転換期を迎えるプライベートクレジット

Read the English version published on September 10, 2025.

プライベートクレジットが急速に拡大し、債券市場の勢力図を大きく塗り替えています。公開企業・非公開企業の双方にとって、新しい投資や資金調達の仕組みを生み出しています。

ブルームバーグが主催した「Hedge Fund & Alternative Manager Forum 2025」では、業界のリーダーが集まり、成長著しいこの資産クラスについて意見を交わしました。パネルディスカッションでは、プライベート市場に精通した専門家の見解が紹介されました:

  • Bradley Foster:ブルームバーグ債券・プライベート市場部門責任者
  • Kelly Koscuiszka氏:McDermott Will & Schulte(旧Schulte Roth & Zabel)投資運用規制・執行部門パートナー兼共同責任者
  • James Vanek氏:Apollo Global Managementグローバル・パフォーミング・クレジット部門パートナー兼共同責任者
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拡大しつつある資産クラスとしてのプライベートクレジット

プライベートクレジットとは、突き詰めれば、公開市場を介さずに貸し手と借り手の間で直接行われる融資活動にすぎません。長年存在していた仕組みですが、近年はポートフォリオにおける役割が大きく進化しています。

ApolloのVanek氏は次のように述べています。「プライベートクレジットを単なる投資適格未満のレバレッジローンとして捉えているなら、拡大しつつある投資機会の大半を見逃してしまっています。最も成長が見込まれるのは高格付け、すなわち投資適格級の分野です。企業は自らに適した資金調達の形を検討しつつ、貸し手と直接連携して取引を組成しています」

同氏はさらに、商業不動産や住宅不動産といった従来型の分野にとどまらない、プライベート資産担保融資の急速な成長も指摘しています。現在、プライベート直接融資の総額は約1兆7000億ドル(約251兆円)に達しています。Apolloの試算によると、台頭する資産担保融資や投資適格級の融資機会を加えると、その規模は40兆ドルを超える可能性があります。

ブルームバーグのFosterも次のように述べています。「プライベート直接融資市場を見渡すと、“プライベート”と呼べる要素はもはや資金の出所だけです。投資適格AA格債からレバレッジド・エクイティーやベンチャーキャピタルに至るまで、あらゆる分野に普及しています」

公開市場とプライベート市場債務の境界線が曖昧に

プライベートクレジットはもともと、規制改革の影響で一部の融資業務から銀行が撤退した際にその空白を埋める形で登場したものですが、今では銀行が再びこの分野に戻りつつあります。

こうした動きに伴い、プライベートクレジットは、単一の貸し手と単一の借り手による取引という本来の姿を超えて進化しています。ローンシンジケートのように、複数の貸し手が関与する大規模な融資が増加し、ときにはプライベート資本と銀行資本の両方を活用するケースも見られます。公開市場にアクセスできる投資適格企業でさえ、プライベート融資を模索する動きが広がっています。その結果、プライベートクレジットETF(上場投資信託)や富裕層向けのインターバルファンドなどの新たな投資手段を通じて、投資家層はリテールまで拡大しつつあります。

変化する規制環境

グローバル金融におけるプライベートクレジットの存在感は高まり続けています。リテールや年金基金など新たな投資家層を引きつける一方で、企業にとっては規制当局の監視やコンプライアンス対応への備えが一段と重要になっています。

McDermott Will & SchulteのKoscuiszka氏は次のように述べています。「プライベートクレジットについて、当社のクライアントの多くが懸念しているのは、注意点が多すぎて対応が追い付かないという課題です。今後は情報開示や評価、人工知能(AI)の活用に焦点を当て、プライベートクレジットの基本に立ち戻る動きが出てくるとみています」

AIの導入

プライベートクレジットの専門家たちは、AIの影響がとりわけ大きな変革をもたらす要因になると予想しています。 

その背景には、課題でもあり機会でもあるものの一つとして、プライベートクレジット取引が生み出す膨大かつ多様なデータがあります。ブルームバーグのFosterは次のように説明します。「当社のお客さまが受け取る取引関連文書の多くは全く構造化されておらず、これまでのところ、重要な情報を抽出するのには多大な手作業が欠かせません。クレジット契約や機密情報に関する覚書、タームシート、財務諸表など、そのデータ量は膨大です。」    

Apolloでは、社内に蓄積された数十年分のプライベートクレジット取引データをAIで活用する方法を模索しています。Vanek氏は「そのデータを活用できれば、当社のみならず、当社の関係者や投資家にとっても非常に有益なものとなるでしょう」と語ります。

一方、McDermott Will & SchulteのKoscuiszka氏は、金融業界は規制が厳しいため、AI導入には慎重さが求められると強調しました。慎重になることで、他の業界がこれまで直面してきたような問題を最小限に抑えられると指摘しています。プライベートクレジットがAI関連のツールの採用を進める中、コンプライアンスが重要な役割を担うようになるとして、同氏は次のように付け加えています。「AIはプライベートクレジットに限定されるものではなく、あらゆる分野に影響が及びつつあります。今や、物事を進める際にAIの使い方を検証することは避けて通れません」 

また、AI以外にも、投資家層の拡大に伴って規制当局の注視が強まることで、標準化された報告と一貫性のある識別子の導入が加速すると予想されます。このような動きによって、プライベート市場と公開市場の整合性が高まるでしょう。FIGI(金融商品グローバル識別子)などのツールは、そのような整合性の促進に役立つとみられます。こうした動きにより、資産運用会社や資産保有者は、従来の投資適格債やハイイールド債と並んで、プライベートクレジットの投資機会を特定・評価しやすくなるでしょう。

課題と機会

課題はあるものの、プライベートクレジットの展望は良好です。Apollo のVanek氏は次のように述べています。「世界金融危機以降、クレジットは資産クラスとして大きな魅力を発揮してきました。従来の手法がもはや通用しなくなっている今こそ、企業に融資する魅力的な機会が数多く存在しています。だからこそ、プライベートクレジットが伸びているのです」  

プライベートクレジットが資本の調達方法や運用方法を塗り替える中、求められているのは透明性や効率性、実用的なデータです。ブルームバーグのFosterは、プライベート市場に対するブルームバーグの約束に言及し、大きな顧客需要に対応すべく大胆かつ持続的に投資を行っていることを強調して締めくくりました。世界各地のポートフォリオにおいてプライベート資産が果たす役割は拡大しています。当社は公開市場を長年けん引してきたのと同様に、厳格性や透明性、イノベーションをもってプライベート市場への対応を進めています。ブルームバーグはデータ、テクノロジー、および分析を拡充し、お客さまが必要とする一貫性と知見を提供することで、公開市場とプライベート市場の間にある障壁の解消を促進します。こうした投資は、プライベート市場でお客さまが自信を持って投資機会を開拓し、リスクを管理できるように支援するという明確な目的のもとで行われています。

本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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