AIブーム支える基盤、地政学リスクで揺らぐ

Read the English version published on June 30, 2026.

本稿はブルームバーグ・エコノミクス・ジオエコノミクス・テクノロジー・アナリストのMichael Dengが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

現在、わずか44社の人工知能(AI)関連企業が、S&P500種株価指数のウエートの約45%を占め、同指数の利益成長の71%を担っています。マイクロソフト、アルファベット、アマゾン、メタ・プラットフォームズ、オラクルの5社は、2032年までにAI関連の設備投資に合計3兆ドルから4兆ドルを投じる可能性があります。こうした動きを支えているのは、新技術への信頼だけではなく、地域・国家・国際政治が障害にならないという見方です。しかし、この前提は誤っているかもしれません。その理由は、以下の6つです。

  • 世界の先端ロジックチップの60%以上は、台湾で生産されています。台湾で有事が発生すれば、供給網が寸断され、AIインフラ整備が停滞する可能性があります。
  • AI革命を支えるサプライチェーンは、中国が支配するレアアース、紛争の影響を受けやすい原材料、さらに標的となるリスクが高まるインフラ施設に依存しています。
  • 輸出規制はハードウエアからフロンティアモデルにまで広がりつつあります。高性能モデルへの国家安全保障上の懸念が強まる中、アンソロピックの事例は、米政権の方針転換によってフロンティアAI企業が規制の標的となり得ることを示しています。
  • 関税はまだAIハードウエア基盤の中核部分に及んでいませんが、米国はその構築に必要な原材料の推定80%を輸入に頼っており、不透明感が続くだけでも投資は手控えられます。
  • データセンター建設への地元住民の反対により、米国では推定640億ドルに上るプロジェクトで遅延や計画中止が発生しています。米国人の71%は、居住地域でのデータセンター建設に反対しています。
  • AIに対する懐疑的な見方は党派を超えて広がっています。AI開発が遅れるとしても、安全規制が必要だと考える米国人は80%に上り、民主党支持者の88%、共和党支持者・無党派層で79%がこの考えを共有しています。

台湾における供給網寸断のリスク

台湾は、AIサーバー向けプロセッサーを含む世界の先端ロジックチップ生産の60%以上を占めています。中国による台湾侵攻が近い将来に起こる可能性は低いですが、決して非現実的なシナリオではありません。侵攻が起こればその生産能力が停止し、データセンターの建設が滞るほか、クラウド事業者は限られたコンピューティング資源の配分を余儀なくされるでしょう。AIインフラの整備が、長期間にわたって停滞するおそれがあります。

Bar chart showing Taiwan leads in advanced logic

サプライチェーンの脆弱(ぜいじゃく)性

地政学リスクとAIサプライチェーンが交錯するのは、台湾だけではありません。AIインフラの構築は、世界各地から調達される専門性の高い資材や部品の複雑なサプライチェーンに依存しており、データセンターから遠く離れた地域で発生した戦争や海運の混乱、制裁、輸出規制、生産停止によって寸断されるリスクを抱えています。

中国は、レアアースの加工、永久磁石の生産、電池材料、太陽電池用ウエハーのほか、データセンターの運用に必要なエネルギー、冷却、送配電、製造システムで使用される各種部材で圧倒的なシェアを占めています。2025年6月の中国によるレアアース磁石の輸出規制は、その優位性がけん制にとどまらず、実際にサプライチェーンを混乱させる手段にもなり得ることを示しました。

China expected to dominate rare earth processing in 2030
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半導体製造で代替が難しいヘリウムは、イラン紛争の影響で生産と出荷が中断しました。ウクライナ戦争の初期には、ネオンがチップ生産の懸念材料となりました。いずれのケースでも、一見目立たない特殊な原材料が、突然チップ生産の制約要因となり得ることが明らかになりました。

リスクはGPUにとどまりません。特殊素材、半導体製造装置、冷却・電力システムは、その多くが代替手段に乏しく、調達に時間がかかるため、いずれもサプライチェーン寸断による影響を受けやすくなっています。

Qatar accounts for a third of global helium production

AIコンピューティング基盤は、戦略インフラとしての重要性が高まるにつれ、攻撃対象にもなり得ます。イラン戦争で湾岸諸国のクラウドおよびデータセンターのインフラが攻撃や脅威にさらされたことは、施設の安全確保は今や、最先端のAIコンピューティング基盤のコストと立地条件を左右する要素となっていることを示しています。

イランのミサイル射程内にある湾岸諸国のAIインフラ

Range for Iranian missiles

フロンティアモデルに対する規制

米国商務省によるアンソロピックに対する規制措置は、米国の輸出規制が、提供されているフロンティアモデルに対するアクセスを制限し、AI規制の対象がサプライチェーンから製品そのものへと広がっていることを示しています。規制の技術的根拠の全容は現時点でも公表されていません。しかし、米政権がOpenAIに対し、最新モデルの提供開始当初のアクセスを制限するよう要請したことは、こうした懸念がアンソロピックだけにとどまらないことを示唆しています。一連の動きは、特にサイバーや軍事用途に利用可能な高性能AIモデルについて、各国政府が世界的な普及に対し警戒を強めていることを示しています。

フロンティアモデルは戦略的資産として扱われる可能性が一段と高まっており、従来ハードウエアに適用されてきたようなアクセス制限や公開制限も想定されます。

Anthropic's Fable tops US frontier model benchmarks

関税を巡る不確実性

米国にデータセンターを建設するには、サーバー、GPU、ネットワーク機器、冷却システム、電力設備が必要になります。AIコンピューティング基盤を構成する機器の約80%が輸入に依存しているとみられます。台湾は2025年に約860億ドル相当のサーバーおよび関連機器を供給しており、米国ブランドのAIサーバーは事実上すべてが台湾メーカーから調達されています。

AIハードウエアに課される関税の直接的な影響は、今のところ限定的で、半導体やデータセンター向けの中核的用途の多くが、引き続き適用除外となっています。また、米政権も優先分野への関税適用を回避する柔軟な姿勢を見せています。しかし、半導体への関税措置は依然として検討対象となっています。ホワイトハウスによると、交渉次第ではより広範な関税が課される可能性があり、政権高官も論点は半導体産業を保護する必要性ではなく、関税をいつ、どの程度導入するかにあるとの認識を示しています。

米国では2030年までにデータセンターインフラへ数兆ドルが投じられる見込みで、投資規模が大きいだけに、関税による負担額も巨額になります。ある業界試算では、データセンターで使用される半導体に25%の関税が課された場合、追加コストは年間約900億ドルに上るとされています。この負担は、2030年までに米国で計画されているデータセンター整備の約20%が、移転・中止・延期を迫られるほどの金額です。しかし、より大きな制約となるのは、不確実性そのものなのかもしれません。関税制度の行方が見通せなければ、企業は米国内で半導体工場やデータセンターへの投資を進めにくくなります。

地元住民の反対

米国ノースカロライナ州マシューズでは、住民が公開説明会に詰めかけ、2,700人分の署名を集めて地元当局に反対の声を寄せた結果、開発事業者が提出していたデータセンター建設計画を撤回しました。マシューズの町長によると、寄せられたメールの約99%が計画に反対する内容だったといいます。

マシューズは例外ではありません。ギャラップが実施した5月の調査では、米国人の71%が居住地域でのAIデータセンター建設に反対しています。これは、原子力発電所の建設に反対する53%を上回っています。米国バージニア州議会の監視機関は、データセンターの需要増に伴う発電・送電コストにより、2040年までにドミニオン・エナジーの標準的な家庭向け電気料金が月額14ドルから37ドル押し上げられる可能性があると試算しています。

大半の国の電力系統は、現在のデータセンター建設ラッシュのスピードと規模に対応できるようには整備されておらず、米国の規制制度もこれほど迅速な対応を前提としたものではありません。6月18日、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は、各地域の送電網事業者に対し、現行ルールでデータセンターによる新規電力需要の急増に対応できるかを説明し、できない場合にはルールを改定するよう求めました。AIインフラの整備は、規制当局がハイパースケーラーの需要と、電力供給の信頼性、需要家の電気料金、地域住民の反対をどこまで両立できるかにかかっています。

Bar chart showing data center load to double by 2035

AIに対する世論の反発

AIに対する懐疑的な見方は党派を超えて広がっています。ギャラップの調査によると、米国人の80%は、たとえAI開発が遅れたとしても、政府がAIの安全性に関する規制を維持することを求めています。この割合は、民主党支持者で88%、共和党支持者・無党派層で79%でした。ピュー・リサーチによる別の調査では、今後20年間にAIがプラスの影響をもたらすと考えている米国成人はわずか16%にとどまっています。中間選挙を控え、両党ともこうした世論を背景に、AIへの監督強化に動く可能性があります。

Diverging US, China sentiment on AI

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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