FRTB最終規則、遵守への課題:Part 1

Read the English version published on September 04, 2019

本稿は Global Risk RegulatorのJustin Pugsleyが執筆し、ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。

トレーディング勘定の抜本的見直し(FRTB)に関する最終規則が公表されました。見直された内容には銀行業界が見直しを求めた点が一部含まれていますが、すべての要望が認められたわけではありませんでした。また、想定外の修正はほとんどありませんでした。

バーゼル銀行監督委員会は業界に対して一部譲歩しましたが、FRTB規制の目的の部分で妥協することはありませんでした。

2019年1月の時点で、各行は市場リスクの最低所要自己資本に対応可能な枠組みをおおむね有しており、特に不安感は抱いていないと思われます。

 予期せぬ結果

2016年規則文書からの変更点のほとんどは、2016年文書が引き起こした予期せぬ結果に対処するためのものでした。バーゼル委員会がスタンスを変更した部分は、ケースの判定に関してより多くの実在データを銀行に求めた点です。

Accentureで英国リスク管理プラクティスチームの責任者を務めるPeter Beardshaw氏は次のように述べています。「内部モデル手法(IMA)の適用を目指すグローバル銀行にとって、今回の変更はIMA手法全体が見通せるようになり使いやすくなったという点で歓迎すべきものでした。これにより、IMA手法の適用を諦めて単純に標準的手法(SA)に走るということはなくなるでしょう」

Beardshaw氏によれば、バーゼル委員会はFRTB規制の目的は堅持しつつ業界の言い分をほとんど聞き入れて、2016年規則文書が引き起こした予期せぬ結果について実務的に対処しました。

野村證券でリスクメソドロジーのグローバルヘッドを務めるEduardo Epperlein氏は次のように述べています。「規制当局は、算出実務やモデル化不可能なリスクファクターの線引きに関する私たちの懸念の多くに耳を傾けてくれました」

またブルームバーグで市場リスクプロダクトの責任者を務めるEugene Sternは次のように述べています。「IMAに関する変更は業界が求めていたものと方向性が一致しています。ただし業界の要望が100%認められたわけではなく、60%程度というところでしょうか。しかし、バーゼル委員会がIMAを機能するようにしようとしていることは明らかです」

 よりリスク感応的となったSA

バーゼル委員会が公表した最終規則では、規制の枠組みの設計とキャリブレーションが改善されています。また、規模が小さいまたは複雑でないトレーディング勘定を有する銀行向けに簡易的な標準的手法が導入されました。

「内部モデル手法を導入しない銀行向けにはより簡易的な手法もありますが、簡易化されるほど最低所要自己資本の額が大きくなっていると思います。しかし、規模が小さいトレーディング勘定しか持っていない銀行にとっては、少なくとも運用コストが削減され負担が減ることになるでしょう」と、規制対応および報告技術ソリューションを提供するWolters Kluwerのファイナンス、リスク、報告部門でグローバル・バリュー・プロポジション担当のヴァイスプレジデントを務めるJeroen Van Doorsselaere氏は述べています。

「しかしもちろんG-SIBs(グローバルなシステム上重要な銀行)がIMAの代わりにSAを選択するということはないでしょう。ただし、G-SIBsもIMAが使えなくなった場合に所要自己資本額が増加する上限値を示すため、SAによる算出も義務付けられています」

Doorsselaere氏は、2番手グループ、3番手グループの銀行でも大規模なトレーディング勘定を有するところはIMAにするかSAにするかで悩むことになるでしょうと述べています。

「そうした銀行には3つの選択肢があります。自前でIMAを適用し膨大な手間と多額の運用コストをかけるのか、それとも規制を避けるためにG-SIBsと提携し手数料を払ってトレーディングビジネスをアウトソースするのか、そして3つ目の選択肢はもちろんSAを採用することです」

全体的に見れば、G-SIBsを含む銀行業界はSAの変更については好意的で、「信頼できる」あるいは「賢明である」と評しています。IMA採用行にとって、SAのキャリブレーションはIMA算出ができなくなった場合の代替として機能することからやはり重要です。

SAにおける外国為替の取り扱い

一方でバーゼル委員会は、市場エクスポージャーの明確化を行い、為替リスク、インデックス商品、オプションの取り扱いを改定して標準的手法のリスク感応度の向上を図りました。

また、SAで一般金利リスク、外国為替リスク、一部の信用スプレッドリスクに適用されるリスクウエートを変更しました。概して、この変更によりSAで外国為替リスクに求められる資本賦課は軽減されました。

Doorsselaere氏によれば、バーゼル委員会はダブルカウントを避けるための変更を行うとともに、報告通貨とは異なる通貨による外国為替リスクの算出を認めました。

「こうした措置により、外国為替のリスクウエートは約50%削減されます。しかし外国為替リスクがリスクウエート全体に占める比率は(ほとんどの銀行の場合で)比較的小さなものとなっています」とDoorsselaere氏は試算しています

「これは英銀の海外子会社や外銀の欧州子会社にとってはメリットがある措置です。なぜならそれらの子会社が持つ大きな市場リスクは外国為替リスクだけだからです」と、金融ソリューションおよび統合サービスを提供するVermegの規制報告戦略ヘッドのJames Phillips氏は述べています。

もう1つの重要な変更は「三角測量」が認められたことです。これは、流動性が高い通貨ペアのリストから任意の2つの通貨を選択した通貨ペアも流動性が高いと認定するもので、業界からは好意的に受けとめられています。

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