Read the English version published on December 29, 2025.
主要ポイント
2026年のエンタープライズ・データを形づくる要因は何でしょうか。本稿では、ブルームバーグがロンドンで開催した「エンタープライズ・データ&テック・サミット」で議論された、エージェント型AIの台頭や相互運用可能なクラウドインフラ、データガバナンスの枠組みに関する議論のポイントを取り上げます。
生成AIへの投資が加速し、世界の投資支出総額は2032年までに1.3兆ドル(約203兆円)に達すると見込まれる中で、データ量も拡大を続けています。これを受けて金融機関では、リサーチやトレーディングからコンプライアンス、さらに顧客への報告に至るまで、組織全体における情報の流れを再設計し始めています。
AIがデータ分析に深く組み込まれ、より広範な市場環境の変化が企業の事業運営を再定義する中で、経営陣はデータインフラやガバナンスモデルのあり方を改めて見直しています。こうした動きは、AI活用が新たな段階へ移行する転換期にあることを示しています。AIはもはや単なる効率化の手段ではなく、堅牢なデータ基盤に支えられた成長や競争力の強化を支える要素となっています。こうした状況の中、現在どのようなトレンドがこれらの変化を特徴づけているのでしょうか。また、これらのトレンドは2026年に向けてどのように進化していくと考えられるのでしょうか。
プロダクトについて
本稿では、11月にロンドンで開催された「ブルームバーグ・エンタープライズ・データ&テック・サミット」での議論を基に、主要なトレンドについて考察します。同サミットでは、資産運用会社や銀行などから業界の専門家が、相互運用可能なシステム、高品質なデータ、説明可能なAIが企業の競争力を支える基盤となりつつある現状について、議論を交わしました。
重要な転換期にあるAI
金融機関がAI活用の実験段階からより広範な導入へと移行する中で、AIは補完的なテクノロジーから、イノベーションや競争力を高める取り組みを支える存在へと変わりつつあります。ブルームバーグのエンタープライズ・データおよびインデックス部門グローバル責任者、Tony McManusによると、AIの導入は現在、重要な転換期を迎えており、企業はAIを単にコスト削減の手段としてではなく、新たなアイデアや成長をもたらす原動力として活用し始めています。
また、McManusは、「当初は効率性向上を目的とした活用が進む傾向がありますが、テクノロジーの使い方に関する理解が深まるにつれて、次第にイノベーションへと向かうようになります。最終的に勝ち残るのは、人員削減を進める企業ではなく、最も多くのイノベーションを生み出す企業です」と指摘しています。イノベーションを引き出すためには、膨大な高品質データへのアクセスが不可欠です。さらに、「AIが非常に優れたものであることは誰もが知っていることですが、その成果やインパクトはデータの質に左右されます」と強調しています。
相互運用性を備えたマルチクラウドのデータインフラの台頭
ステート・ストリート・アソシエイツのマネージングディレクター兼EMEA部門統括者、Neill Clark氏によれば、金融サービス分野で過去10年間に起きた主要トレンドの一つはクラウドへの移行でした。しかし、現在では企業が最適なソリューションを実現するためには複数のクラウドプラットフォームを統合する必要があるとの認識が広まっています。Clark氏は、「5年前であれば、すべてのデータをクラウド(理想的には単一クラウド)に集約することが重要で、それが完了すればクラウドネイティブなツール一式を使用して運用を始めることができると考えていました」と述べています。
さらに同氏は、「今では、マルチクラウド戦略とオンプレミス環境を組み合わせるという考え方の方が理にかなっています。実際、多くの企業は単一クラウドに集約できず、結果としてマルチクラウドを採用する形になりました。現在では、常に新たなツールが現れ、コンピューティングコストが変動することから、こうした選択が合理的になっています」と指摘しています。
ブルームバーグのエンタープライズ・データ・リアルタイム・コンテンツ部門グローバル統括者Colette Garciaも、これは企業がデータ戦略において柔軟性と正確さのバランスを確保するため取り組んでいるアプローチと整合性があると述べています。「この考え方は当社の方針とも一致しています。クラウドかオンプレミスかを問わず、必要な場所でデータを提供できることが重要です。重視しているのは、データの品質だけでなく、必要な場所に確実に提供できるという点です」とGarciaは語っています。
投資およびリサーチ・ワークフローへのAI統合
専門家が指摘するもう一つのトレンドは、エージェント型AIが、投資リサーチやポートフォリオ管理などを含むビジネスの中核分野に統合されつつあるということです。目的は人間による洞察や判断を排除することではなく、自動化されたデータ取得を通じてそれを強化することです。
ヘッジファンド、システマティカのデータリサーチ&開発部門統括者、Grégoire Dooms氏によると、AIはアナリストやポートフォリオマネジャーが意思決定に取り込める情報セットを拡充しています。Dooms氏は、「AIは、非構造化データ、つまりテキストデータへのアクセスと処理規模のハードルを完全に引き下げました。これにより、セクターや資産ごとに固有の特徴抽出パイプラインを構築し、それらを大規模に展開できるようになるのです」と述べています。
ステート・ストリートのClark氏はさらに、より広範なデータと自然言語処理ツールの組み合わせによって、同社のリサーチプロダクトの質が大幅に向上したと述べ、「一部のマクロ指標では測定精度が60%と大幅に向上し、ユースケースによっては予測結果が20-30%改善しました。非構造化データへのアクセス方法そのものが刷新されたということです」と説明しています。
説明可能かつリアルタイムなデータアクセスの新時代へ
AI機能によって金融サービス機関とその顧客との関係は劇的に変化し、企業はデータやインサイトを顧客とリアルタイムで共有できるようになりました。「私たちはお客さまとオープンアーキテクチャによるデータ共有を、事実上制約のない形で試行しています」とステート・ストリートのClark氏は述べており、
「データの周辺にコントロールを構築する必要があることに変わりはありませんが、ユーザーは自ら選択したタイミングと形式で、リアルタイムにデータへアクセスできます。さらに、そのデータは他のデータセットとも統合可能な形で提供されます。こうした形こそが、将来的にお客さまと情報をやり取りする基本的な姿になっていくのだと思います」と付け加えています。
とりわけ、AIの機能が高度化するにつれ、企業は規制順守や倫理的な運用を徹底するためのチェック体制を継続的に強化していくことが求められます。こうした取り組みによって、強固なデータ戦略とガバナンスは、企業運営を支える重要な要素となります。そして、AIを活用したモデルが人間の関与なしに投資決定を下す可能性が高まる未来に向けて、こうしたコントロールの重要性はさらに高まっていきます。
急速に変化する環境への適応
テクノロジーの進化が速く、1年後や5年後はもちろん、1カ月後にAIがどのような姿になっているかを予測することすら困難です。しかし、すでに金融サービス業のさまざまな領域に浸透しているテクノロジーは、今後さらに普及していくとの見方でエキスパートの意見は一致しています。
ブルームバーグのMcManusは、「重要なのは、誰がAIを利用し、誰が利用しないか、そして誰が取り残されるか、ということではありません」と述べています。問題の本質は、誰がAIを最も賢明な方法で利用するのかにあります。問われているのは、思慮深く、慎重な姿勢でAIと向き合い、自ら開発するAIから真の価値を引き出す方法を本質的に理解できるのは誰か、ということです。
業務の迅速化と判断の高度化を支え、実務に活用できる情報を提供するブルームバーグのAI活用方法については、こちらをご覧ください。ブルームバーグのエンタープライズ・テクノロジー&データ・ソリューションの詳細については、こちらをご覧ください。
本稿の内容は、ブルームバーグが2025年11月にロンドンで開催した「エンタープライズ・データ&テック・サミット」のパネルディスカッションおよび対談で得られた知見に基づいています。
本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。