Read the English version published on June 3, 2024.
気候関連事象が金融安定性にますます影響を及ぼすようになる中、各国の中央銀行や規制機関はリスク管理と規制報告に気候変動リスクを組み込もうと尽力しています。
ブルームバーグが最近開催したトロント・サステナブルファイナンス・フォーラムを振り返り、ブルームバーグのエンタープライズ・リスク・プロダクト部門グローバル責任者Dharrini Bala Gadiyaramが、リスク管理と規制報告に気候変動リスク要因を組み込むための最適な方法と、金融界のリーダーは将来の課題にどう備えるべきか、見解を示します。
気候変動リスクを効果的に測定、管理、軽減する上で、企業が直面する最大の課題は何だと思いますか。
気候ストレステストとリスク管理に関連する規制は、特にカナダにおいて、過去5-7年間にわたり進化し続けていたため、もはや市場参加者にとって想定外のことではありません。とはいえ、気候リスク管理において金融機関が直面する最大の課題は、気候リスクを独立した一つの柱と考えるのでなく、信用リスク、市場リスク、流動性リスク、およびオペレーショナルリスクという従来のリスク管理の柱に効果的に組み込むことです。
カナダの金融機関監督局(OSFI)B-15などの規制の導入は、気候リスクの定量化がかなり成熟の域に達したことを示していますが、気候リスクを財務報告に組み込むことや、監査の観点での影響については、まだ課題が残っています。
さまざまなセクターに投資する企業は、極めて多岐にわたる物理的リスクや移行リスクにさらされる可能性があります。気候リスクを効果的に測定するには、膨大な量のデータが必要となるため、巨額の投資が必要です。気候情報の開示が任意から必須へと変わることで、これらのデータギャップに対処するための集約的なソリューションの開発が加速すると予想されます。
重要な気候関連リスクに関する開示義務が間もなく導入される見込みです。金融界のリーダーはどのように備えたらよいのでしょうか。
気候関連報告の対象となる銀行、保険会社、投資運用会社、その他の金融機関が規制要件を満たすには、気候リスクプログラムと慣行を強化する必要があります。多くの企業は何年も前からすでに気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の枠組みにおける気候関連情報開示基準を自主的に順守し、取り組みを開始しています。規制当局は、大規模な変更や新しいデータセット、テクノロジーが必要になることを踏まえ、性急すぎることのないよう慎重に取り組んできました。
気候リスクでは長期的な因果関係を組み入れることになるため、純粋に新しく必要とされるのは、気候データサイエンスのほか、気候やマクロ経済、企業レベルでの将来予測データなどです。気候リスクは、金融機関で新たな慣行として導入するのではなく、意思決定を強化する要素の一つとして他のリスク管理の柱に組み入れるべきです。
気候リスクは、金融機関で新たな慣行として導入するのではなく、意思決定を強化する要素の一つとして他のリスク管理の柱に組み入れるべきです。
-Dharrini Bala Gadiyaram, Global Head of Enterprise Risk Product at Bloomberg
気候リスクをリスク管理の枠組みに組み込むにはどのような方法が効果的でしょうか。
金融機関は、気候リスク管理が一つの分野として今後も急速に進化し続けることを認識し、データの可用性と算出法のコンセンサスを巡るギャップを埋める必要があります。そうした進化に十分対応できる、機敏な枠組みを構築することが重要です。
また、移行リスクと物理的リスクをそれぞれ個別の柱と見なさないことも重要です。炭素排出量、炭素回収・貯留コスト、エネルギー技術コストなどの移行リスク要因には、急性および慢性の物理的リスク要因と統合した、信頼性の高いアプローチが必要です。移行リスクは、物理的リスクに比べて、金融機関が扱い慣れているデータセットに沿っている場合があります。一方、物理的気候リスクは評価に必要とされるデータセットが膨大で、整理が困難です。
OSFI B15などの枠組みにもこの課題が反映されています。移行リスクと市場リスクのモジュールはクレジットリスクの影響に変換されますが、物理的リスクは、財務的な影響に変換されず、エクスポージャーの特定にとどまります。ほとんどの銀行にとって、気候をリスク管理の枠組みに組み込む最初のステップは、融資判断における一要素として信用リスクの観点から行われます。
気候によって誘発される金融リスクに対するレジリエンス(耐性)を構築するために、企業が取るべき最初のステップは何ですか。
最初のステップはリスクの特定です。物理的リスクや移行リスクの要因に最も影響を受けるのは、どの地理的地域、顧客、セクター、サブセクターかを見極めます。現時点では大半の市場がこのステップに注力しています。
次のステップは、標準的なリスク管理の枠組みと同様のシナリオ分析を行うことと、各種制限を設定することです。これには分析の算出法に関するコンセンサスとデータの可用性の改善が必要で、市場全体で多くの作業が必要となります。このプロセスは、ある程度繰り返し行われるでしょう。なぜなら、信用リスクや市場リスクに変換するために市場が選択する算出法によって、企業レベル、アセットレベル、およびその他の情報ソースでどのメタデータが必要とされるかということも決まるからです。
そのほか、リスク緩和戦略が必要です。企業が重大リスクを開示する際には、リスク緩和計画とともに、規制当局や投資家にどのように伝えるのかを計画する必要があるでしょう。緩和計画は再生可能エネルギー源への資本配分やリスクの高い物理的資産の処分といった形となる場合もあるため、効果的な緩和計画を策定するには、投資の意思決定に気候リスクを組み込むことが必要です。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。