ブルームバーグNEF(BNEF)では、東京モーターショー・シンポジウム2019にて特別セミナー「グローバルOEMのサステナビリティ戦略」を開催いたしました。BNEFのリサーチアナリストによる独自の分析に基づいた講演のほか、パネルディスカッションではトヨタ自動車や日産自動車からゲストをお迎えし、新しいテクノロジー、規制、サステナビリティへの取り組みが、世界の自動車セクターにもたらす変化、さらに日本に与える影響などを多角的に検証しました。
BNEFでは、Electric Vehicle Outlook 2019 (英語版)| Bloomberg NEFにおいて、2040年には世界の乗用車の販売台数のうち、57%を電気自動車(EV)が占め、世界の乗用車30%強が電気自動車になっていると予想しています。バスなどの共有モビリティサービスにおいては、経済性の観点からもそのスピードがさらに速まるものと思われます。
台風と気候変動:消費者はどう捉えたか
日本の産業界では、持続可能性への取り組が急速に進んでいます。TCFD (気候関連財務情報開示タスクフォース) 賛同企業は世界最多の199社(2019年10月10日現在)また、事業すべての使用電力を100%再エネで賄うイニシアチブRE100への賛同企業も25社とアジア最多となっています。冒頭、ジャスティン・ウー BNEF アジア太平洋地域統括は、10月の台風に触れ、消費者がこの台風をどのように捉えたかを見極めることが業界にとっても非常に重要であると述べました。日本列島に甚大な被害をもたらしたハギタスは、気候変動との何らかのつながりがあるのでしょうか。
サプライチェーン
今、自動車セクターでは、CASE(コネクティッド化、自動運転化、シェア/サービス化、電動化)プラットフォームへの急速で大きな変革期を迎えています。このCASEパラダイムも、中国における新エネルギー車(NEV)規制、そして気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)等の自発的な持続可能性イニシアチブの影響を大きく受けています。
規制やサプライチェーンの持続可能性目標はグローバルなレベルで、自動車メーカーに製品と将来のビジネスモデルの変革を促しており、各社が電化、軽量化、技術への投資、およびライドシェアリングなどのビジネスモデルを通じて、改善への道を模索しています。こうした市場の変化について、ブルームバーグNEFのアナリスト3名が、CASE、コーポレートサステナビリティのフレームワーク、材料の3つの側面からそれぞれ現状を分析し、展望を述べました。
はじめに、アリ・イザディBNEF インテリジェントモビリティ分析部門長が、業界の主流となってきたCASEの状況について解説しました。UBERに始まって世界中に広がったデジタル配車サービスは、現在ユーザー10億人、実に世界の成人の20%が利用している計算です。メーカー側には利用に関するデータの取得や開発ニーズもあり、新車販売が減少することへの懸念は少ないようですが、排出CO2の増加という点において課題があり、NYなど自治体によっては渋滞問題や年間走行距離といった側面から、保有台数に規制をかける動きがあるようです。
リードするEV化
一方、配車サービス供給企業側も、中国のDiDiは現在60万台のEVを導入、またUBERもロンドンでの配車をすべてEVにする目標を掲げています。「EV販売は当初補助金によって大きく伸びたが、今では規制が購入の最大の理由」とイサディは言います。現在世界では600万台のEVが走行しており、中国での伸びが特に顕著です。
電池価格の急速な低下
EVの普及をさらに加速するのが、電池価格の低下です。リチウムイオンバッテリー価格はこの8年あまりで85%低下しており、電池パックの普及率2倍で値段が18%という計算です。今後については、EV軽乗用車が内燃機関と同等のパフォーマンスを出すのは難しいかもしれませんが、大型では十分可能であるとBNEFでは見ています。また、コスト面から、乗用車よりも、バスなどの公共交通機関のEV化が早く進むと見られています。そして2030年以降は充電インフラが課題となってくるでしょう。
さらに新しい動きとして、電動アシストバイクなどのマイクロモビリティも比較的短い距離の移動に有効であるとして注目されています。
自動車トップメーカーは規制の厳格化やTCFDなどの自主的な取り組みに準拠するため、自社だけではなくバリューチェーン全体を考慮した戦略を開発する必要に迫られています。サプライチェーンは複雑かつ広範囲にわたり、資源を大量に消費します。上位10社の自動車部品サプライヤーは、毎年319MtのCO2を排出して上位10社の自動車メーカー向けの部品を製造しているのです。
コーポレートサステナビリティ分析部門長ヨナス・ルーズは、コーポレートサステナビリティのフレームワークを自身が出場する自転車レースに例えて解説しました。先頭を走ることは、「後続グループよりも強い風圧に晒されるが、慎重にトレンドを読めば業界をリードするポジションに着ける」と述べました。
しかし、気候変動のほかにも技術革新や市場や消費者のニーズの変化、規制など、サステナビリティを巡る状況は常に変化しています。ヨナスは、「ゴールがどこにあるのか誰にも分らない。レースを制するには変化にしっかりと追いついていくことが重要」と述べました。
向けて
次に、車体の軽量化について、先端材料分析部門長ジュリア・アットウッドが解説しました。車の材料はすでに欧州を中心に鉄鋼が減少し、より軽量なアルミニウムの利用が増加するなど、この10年で変化しつつあり、中国でもその動きは顕著です。アットウッドは、材料からのCO2排出削減の方法として、リサイクル材料の利用、使用材料そのものの削減、再生可能または生物元来材料の利用の3つの方法別に分けて解説しました。
アルミニウムは最適なリサイクル材料ですが、製品としての素材の寿命が長くリサイクル率も高いため、今後あまり供給の増加が期待できません。一方、アルミニウムや鉄鋼よりも軽くて強い炭素繊維は、製造の際の排出CO2も一番低いのですが、価格、製造スピード、リサイクリング率などが原因で、普及は進んでいません。しかしこれも変化しつつあると言います。生物分解可能な再生プラスチックが高価な原因も、一部の企業による独占も価格が高止まりしている原因の一つと分析しています。
アットウッドは、「業界は、持続可能性の目標に対する材料の重要性を認識しており、リサイクル可能で再生可能なオプションを常に探している」とし、より良い材料は使用量削減につながり、高性能材料をより持続可能な選択肢にすることができる」と述べました。
サステナビリティへ
の取り組みと課題
パネルディスカッションには、トヨタ自動車株式会社 先進技術開発カンパニー 先進技術統括部 環境技術企画室グループ長 守谷 栄記氏および日産自動車株式会社企画・先行技術開発本部 技術企画部エキスパートリーダー朝日 弘美氏をお迎えして、各社のサステナビリティへの取り組みと今後の課題についてお伺いしました。モデレーターは、アリ・イザディです。
まず、ゲストのお二人にNissan M.O.V.E. to 2022 ニッサン・グリーンプログラム2022およびトヨタ環境チャレンジ2050について各社取り組みをそれぞれご紹介いただき、達成にあたっての課題を伺いました。
ディスカッションのなかで浮かび上がってきたのは、2050年のゼロエミッション達成のためには、「自動車メーカーであってもエネルギーのことを考えなくてはいけない」という認識でした。製造における効率の追求、工場でのCO2排出ゼロなど、やれることを限界までやったとしても、「最終的にBEVの燃料となる電気エネルギーが化石由来のものであっては、環境的には意味がない」ということが無視できない課題として挙がってきました。
EVが持つ課題として航続距離、充電インフラ、充電時間といった点がよく挙げられますが、航続距離について朝日氏は、ご自身も日産のEVリーフの7年目のオーナー(走行距離10万キロ超)であることを明かし、「90%以上のお客さまは1日150キロ以内しか走行していないというデータがある」と述べ、「時々しか走らない500kmのためにバッテリー容量を大きくしてコストを高くするようなことは必要ない、とお客さまの意識が変化するのではないか」と今後の見通しを示しました。
パリ協定に向けて一番大きな課題は、という質問に、朝日氏は「社会全体を含めて制度設計をしっかりしたうえでの規制」が必要と述べました。また、自社EVの開発において、積載効率やバッテリーの改良で、コストを上げずに航続距離を10年間で200キロから400キロに倍増できた例を紹介し、「無謀ではあったが、EVを出すと決めたことで、さまざまな技術開発の積み重ねにつながった」と述べ、「ある程度リーズナブルな鞭も有効」と明かしました。
また、「脱炭素において、自動車メーカーだけでできることは限られる。今後どのようにして気候変動に取り組んでいくのか社会全体として共有して、取り組んでいくことが重要ではないか。まず国全体としてのビジョンや戦略が待たれる」という意見が個人的な見解としつつもパネリストから出た際には、会場からもうなずく姿が多くみられました。他業種とのコラボレーションは新しいビジネスチャンスにもつながります。「WIN-WIN」の関係になるような展開も期待されます。
モーターショーという自動車業界の一大イベント、あいにくの雨のなかでの開催でしたが、100人近くの皆さまにご来場いただき、熱心にメモをとられている参加者のお姿が大変印象的でした。アンケートからは、「自動車メーカーとしてエネルギーは無視できない、というコメントが印象に残った」「環境価値の共有の重要性を再認識した」「メーカーの本音が聞けたのはよかった」「材料にまで踏み込んだ話が興味深かった」といったご感想をいただきました。
気候変動という待ったなしの課題にグローバル社会は直面しています。BNEFとしても、引き続きエネルギーや材料も含めたさまざまなセクターの分析を進め、グローバルな観点から、皆さまのよきパートナーとしてフィニッシュラインに向けて一緒に走ってまいります。BNEFによる詳しいリポートがご入用の際には、ぜひお気軽にご連絡ください。