コンプライアンス競争

(これはブルームバーグ エル・ピーのリポート、『Asia’s Road to Regulation(アジアにおける金融規制への道のり)』の抜粋版を翻訳したものです。

アジア諸国の金融監督当局は、資産運用機関に対して流動性、公正価値評価、取引執行の領域で基本的なリスク管理慣行の導入を義務づける基準を採用しようとしています。

一部の運用機関は、すでにこの3つの領域でベストプラクティスを導入していますが、多くの運用機関は、年内の発動が不可避となっている規制当局の指令に対して、まだ準備を始めてもいない状態です。

香港やシンガポールをはじめとするアジアの主要ファンドマネジメント市場では、国際的な運用機関が数多く存在するために、新たに発動される規制に対する備えという点で2つの路線が並行して生じています。欧州や米国に本拠を置いている企業は、欧州の第二次金融商品市場指令(MiFID II)と米国の証券取引員会(SEC)規則が課している厳格な規制報告基準を遵守するために、すでに流動性、最良執行、および公正価値評価に関するベストプラクティスの達成に向けた困難な作業に取り組んできました。

アジアのファンドマネジメント業界と金融当局は、国際的な規制と業界のベストプラクティスに収斂しつつあります。アジアのアセットマネジメント業界が過去数年間にわたって着実に成長し続ける中で、金融当局は、ファンドから生じる流動性リスクと償還リスクに関心を寄せています。

世界規模と地域規模の規制が収斂に向かう中で、アジアのファンドは、堅実なリスク管理プロセス/システム/テクノロジーへの投資を徐々に増強しています。国際的な運用機関だけでなく、アジアの地域規模の運用機関も、さまざまに異なる規制枠組みに起因する諸課題に対処する必要が生じています。しかし、異なる規制の間にも相違点より共通点のほうが多く存在し、国際ルールとの整合性もこれまでよりはるかに大きくなっています。

運用機関は、複数の管轄区域にまたがる形でコンプライアンス業務のシームレスな統合を保証するために、自社の管理構造を点検する必要が生じるでしょう。現時点では、通常は本社を起点として、コンプライアンス機能を単一の拠点に集中化する方法が、ファンド運用機関にとってより容易であることが多いでしょう。

また、香港に拠点を置くある業界代表者の指摘によると、複数の管轄区域とそれぞれの特定の要件に対応することによって、運用機関によっては、たとえグローバルな機関でも、個々の管轄区域の中で比較的小さなコンプライアンスプレゼンスしか確立できない、という問題が生じています。この問題と並んで、薄利というアセットマネジメント事業の特性を考え合わせると、多くの機関は、コンプライアンスの達成に苦労する可能性が高いでしょう。

香港のリスク/規制コンサルティング会社、Cordiumのディレクター、Derek McGibney氏は、運用機関は、単に、規制の最小要件と期限を守ることのみを目的として強引にコンプライアンスを推進すべきではない、と指摘しています。

McGibney氏は次のように説明します。「運用機関は、この課題を完全に掌握すべきだと思います。運用機関にとって重要なのは、単にギャップ分析を行うだけでなく、リスク分析を実行することです。画一的なソリューションを通じて新規の規制を遵守しようとすると、金融危機や流動性危機が生じた場合に形勢不利に追い込まれる危険があります」。

ブルームバーグのアジア太平洋地域政府機関担当ヘッド、Vicky Chengは、アジアがグローバルな規制環境との整合を図ろうとしていることは、アジアの運用機関にとっては、グローバルなベストプラクティスを採用して国際的な競合企業に対する優位性を獲得するには絶好の機会だとしています。

Chengは次のように指摘しています。「アジアでは、運用機関が欧州の同業他社や顧客からの要求に応えようと努める中で、規則がますます “MiFIDフレンドリー” な形で制定されるようになっています。グローバルな基準を満たそうとしているアジアの運用機関にとって、これは世界規模の競合企業と同じ土俵で闘えるようになる好機です。香港やシンガポールのような市場の金融当局は、透明性と投資家保護という2つの目標を念頭に置きながら、実際面で効果的に機能し、しかもそれぞれの管轄区域の状況に見合った要素を採用しています」。

運用機関は、所定の期限までに新しい要件を満たすことについて、情状酌量を期待すべきではありません。アジアにおける規制当局が原則ベースのアプローチを採用していることを踏まえると、今後、運用機関は、それぞれの注力分野に固有のリスクとコンプライアンス要件を洗い直し、リスク分析と報告のポリシーを大きく変更し、データの集約と監査を容易にするシステムに投資する必要が生じるでしょう。

Asia’s Road to Regulation(アジアにおける金融規制への道のり)
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