本稿はPeter Childによって執筆され、英国コーポレートトレジャラー協会のブログから転載されました。ブルームバーグは使用ライセンスを得ています。
1980年以降のトレジャリー部門 の変遷は注目に値します。当時、トレジャリー機能は、多額の投資や借り入れのアレンジを行うバックオフィスの経理係と思われていました。なぜこんなに大きなトレジャリー部門が必要なのか、80年代においては謎でした。しかし、トレジャリー部門(大きかろうと小さかろうと)とそこで働く人々は実際には大変重要な役割を果たしています。トレジャリーの主要な3つの業務と、それらがこの40年間でどう変遷してきたかを解説します。
金融取引
トレジャリーの主要な業務の1つは預金と借り入れのアレンジです。資金繰り、流動性、運転資金管理、与信管理、資金調達、財務報告などが、これまでのトレジャリー部門の標準的な日常業務でした。ベストな取引を行って競争優位性を高めるために、金利や借入期間、発行する証券、要項と財務制限条項、外国為替取引などを注意深く検討しました。しかし、時がたつにつれて新しい市場や分野が出現して業務が複雑化し、かつ洗練されていきました。今では銀行その他の金融機関の数が増え、ヘッジファンド他の金融仲介業者も成長したことから、トレジャリーでも新しいアイディアを試してみることが可能となりました。割賦債務やリースなど、資金調達についても選択肢が増えました。
金融取引の多様化はバランスシートの見直しにつながりました。トレジャリー部門では多くの時間をかけて資産価値の評価や債務(偶発債務を含む)の把握を行っています。同様に、年金債務、特に多額の積み立て不足がある最終給与方式はリスクが大きいとの認識が強まっています。また、ベストプラクティスや優れたガバナンス、適切な社内規定を整備するために、(社内または外部の)監査人とも連携を取っています。
リスク
金融取引や資金調達を行うにあたって重要なことは、事業を展開する国々を深く理解し、そのリスクを評価することです。短期と長期の資金調達や業界による要件の違い(例えば建設業界と食品小売業界の違い)などがトレジャリー部門の要注意点となりました。さらに、テクノロジーの進歩により、金融面での選択肢が特に発展途上国において増えました。新興国経済が好不況の波を繰り返す中で経済のファンダメンタルズを調査する必要が生じ、リスク評価がトレジャリー部門の主要な業務の1つとなりました。これは現在でも変わっていません。一方で、トレジャリー部門はそうしたリスクを軽減するため保険についてより時間を割いて検討するようになるとともに、そうしたリスクヘッジの責任も負うようになりました。リスクを定性面および定量面の双方で評価することの重要性が高まり、取締役会もトレジャリー部門にその答えを求める傾向が強くなっています。
戦略
今日のトレジャリー部門の役割は上記の金融取引とリスク分析を効果的に組み合わせて実行することです。全ての企業において(たとえ小企業であっても)トレジャラーは経営陣の重要な一角を占めるようになり、新事業についてCEOと仕事を共にすることもあります。大規模な多国籍企業であろうと小さな慈善団体であろうと、トレジャラーには細部への注意、常識、冷静さが求められ、それが成功と失敗の重要な分かれ目となります。トレジャリー部門の機能の一部(例えば予算策定やインベスター・リレーションなど)は必然的に財務部門と重なることになりますが、財務比率分析や目標基準の設定などは、当然ながらトレジャリー部門の仕事です。
さて、以上でトレジャリー部門が組織に与える影響の大きさをご理解いただけたことと思います。英国のEU離脱問題、トランプ大統領と中国の貿易戦争、世界的なインフレの高まりなどは今日の重要な問題ですが、明日には別の問題が起きるかもしれません。しかし、トレジャリー部門の重要性は不変であり、常に会社を変え続けるでしょう。