本稿はMark Gilbertがブルームバーグ オピニオンのために執筆し、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。Read the English version published on October 23, 2019.
住宅ローン、自動車ローンから企業の社債にまで幅広く使われていることから、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)が予定されている廃止日を過ぎても生き残る可能性が強くなっています。最近英国の映画館で流れているCMで、少年がゾンビの女の子にキスするシーンがあります。少年がためらっていると、「私イケてるわよ」と彼女は言い、ガムを口に放り込みます。そして二人はキスするのですが、同時に彼女の片腕は抜け落ちます。今、金融業界はこのCMの少年のように、相反する感情をLIBORに対して抱いています。
現在の計画では、LIBORは2021年末に廃止される予定です。銀行間市場での取引が激減したため、LIBORはもはや実取引に基づいたベンチマークではなくなっています。このため英金融行為規制機構(FCA)は、金融業界に対してポンド翌日物平均金利(SONIA)への移行を強く求めています。米国やユーロ圏など英国以外でも、規制当局が代替金利の導入を進めています。
しかし廃止まであと2年余りとなった2019年10月の時点でも、使い勝手の良さ、移行作業の複雑さ、長年の慣習などの理由からLIBORは幅広く使用されています。
英国の中央銀行であるイングランド銀行が運営するブログ「Bank Overground」は2019年9月末、LIBORを参照するポンド建スワップ契約の額は減少するどころかむしろ増加していると、デリバティブ清算会社LCH Ltd.のデータを基に指摘しました。
上のグラフにある通り、満期がLIBOR廃止予定日を超えるLIBORスワップ契約の総額は2018年4月の時点から増加し、2019年8月現在では10兆ポンド(12兆ドル)を超えています。2026年になってもなお5兆ポンドを超えるLIBORスワップ契約が残存することになります。「LIBORはいまだに幅広く使用されており、市場の安定性に対するリスクとなっている」と、イングランド銀行のブログは指摘しています。
規制当局が推奨する代替レートに金融商品の参照レートを切り替える動きも見られています。Royal Bank of Scotland Group Plc傘下のNatWest銀行は2019年10月初めに、South West Water向け既存融資の参照金利をSONIAに切り替えました。また、同年7月にはSONIAを参照する初の新規融資をNational Express Group Plcに対して実行しました。
もちろん、LIBOR移行の加速化を声高に叫ぶ人々の中には、自身のもうけのためにそうしている人々もいます。コンサルタントや弁護士は移行に関する助言を提供して高額の手数料を取ります。そういう人々にとっては、危険をあおることが利益につながります。
しかし、国際資本市場協会が2019年初めに公表した資料によると、LIBORを参照する債券で満期が2021年末以降に到来するものの総額は全世界で8,640億ドルに上ると推計されています。この数字を見ると、規制当局が本当に予定通りLIBORを廃止できるのか疑問の念を抱かざるを得ません。
また、コンサルティング会社のAccenture Plcは、グローバルに展開する銀行、運用会社、事業会社計177社を対象とした調査の結果を2019年9月に公表しました。それによると、現在予定されている廃止日以降もLIBORは存続するとした回答企業は23%に上りました。また、完全な移行計画が「完成している」と回答した企業はわずか18%、「実務的に対応する準備ができている」とした企業もわずか20%でした。
規制当局は厳しい選択を迫られています。LIBOR廃止を保留すれば、LIBOR切り替えに対する市場のインセンティブは一層弱まります。しかし、予定通りLIBORを廃止すれば、ドル、ユーロ、ポンドなどの巨額の金融契約が利息の支払に使用している参照金利がなくなってしまうのです。
そのリスクは大きすぎて無視できないものです。確かにLIBORには欠陥があり、時代遅れで、改善の余地はないかもしれません。しかし、廃止まであと27カ月では、金融業界は対応準備を完了させることはできないでしょう。LIBORは存続せざるを得ません。たとえゾンビであっても、その危険な魅力にあらがうことができない場合もあるのです。