グローバルESG:2022年の見通し

Read the English version published on February 7, 2022.

本稿はブルームバーグ・インテリジェンス(BI)のシニアESGアナリストRob Du BoffとESGリサーチディレクター(EMEAおよびAPAC)Adeline Diabが執筆し、ブルームバーグ ターミナルに最初に掲載されました。

昨年開催された重大イベント「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」を受け、より持続可能で公正な未来を構築するため、向こう1年間で企業や政府に一層の努力を求める圧力が強まりそうです。世界各国の企業は二酸化炭素排出量削減目標を強化し続ける見込みである一方、気温上昇を1.5℃以内に抑える目標の実現には時間切れが迫りつつあります。資本市場や金融機関は脱炭素への移行において担う役割にますます注目し、グリーンボンドの記録的な売り上げがこの取り組みを加速させるものと予想されます。ESG資産は今年、全体で41兆ドルを突破する可能性があり、クリーンエネルギーファンドは拡大の転換点を迎えています。物言う株主や規制当局はいずれも、さらなる市場参加者を求めています。

気候問題の焦点は間もなくCO2排出国から金融機関へ移る見込み

CO2排出国に資本を提供する金融企業は、脱炭素への移行で担う役割について、今後ますます注目を集めると思われます。「1.5℃目標」達成へのタイムリミットが迫る中、グローバル企業はCO2削減目標の強化を続ける見込みです。その一方で、人間の経済活動や生活などを通じて排出された二酸化炭素などの温室効果ガスについて、削減できない分の全部または一部を、植林・森林保護・クリーンエネルギー事業(排出権購入)などで埋め合わせる「カーボンオフセット」に大きく依存する企業は、コスト増に直面する可能性があります。

1.5℃の目標達成の熱意に欠けるCO2削減目標 

現時点の目標では「1.5℃目標」を達成できる企業はごくわずかであるため、2022年は各企業がCO2削減の取り組みを強化するとみられます。世界のCO2排出量の約15%を占める300社以上を対象に、企業が公開しているCO2削減戦略を分析したところ、CO2排出量は直近年から2030年までで20%超、2050年までで50%超削減される予定であることが分かりました。削減目標をまだ設定していない企業が今後も同水準の排出を続けた場合、2020年から2030年までの期間で40%の削減機会を逃し、気温上昇を1.5℃以内に抑えるために国際エネルギー機関(IEA)が要請する、2050年までにまだ設定していない企業が今後も同水準の排出を続けた場合、2020年から2030年までの期間で40%の削減機会を逃し、気温上昇を1.5℃以内に抑えるために国際エネルギー機関(IEA)が要請する、2050年までに温室効果ガスの排出を正味ゼロにする「ネットゼロ」を達成し損なうことになります。行動を起こさない企業には、コスト、座礁資産、株主からの圧力が増大するリスクがあります。

なお、BIの分析は石油、ガス、公益事業、金属、航空、海運、化学品、自動車の各セクターを対象にしています。

BIカーボン分析:CO2排出量予想とIEAシナリオ

出所:ブルームバーグ・インテリジェンス

カーボンオフセット市場の変化でコスト高になるか

カーボンオフセットの需要が急増し、オフセット回避から排出量削減への移行が具体化する中、企業は脱炭素化戦略の急激なコスト増に直面する可能性があります。炭素排出量が最も多い業種の300社超を対象にした分析では、CO2削減目標を掲げる企業のうち、50%以上がオフセットに依存していることを示しています。ブルームバーグNEF(BNEF)によれば、オフセットのコストは現在、排出回避の供給量が過剰なため、価格は1メートルトン当り平均2.50ドルですが、排出量削減への移行が徐々に進めば、2031年には1トン当り207ドルに達し、その後2050年には約100ドルで落ち着く可能性があるようです。

例えば米航空会社ジェットブルー・エアウェイズでは、自社運行の国内線からの二酸化炭素排出量約300万トンすべてをオフセットしているため、著しくコストが上昇する可能性があります。

BIカーボン分析:カーボンオフセットへの依存

出所:ブルームバーグ・インテリジェンス

気候問題への対策が急がれる中、不足する主要指標の情報開示

気候関連の情報は開示が進んだものの、主要指標についてはいまだ透明性を欠き、一部の業種では脱炭素への移行の分析を妨げています。石油・ガス総合会社のうち、スコープ3(製品の使用)に関わる排出量を開示している企業は半数に満たず、販売するエネルギー製品の二酸化炭素排出量原単位(CO2/MJ)を開示している企業はさらに限られます。炭素集約度のより低いエネルギーの提供を基盤として移行戦略を立てている仏トタルエナジーズなどの企業にとっては、二酸化炭素排出量原単位の情報開示は必要不可欠です。平均的な自動車メーカーにおいて、スコープ3排出量はカーボンフットプリント全体の約98%を占めるにもかかわらず、BIが分析対象とする自動車メーカー31社のうちスコープ3を開示している企業は13社にとどまります。売上高加重平均の燃費は、実際の燃料や二酸化炭素排出量原単位を把握するのに役立ちますが、自動車メーカーでは燃費の悪いトラックやSUVが売上高に占める割合が高いことから、これを開示している企業はわずか4社でした。

石油・ガス総合会社:エネルギー製品の二酸化炭素排出量原単位

出所:ブルームバーグ・インテリジェンス

気候問題への対策を講じる金融機関の監視が強化

CO2排出量が多い企業は引き続き議論の焦点となりそうですが、2022年には、脱炭素への移行を可能にする(もしくは妨げる)役割を担う金融機関が注目の的になると予想されます。欧州中央銀行が監督するストレステストにおいて、今年は気候リスクが焦点になる見込みで、各銀行が気候リスクを戦略、ガバナンス、およびリスク管理の枠組みにどのように組み込んでいるかが審査されます。130兆ドル以上の資産に対して責任を負う450を超える金融会社が加盟する「GFANZ(ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟)」は、金融システム全体でネットゼロへの士気を高め、パリ協定で制定された目標の達成に向け企業や国を支援することを目指しています。

スイスのスイス・リーやドイツのミュンヘン再保険など保険サブセクターの構成企業各社は、2050年までに保険引受ポートフォリオを温室効果ガス排出量ネットゼロに移行することを約束しています。

風力発電プロジェクトのリードアレンジャー(2015年ー2021年)

出所:ブルームバーグNEF

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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