「ニュー・アブノーマル」―異常な環境下における流動性分析

Read the English version published on April 9, 2020

本稿は、ブルームバーグのエンタープライズデータ・コンテンツのグローバルヘッドであるBrad Fosterおよび流動性プロダクトマネジャーであるZane Van Dusenが執筆しました。

次に起こる金融危機は最後に起きた金融危機と同じではないという古くからの格言があるにもかかわらず、前回の金融危機発生以降、金融の専門家は必死になって「リーマンショック」の発生シナリオの解明に時間を費やしてきました。しかし時が経過して、そのシナリオは過去のものとなりました。そして今、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が引き起こした混乱は、格言が正しいことを示す新たな事例となりました。現在の混乱は我々が過去に経験したことがないものであるため、過去のシナリオに頼るのではなく、刻々と変化する足元の市場環境を注視することが重要です。

今回、何が起きたのか?

TRACEや清算機関のデータおよび顧客から提供されたデータなどを搭載したブルームバーグの流動性分析(LQA)ソリューションに債券取引データをフィードして分析することにより、世界的な新型コロナウイルスの感染拡大が流動性に及ぼした影響を調べることができます。多くのトレーダーは流動性が蒸発したと感じていましたが、データによれば、取引量(取引総額および取引件数)は3月末までは比較的安定しており、最も値動きが激しかった日にはむしろ増加していました。2008年の金融危機の際にはTRACEに報告された取引量が50%から70%減少したのとは対照的です。

リーマンブラザーズ破綻前後のTRACE投資適格債取引量インデックス

リーマンブラザーズ破綻前後のTRACEハイイールド債取引量インデックス

取引量が増えていたのに、なぜトレーダーは流動性が失われたと感じたのでしょうか。その答えは取引コストにあります。この値動きが激しい期間中も、通常と同様の(あるいはそれ以上の)取引を執行することができていましたが、データを分析すると、その取引コストは世界的感染拡大以前の5倍から20倍(セクターまたは発行体による)となっていました。また、2008年金融危機の際にその影響を最も強く受けたのは金融セクターでしたが、今回最も影響を受けたのは金融以外のセクターでした。その中でも特に旅行・レジャー関連セクターが、旅行への懸念や移動制限の強化により大きな打撃を受けました。また、同時に進行したサウジアラビアとロシアの原油価格戦争により、エネルギーセクターも影響を受けました。

ブルームバーグのLQAソリューションは、上記データを通常のモデルキャリブレーションに組み込み、変化する市場環境に対応するとともにそれを反映させました。弊社では、ブルームバーグ・バークレイズ・グローバル総合インデックスの構成要素にLQAを実行し、清算期間のホライズンを1日としてこれを検証しました。その結果、LQAデータが取引データのトレンドと一致していること、すなわち各セクターにおいて取引コストが大幅に増加し、特にエネルギーおよび旅行セクターにおいて著しく増加したことを確認しました。

しかしながら、値動きが最も激しかった日(例えば3月16日)に起きた清算コストの大幅な上昇を、LQAはデフォルトでは捉えていませんでした。これはLQAが清算コストの分布を生成する際に、デフォルトでは平均信頼水準の値を返すためです。実際には、値動きが激しかった日々はテールイベントであったと考えられるため、LQA清算コスト分布のテール部分と比較する必要があります。このためモデルを適用する際の信頼水準を90%としたところ、得られた結果は値動きが最も激しかった日の取引データと一致し、一部のケースでは取引コストが25倍まで上昇しました。

学んだこと

ブルームバーグのLQAモデルは直近の新型コロナ感染拡大のさなかでも良好に機能し、市場流動性を分析するには過去のシナリオではなく現在の市場環境を重視すべきという弊社の考えが正しいことが確認されました。一方で、お客さまとの対話の中から幾つかの注目すべき点が浮かび上がりました。その中でも多くのお客さまが口にされたのは、LQAが価格ボラティリティを計測する際のルックバック期間についてでした。LQAのデフォルトの設定は20日になっています。この設定はボラティリティをかなりタイムリーに捉えることができる(かつモデルがより直近のイベントを重視することになる)ため、過去においては特に問題はありませんでしたが、一時的にボラティリティが高まった日に対応することはできませんでした。このため、2020年3月にボラティリティが一時的に最も高くなった日の影響を拾わなかった可能性があり、お客さまからは今起きつつあるイベントに対する反応をより迅速に把握するためルックバック期間の短縮を望む声がありました。このため弊社は、状況に応じてルックバック期間を変えることができる機能の重要性を認識し、モデルに新たなパラメータを加えることを検討中です。これにより、お客さまは必要に応じてルックバック期間を調整することができるようになります(例:1日、5日、20日、90日)。

今後数週間あるいは数カ月の間に何が起きるか、そしてそのイベントが金融市場や私たちの生活にどのような影響を及ぼすかを予測することは不可能です。しかし、私たちは、今この瞬間から学ぶことができます。そして新型コロナウイルスがもたらしたこれまでとは違う日常に適応した後には、今回の金融危機をモデル化するために次の10年間を浪費するようなことはしなくなるでしょう。