【コラム】米富豪3人が東京見直す動き、何かの始まりか-リーディー

Read the English version published on April 24, 2023.

東京は主要な金融センターとしての地位を再び確立するために何年も苦しんできたが、東京を取り巻く環境の「初期設定」が変わり、消去法で東京が残っていることが救いになるかもしれない。

かつて金融界の中心地であった東京は先月、ある銀行業センター番付で、アジアのライバルであるソウルや北京、深圳に後れを取り、トップ20から陥落した。東京市場が30年前に絶頂期を迎えていたころ、金融界の地図に辛うじて記されていた深圳は現在9位だ。

外国人トレーダーを呼び込むためのさまざまな試みは、東京都の小池百合子知事らでは解決が難しい現実に直面している。香港やシンガポールに比べて高い税率や、日常生活や行政で用いられる言語が英語ではなく日本語だということ、それに煩雑で迷路のようなお役所仕事は東京に不利に働く。

ただ、東京が魅力的な都市になりつつあることを示す兆しもある。資産家ケン・グリフィン氏のヘッジファンド、シタデルは世界金融危機時に閉鎖した日本事業を再開する計画だとブルームバーグ・ニュースが報じた。ポイント72アセット・マネジメントを率いるスティーブ・コーエン氏はつい最近、同社が年内に日本でスタッフを約20%増やす計画だと明らかにした。

小さな始まりかもしれないが、それでも何かが始まっている。新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)期に長く門戸を閉ざしていた日本が見直されつつある。米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は今月、12年ぶりに来日し、日本にお墨付きを与えた。今後半世紀にわたって市場が成長し続けるという「強い感触」が理由だ。

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しかし、東京が金融市場としての魅力を取り戻したとしても、「東京国際金融機構(フィンシティー・トーキョー)」という、東京を「世界で最も多様で開かれた金融都市」にするため設立された社団法人が先頭に立ちアピールしたことによるものではないだろう。

2019年4月のこの法人設立時には、もっと大きなことがアジアの一角で起きていた。 香港の民主化デモだ。4年後の今、状況はかなり変化し、香港はパンデミック期の制約から立ち直りつつあるようだが、国際的なハブとしての機能は低下し、中国政府がうたう「一国二制度」の空虚さを露呈させている。

外国人駐在員の流出により、香港の人口は減少。先週はインターナショナルスクールに在籍する外国人生徒が4年間で12%減ったことが明らかになった。

上海や北京、深圳など中国本土の都市は金融センター番付で順位を上げていくかもしれないが、新型コロナウイルスを徹底的に封じ込めるとしていた習近平指導部の「ゼロコロナ」政策と、その混乱した終幕が多くの人々を警戒させている。

米国と中国の関係悪化に加え、台湾を巡る戦争という話も語られるようになっている。リスクは低いと思われるが、カナダ人のマイケル・コブリグ、マイケル・スパバ両氏が中国本土で3年近く拘束されたように、恣意(しい)的な外国人拘束が散見されることも駐在員の不安をかき立てる。アステラス製薬の社員拘束は記憶に新しい。

税率が低くで治安のよいシンガポールが勝ち組となるのはもっともだが、独自の問題も抱えている。特に供給が限られる住宅の価格が高騰。2022年だけで家賃は30%も跳ね上がった。シンガポールは外国人人材の誘致と貧富の格差を巡る懸念のバランスに腐心している。

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チャンスの窓が開いているのは東京だ。4年ぶりに大挙して外国人観光客が押し寄せているのを目にすれば、東京が衰退の一途をたどっているとの一部の指摘も忘れてしまう。新型コロナのパンデミック期に続いていた建築ラッシュで、東京の景観もかつてないほど良くなっている。5カ所の主要ビジネス街では今年、76万平方メートルの新たなオフィススペースが加わる。虎ノ門やハイテクに強い渋谷の再開発も完成が近い。

ある調査によると、賃貸マンション市場は活況を呈し、供給が過去最低水準となっているにもかかわらず、家賃は驚くほど手頃だという。平均家賃は過去3年間でわずか3.6%しか上昇していない。働き手は香港などよりもずっと簡単に住まいを見つけることができる。

移民受け入れに消極的と見なされている日本だが、エリート専門職の呼び込みには熱心だ。政府は最近、高学歴の高収入者を対象にわずか1年で永住権が取得可能なビザ(査証)プログラム開始した。

外国人駐在員にとって懸念される幾つかの問題も解決されつつある。インターナショナルスクールはちょっとした新設ブームで、英名門校ハロウのキャンパス建設などで今後数年間で3000人余りの生徒枠が追加される予定だ。

こうしたことはいずれも東京の復興を告げているわけではない。東京都が夢見るように東京が再び国際社会の中心都市になるということも言えない。しかし、世界金融危機や11年に起きた東日本大震災とそれに伴う津波・原子力発電所事故といった傷跡は薄れつつある。

一方、地政学的な観点から米国にとっての東京の重要性は増している。米国でそれぞれ4番目、21番目、50番目の富豪であるバフェット、グリフィン、コーエンという目利きの3氏が東京が復活したと考えるなら、見直す価値はあるだろう。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Three Billionaires Agree, Tokyo’s Worth a Revisit: Gearoid Reidy(抜粋)

This column does not necessarily reflect the opinion of the editorial board or Bloomberg LP and its owners.

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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