Read the English version published on October 23, 2024.
多くの新興市場国経済において、コスト、リスクおよび行政能力の欠如が、気候資金の結集を妨げる要因となってきました。レジリエンス、適応、再生可能エネルギー移行などの分野で気候ファイナンスに対する強いニーズがある新興市場国は、どのような対策を講じれば、気候ファイナンスのギャップを埋め、未来に向けて道を開くことができるのでしょうか。
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投資への障壁を打破するには
多くの発展途上国では、壊滅的な被害をもたらす気象現象の発生が頻発しています。その発生頻度はますます高まり、例年の気象現象になりつつあります。加えて、これらの発展途上の国々では通常、先進国と比較すると、こうした災害に対処するための十分なインフラが不足しています。
スタンダードチャータード銀行の最高サステナビリティ責任者であるMarisa Drew氏によると、このような国々では、気候変動への適応とレジリエンスの欠如への対応は自国政府がすべきものだというのが民間セクターの共通認識となっている、といいます。 しかし、壊滅的な気象現象が頻繁に発生する現実に対して、対応可能な手元資金を持つ政府はそれほど多くありません。
9月に開催された「ブルームバーグ・サステナブル・ファイナンス・フォーラム」で、Drew氏は、「この問題は政府だけの問題ではなく、対応を怠ればすべての人にとっての問題になると捉え直す必要があります」、「問題を改めて捉え直すことができれば、私たちの試算では、1.5℃の［温暖化］シナリオを想定すると、今日1ドルを投資した場合、災害回避によるリターンは12ドルになります」と指摘しました。
リスク対応と行政能力欠如の解消
ナイジェリア・ソブリン投資機構（NSIA）サステナビリティおよびESG責任者のNana Maidugu氏は、「新興市場国では、適応およびレジリエンスにフォーカスしたプロジェクトが民間セクターからより一層の投資を受けることは困難です。理由の一端は、これらの国々では気候変動投資を監督する規制がまだ始まったばかりで、資金提供者の多くが発展途上地域でのプロジェクト融資を高リスクとみなしているからです」と指摘しています。
Maidugu 氏は、アフリカへの投資について、「リスクには２つの側面があります。為替の影響によるリスクにしても、信用リスクの観点にしても、リスクがあることは確かです」、「ただし、こうした地域では実際以上にリスクが高いとみなされているのです」と述べています。
新興市場国や発展途上国におけるキャパシティと実行力とのギャップも、しばしば気候資本を動員するにあたっての障壁となります。
このため、NISAは2023年に発足した複数企業合同のプロジェクト準備ファシリティを通じて、プロジェクト・デベロッパーに対し、気候関連イニシアチブ投資準備に必要な初期段階での資金調達の支援および技術支援を提供しています。 NSIAが資金提供するもう一つのイニシアチブであるGreen Guarantee Companyは、資本市場での債券発行をより魅力的なものとするため、プロジェクト・デベロッパーに保証供与を行います。
リワードと斬新なアイデア
結局のところ、発展途上国で気候問題に対処するには、サステナビリティの多くの分野におけるイノベーションと投資が必要です。それは、構築環境下における天候、熱波、暴風雨への耐性から、水やかんがいの必要性が低い農業の適応ビジネスモデル開発まで、多岐にわたります。 Drew氏によると、このような気候変動への適応は、保険、銀行、プライベートエクイティなどの企業にとって「数千億ドル規模の巨大なビジネスチャンス」を提供します。
またカーボンクレジット分野におけるイノベーションの推進もとりわけ重要です。 例えば、アフリカの多くの新興国では炭素市場に関する明確な規制がなく、依然として、石炭が主要なエネルギー源となっています。
Drew氏は、「石炭火力発電所は米国では終末期を迎えている一方で、多くの発展途上市場ではまだティーンエージャーのようなもの」とし、「誰かがこうした発電所を建設し、誰かがそれらの閉鎖コストを支払わなければなりません。 私たちが（スタンダードチャータード銀行で）取り組んでいる斬新なアイデアの１つは、廃炉クレジットのコンセプトです。これは、一部の市場でエネルギー移行の促進につながるのではないかと思います」 と述べています。
本稿は、2024年9月にニューヨークで開催された、ブルームバーグ・サステナブル・ファイナンス・フォーラムで実施した「Mobilizing Capital to Emerging Markets and Developing Economies」パネルディスカッションから引用したものです。当パネルディスカッションは、ブルームバーグNEFの最高経営責任者（CEO）Jon Mooreが司会を務めました。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。