当記事はBenjamin RobertsonとViren Vaghelaがブルームバーグ・ニュース向けに執筆したものであり、ブルームバーグ端末上で最初に発表された。
欧州金融規制の大幅な改革が来年1月に施行されることを受け、アジアの金融機関はその規模と範囲に当惑しているという実態が、業界団体によって明らかになった。
第2次金融商品市場指令(MiFID II)として知られるこの金融規制は、トレーディングやリサーチの提供をはじめとするあらゆる業務に大きな影響を及ぼす恐れがある。そのため、関心の高まっている他の国際的な規制への対応を既に余儀なくされているアジア地域の企業の間に動揺が広がっていると、国際スワップ・デリバティブ協会(ISDA)のアジア太平洋地域ディレクター、キース・ノイズ(Keith Noyes)氏は指摘した。
ノイズ氏は、こうした企業の反応について聞かれると、「ワオ」という言葉を使って、彼らの驚きの大きさを説明した。ISDAには69カ国850社が加盟しているが、アジアの加盟企業の中には同規制の詳細を最近になって初めて知った企業もあるという。同氏は「こうした企業は、このような複雑な規制の施行が目前に迫っていることをまったく知らなかった」と述べた。
金曜日に開かれたマスコミへの説明会で、ノイズ氏は、MiFID IIが業務にどのような影響を与えるかを示す一例として、EUに拠点を置く企業と取引するには、取引主体識別コード(LEI)の取得が求められることを挙げた。これまで交付されたLEIのうち、アジア企業への交付は約3%である。また、欧州中央時間と同期した報告が要求されるため、香港の不動産所有者は、タイミング精度を一秒単位にまで上げるために、屋上に受信アンテナを設置するよう求められているという、ISDA加盟企業から最近聞いた話をノイズ氏は紹介した。
【図表内】
IDがなければ取引できない。
交付されたLEIに占めるアジア企業の割合はわずか3%。
Granted LEI by region:LEI交付の地域別割合
Europe:欧州
North America:北米
Asia Pacific:アジア太平洋
出所:ISDA、グローバル・リーガル・エンティティ・アイデンティファイア・ファウンデーショ(GLEIF)2017年3月17日時点のデータ。
今週になって施行延期の期待が打ち砕かれたため、アジアの企業は7カ月という短期間でMiFIDへの準拠を支援してくれる弁護士やコンサルタントの採用を進めていると、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)の香港在勤金融サービス・コンサルティング・ディレクター、キショア・ラマクリシュナン(Kishore Ramakrishnan)氏は指摘した。
「業界の準備は整っていない。特に取引報告と透明性要件に関して、解決されていない問題が多い」とラマクリシュナン氏は電話で話した。もう1つの問題は、規制の同等性の問題であり、これについては各国の規制当局と欧州証券市場監視局(ESMA)の間で交渉が行われている。
規制の同等性が認められない場合に生じる事例としては、香港の規制の同等性が期限までに認められなかった場合、EUに拠点を置く企業のトレーダーは、スタンダードチャータード銀行等の重複上場企業の香港市場上場株式を購入することができなくなることが挙げられる。
PwCの顧客は、MiFID IIで求められる責務への対処のため、フロントオフィス、リスク、オペレーション、法務、技術の担当者で構成されるチームを18~25ほど結成しているとラマクリシュナン氏は説明した。
同氏は「時間的な余裕がないアジア企業は、対応を加速させるだろう。彼らはこれ以上成り行きを見守り続けることはできない」と述べた。