」(Dixit and Pindyck著)など、不確実な時期における企業の投資に関する学術研究では、設備投資と不確実性の高まりとの間に負の相関があることが示されています。不確実な時期とは、利益の変動性が高い、または減益の可能性が高い時期と解釈できます。設備投資は一般的に新規機器の購入を伴うため、支出の増加は、多くの場合単位当たり生産量とGHG排出量の双方において、生産プロセスの効率が高まることが示唆されます。ロングオンリーの投資家は、将来の生産をヘッジしようとする生産者に価格支援を提供することになり(資金援助)、それは生産性改善につながるとみることができます。
ロングオンリーの投資家による資金援助とデリバティブ・ベースの商品の使用を併せた枠組みは、重要な意味合いを持ちます。 株式ポートフォリオの場合、一般的に使用される指標は、投資家が「所有」するとみなされるGHG排出量を表すポートフォリオ排出量です。 コモディティ先物投資家は、対象となる現物資産を直接所有するわけではありませんが、価格を下支えすることで、生産をヘッジする生産者にとって利益を提供することになります。 コモディティ投資家の役割を反映する指標は、ポートフォリオの排出量指標を採用しています。 コモディティ・ポートフォリオに投資する1米ドルにつき、資金援助は、各コモディティに関連付けられるGHG排出量の加重合計として定義できます。この指標は、先物投資で支えられる排出量の加重量を表す、マクロ経済的なポートフォリオ排出量指標といえます。 サステナブル・ポートフォリオの概念から見ると、金利の尺度は、伝統的なベンチマークとサステナブル・ポートフォリオの間の資金援助の差であり、その差は、コモディティのウエイトの再アロケーションによってのみ生じます。
データの収集方法
通常、GHG排出量のデータは、企業の年次報告書とサステナビリティ報告書から収集されます。 しかし、この場合、各コモディティは複数の企業によって生産され、その多くは報告義務のない未公開企業であるため、これら報告書は使えません。さらに、企業が収集するデータはスコープ1、2、3の境界で定義される傾向がありますが、コモディティの生産に必要な生産プロセスに応じてコモディティの排出サイクルを定義する方が合理的です。 コモディティ先物の場合は、原資産となるコモディティの先物の詳細を参照でき、それを企業のサステナビリティ報告書で報告されているスコープ1と2の排出量に相当するものとみなすことができます。
排出量のデータは、ライフサイクルアセスメント(LCA)と呼ばれるアプローチを使用して推定されます。 LCAは、生産プロセスの指定されたモデルと、入力値とパラメータ設定を決定するデータセットに依存します。 通常は、業界や学術研究者によって収集されたデータがモデリングソフトウェアに入力され、コモディティあたりの排出量を推定します。 当然、結果はデータセットとモデリングパラメータの両方に依存することになります。 従って、(プロセス面と地理情報面で)代表的なデータセットを選択することは、一般的に受け入れられている標準(例えば、IPCC 2021報告書)に従ってパラメータを選択することと同様に重要です。 新しいデータセット、モデルの更新、報告基準の変更を考慮して、推定値は定期的に更新できます。 モデル更新のタイムリーな管理や新しいデータセットの収集とその品質評価など、複雑な作業を踏まえると、推定プロセスを社内で管理することは運用上多くのリソースが必要となる可能性があります。 その代わり、この分野に特化したコンサルティング企業を使うこともできます。
説明のため、図表1に、LCAベースによる2023年上期の推定値を示します。ここに示すヒートマップは、生の推定値を、セクターごと、および本質的に一次生産か派生生産か(詳細は後述)によってグループ分けしてスケーリングを調整したものです。
ポートフォリオ構築へのインプリケーション
持続可能な開発という概念は、環境への悪影響は軽減される一方で、経済開発パターンはほぼそのままであることを暗黙のうちに前提としています。 その必然的帰結は、少なくとも代替関係が弱いコモディティに資金の再配分が制限される必要があるということです。 そのことは、他のすべてのセクター(農業、工業金属、貴金属、家畜)へのインプットとなるエネルギーセクターの性質によりさらに裏付けられます。これら2つのポイントに対処する単純な方法は、同じセクターに属するコモディティへのウェイトの再アロケーションを制限することです。 最後の考慮事項は、一次コモディティと派生コモディティを区別して排出量の二重カウントを最小限に抑えることです。
たとえ同じセクター内であってもコモディティ間で流動性に大きな差があること(例えば米ドル建て取引高の平均で測定)は、ティルトはベンチマークのアロケーションとGHG排出量のウエイトの両方の関数とすべきことを示唆しています。後者では、均等ボラティリティ・ポートフォリオを構築する際に使用するものと同様に、排出量の逆指標を使用します。
持続可能な開発コンセプトのもう1つのインプリケーションは、GHG指標を金銭価値ではなく生産単位に基づいたものとする要件です。 生産プロセスは、エネルギーミックス同様、ゆっくりと進化します。対照的に、コモディティ価格の年換算ボラティリティは15%から45%の間であり、生産単位当たりの排出量の変化との相関はありません。 そのよい例が、ニッケルや天然ガスなどで、過去2年間で価格が大きく変動したにもかかわらず、出力あたりの排出量の変化はほとんどありませんでした。
コモディティへのアロケーションは通常、株式・債券以外の資産クラスへの分散投資、インフレヘッジ、景気循環へのエクスポージャーというの3つの目的のために使用されます。 サステナブルテーマに沿ったポートフォリオを採用しようとするアセットオーナーは、アセット・アロケーションとポートフォリオの流動性を維持する一方で、生産単位当たりのGHG排出量が比較的多いコモディティを手放すことのトレードオフを認識しています。 セクター間の低い相関関係、セクター間における平均的な流動性の大きな違い、経済開発への影響などを考慮すると、ベンチマークに対してセクターの偏差をコントロールすることは、上記のアセットアロケーション目標をコントロールする手段となります。
重要な2つの指標は、インフレ率に対する感度と、株式・債券市場との相関です。 インフレ指標には、実現インフレ率(米国CPIの四半期ごとの変化)と、期待インフレ率の変化(米国の10年ブレークイーブンレートの四半期ごとの変化)の2つがあります。 これらは一般的に「インフレ・ベータ」と呼ばれ、投資家に、ある投資可能資産のインフレヘッジ能力についての情報を提供します。 2012年以降の月次データを用いたBCOMベンチマークのインフレ・ベータは、実現インフレ率が2.1、期待インフレ率の変化は17.9でした。 米国の株式市場と債券市場との相関は、それぞれ0.5と0でした。
カーボン・ティルテッド指数へのアクセス
ブルームバーグ商品カーボン・ティルテッド指数(ブルームバーグ・ティッカー: BCOMCA Index <GO>)は、生産単位当たりのGHG排出量を使ってBCOMベンチマークのウエイトを調整したものです。カーボン・ティルテッド指数は、BCOMセクターのウェイトに応じて合計した5つのセクターベースのGHG排出量ティルテッド・ポートフォリオで構成されます。 ポートフォリオのリバランシングは毎年行われます。 BCOMカーボン・ティルテッド指数のインフレ・ベータは、それぞれ2.3と18.8でした。 米国の株式市場と債券市場との相関は、ほぼ変わりませんでした(それぞれ0.5とマイナス0.1)。
インフレ・ベータと資産クラスの相関は、例えばポリシー・ポートフォリオ内でのアセットアロケーション上の目的のために、BCOM指数と同様の方法でBCOMカーボン・ティルテッド指数を使用できることを示唆しています。 つまり分散投資のポテンシャルと、リターンの元となる資産からの排出量を認識する双方のタイプのインフレとの正の相関を示しています。 2012年以降、コモディティのウエイトをティルトした結果、BCOM指数と比較して、単位当たりの排出量の削減分が約20%減っています。 この指数は、ティルトを通して、関連排出量の削減と、BCOM指数に対する年率トラッキングエラーとの間のトレードオフを考慮するようにカスタマイズできます。