Read the English version published on October 09, 2020.
コロナ危機は今なお世界中で続いており、あらゆる業界の見通しをこれまでにないほど不確実なものとしています。そのような中、アセットオーナーは、投資を通じて経済を安定させ景気回復を支えることができる立場にあります。コロナ危機の現状や対策についてアセットオーナーが意見を交わすことは、将来に向けたナレッジベース構築のために大変重要なことだと言えるでしょう。
7月2日、ブルームバーグは専門家の皆さまにお集まりいただき、グローバル・アセットオーナー・フォーラムをオンラインで開催しました。会議のビデオをご覧になるにはこちらからご登録ください。本稿では、ポストコロナの時代にアセットオーナーが自身のポートフォリオをいかに考えるべきかについて、フォーラムで議論されたインサイトを2回に分けてご紹介します。
金融市場と実体経済の乖離
2020年第1四半期以降、世界は不況に陥っています。しかし、それ以降ほとんどの期間において、資産価格は経済の実態を反映したものとはなっていません。シティバンクのグローバル・チーフ・エコノミストであるCatherine L. Mann博士によれば、いったん急落した市場は夏の間V字型浮揚モードにありましたが、その間の景気はどんなによく見ても横ばいでした。
市場が経済の実態を誤って織り込んでいる理由は数多くあります(最近数カ月は市場が大きく回復する一方で景気も拡大しつつありますが、それでもなお大きな乖離(かいり)が残っています)。しかし、現在の金融市場が2021年の方向性を示していると考えるには無理があります。これまでの政府による財政面および金融面でのコロナ対策には限界があるためです。
「金融市場の楽観的な見方が正しいと信じるためにはより多くの材料が必要です。経済に大きな影響を及ぼす個人消費を最終的に下支えするのは民間投資とそれによる雇用の回復です。従って、その2つを促す何らかのきっかけが必要なのです。個人消費の力強い回復こそが金融市場の楽観的な見方を裏打ちするものですが、まだそれが見えていません」とMann博士は言います。
U字型回復の中で生き残るためには
11月に大統領選挙を控えて、米国企業あるいは消費者に対する連邦政府の追加支援は見込めそうにありません。たとえ実現したとしても十分なものとはならないでしょう。今回の不況の原因となったコロナウイルス感染拡大には、これまでの不況時には見られなかった幾つかの特徴があります。例えば、市場急落のスピードは大恐慌時よりも速く、企業セクターのレバレッジ度は2008年のグローバル金融危機時よりもはるかに高くなっています。
ニューヨーク大学スターンビジネススクール教授でRoubini Macro Associates LLCのCEOを務めるNouriel Roubini博士は、企業が破綻を回避してこの時期を乗り切るためには、支出を減らし内部留保を厚くする必要があると言います。そのためには人件費削減や新規投資抑制などの施策が考えられます。
こうして企業は先行きが不透明な中でリスク回避に走り、個人消費は失業者の増加により減少しています。これでは景気の回復はせいぜいU字型であろうとRoubini博士は言います。
それどころか、各国がコロナウイルス第2波の脅威にさらされ、経済を再開した米国の複数の州で再び感染が拡大する中では、W字型の二番底(ダブルディップ)をつけにいく可能性も否定できません。さらに悪いケースはL字型、すなわち、積極的かつ長期の支援策により財政赤字の過度のマネタイゼーションが進み、最終的にスタグフレーションに陥るケースです。
論理的な判断に基づく投資資金の再配分
せめてU字型景気回復を実現するために何ができるのか、投資家は少なくともその可能性を高める投資戦略を取ることはできます。
「今は、レバレッジを高めたり大胆に投資を行ったりする環境ではありません」とUSS Investment Management Ltd.のCEOであるSimon Pilcher氏は言います。USSは現在を「既に行った投資を保護する期間」と捉える一方で、将来的に有望な投資機会も注意深く探し求めています。
そして最も重要なこととして、将来有望な会社、特にビジネスモデルは本来強固でありながらレバレッジが高すぎるかあるいは目先の資金繰りが厳しいポートフォリオ企業の資金管理や資金調達を支援しています。ポイントは「当社が過去に投資を行った企業やその従業員の利益にかなう」支援を提供することだとPilcher氏は言います。
投資資金の再配分に関して、USSは値上がりと値下がりの両方向の可能性を探求しています。例えば、米国で債券が他の資産をアウトパフォームし始めた場合、USSはまだ同等の資産がそこまでのパフォーマンスを示していない英国に多くの資金を回帰させる機会であると捉えます。すなわち、米国では今後債券が反落する可能性がある一方で、英国では値上がりする可能性が高いと考えるのです。