銀行の流動性とリスク管理を変える三つの要因

Read the English version published on June 4, 2026.

主要ポイント

  • スプレッド、スピード、最適化という三つの要因によって、銀行の流動性に対する考え方は大きく変わりつつあります。これらが合わさることで、流動性管理はパッシブな防御型からアクティブなバランスシート管理へと移行しつつあります。
  • 規制当局は、銀行が保有する流動性の量よりも、事業体・市場・通貨を問わず、銀行が流動性に迅速にアクセスし、それを活用できるかどうかを重視するようになってきました。
  • AIの活用拡大やトークン化の進展は、意思決定や業務効率の向上につながる一方で、時間的なバッファーがなくなり、複雑さが増すため、データやガバナンス基盤の脆弱性が露呈することになります。

資金移動の高速化や規制環境の変化、技術革新によって、財務担当者はリスク管理の基盤を再考する必要に迫られており、流動性リスクはますます高まっています。

ブルームバーグが5月にロンドンで開催したグローバル市場・バンキング・サミットでは、銀行界のリーダーらが集い、流動性とリスク管理の枠組み強化に向けた取り組みについて議論しました。また、AIの導入やトークン化を進めながらも適切な統制を維持し、レジリエンスを損なうことなく、効率性の向上を図る方法について意見交換しました。

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流動性の強化:リスク管理の新たな段階

大規模な新規株式公開(IPO)や発行市場の再活性化、地政学的ショック、急速な技術革新などにより、銀行の財務担当者を取り巻く環境は今までになく複雑化しています。しかし、多くの変化が起きる中でも変わらない事実があります。それは、銀行を破綻させるのは流動性の問題だということです。

2008年以前、このリスクはまだ十分に理解されていませんでした。金融機関は現在よりも少ないバッファーで運営されており、資金調達がどれほど急速に失われ得るかを示す事例も限られていました。しかし、2008年の金融危機を経て、銀行は体制の抜本的な見直しを迫られます。ストレス期にも耐えられるよう、準備金の増強、監督強化に加え、測定方法への大規模な投資を進めてきました。

そうした取り組みは成果を上げました。ただし当時解決すべき問題は一つだけ、つまり流動性の「量」を確保することでした。今では、課題はもっと複雑化しています。バランスシートがより細分化する中で、金融機関はどれだけ流動性を保有しているかだけでなく、どのように流動性を測定、管理、活用するかを見直さざるを得なくなっています。 

このような背景の中で、スプレッド、スピード、最適化という三つの要因が銀行の流動性へのアプローチを変えつつあります。これら三つの要因が合わさって、バランスシート管理への取り組み姿勢が、パッシブな防御型からアクティブなものへとシフトしています。

流動性を再定義する三つの要因

1. スプレッド

金融危機後の長年にわたり、流動性ポートフォリオではリスクを抑えた運用が重視されていました。アセットスワップ・スプレッドがマイナスとなり、リターンが圧縮される中で、財務担当者には資金を現金で手元に置いておく以外に方法がありませんでした。流動性は、レジリエンスを維持するためのコストにすぎなかったのです。

しかし現在は、金利上昇に伴いアセットスワップの利回りがプラスになったため、流動性ポートフォリオの運用はより積極的になり、その影響力も大きく高まっています。財務担当者は再び、安全性とリターンのバランスを追求し始め、パッシブなバッファーだった流動性は運用成績の鍵を握るようになっています。

2. スピード

流動性にとって重要なのは、もはやバランスシート上に資金がいくらあるかではなく、その資金をどれだけ迅速に動かせるかです。銀行はこれまでも信頼に基づくビジネスを展開してきましたが、今ではその信頼がわずか数時間で崩れ去ってしまう可能性があります。そのため、もはや静的な指標だけでは十分ではなく、実際に迅速な対応を取れる体制を整えておくことが求められています。

流動性ストレスが急速に広がること自体が、システミックリスクとなりつつある中、銀行にはそれに対応できることを示す説明責任がこれまで以上に求められています。流動性がどの事業体、通貨、管轄区域に存在するのかを正確に把握するとともに、その流動性を短時間で活用できることを具体的に立証しなければなりません。

また、この変革を後押しする役割は規制当局にもあります。特に中央銀行の手続きをはじめとする関連インフラの多くは、依然として複雑で時間を要するため、このギャップを埋めることが重要になります。

3. 最適化

従来、財務担当者は流動性、資本、資金調達をそれぞれ異なる分野とみなし、それぞれ独自の制約に従って管理していました。 しかし、こうしたサイロ化されたアプローチは、より統合的なモデルへと移行しつつあります。現在は、バランスシート全体で資本や流動性などのリソースがどのように連携し、どこに効率化の余地があるかに注目が集まっています。

目指しているのは効率性と安全性の両立です。強固な財務基盤を維持しながら、株主価値の向上につながる形で資本と流動性を活用することが求められています。

AIは近道ではなく、変革を支える手段

AIは、特に意思決定の迅速化において、財務部門に実用的なメリットをもたらし始めています。日々の変動要因の把握や異常検知、ストレステストの高度化、早期警戒指標の強化などを通じて、AIはより迅速かつ精度の高い意思決定を支援するツールとして有用性を示しています。

一方で、実際の執行となると事情は異なります。AIはまだ、契約管理から復旧計画、ストレステストの枠組みに至るまで、流動性リスク管理に必要なガバナンスに取って代わることはできません。AIが適切な意思決定を支援できるのは、一貫性があり適切に構造化されたデータがあってこそです。AIの活用が広がるにつれ、明確な監査証跡や説明可能なアウトプットに加え、意思決定を検証するために人間が関与する体制の重要性も高まっています。

トークン化とリアルタイムファイナンス: 双刃の剣

トークン化とリアルタイムファイナンスは、資金移動の仕組みにおける長年の非効率性を解消すると期待されています。

決済時間の短縮やシームレスな資金移転など、これらの技術がもたらすメリットは明らかです。プログラム可能な決済やスマートコントラクトなどの機能により、資金や担保の移転を自動化できるようになります。これにより、財務業務はリアルタイムで動く市場や顧客の期待に、より迅速に対応できるようになります。

しかし、その効率性には代償も伴います。従来の決済システムに組み込まれていた時間的な遅れは、長年にわたり流動性のバッファーとして機能してきました。その間に、財務担当者は資金や担保の状況を確認し、必要に応じて再配分する時間を確保できていたのです。決済が瞬時に行われるようになれば、そうした時間は失われます。また、新たなデジタル経路によって流動性が複数のプラットフォームに分散する可能性もあり、非効率性が解消されるのか、それとも新たな複雑さに置き換わるだけなのかという課題も浮上しています。

適切なタイミングで適切な場所に流動性を確保することは、引き続き重要な目標です。しかし、システムの高速化が進む中で、統制とレジリエンスを維持しながらこれを実現することは、銀行にとって一段と難しい課題となるでしょう。

準備態勢は整っているが、万全ではない

レジリエンスは、流動性が最も必要とされる局面で、それをどれだけ効果的に動かせるかによって決まります。こうした変化を受け、財務部門の役割は、流動性バッファーの管理からリアルタイムでリスクに対応する担い手へと広がりつつあります。

銀行システムは2008年当時よりも強靭になったかもしれませんが、リスクから完全に免れているわけではありません。リスク要因は明らかです。次の危機がどのような形で訪れるかは分かりませんが、これまで以上のスピードで展開することだけは確かです。

財務部門には、銀行がストレスの兆候を早期に察知し、顧客や経済を支える必要が生じた際に適切に対応できるよう備えておくことが求められています。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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