Read the English version published on March 19, 2025.
本稿はBIのシニア産業アナリスト、オミッド・バジリが執筆し、ポーリン・エシュバックの寄稿とともに、ブルームバーグターミナルに最初に掲載されました。
BIのシナリオ分析に基づくと、データセンター向け電気インフラ需要は、2025年に前年比25%増の580億ドル(約8兆3000億円)に達し、2028年にかけて年平均成長率(CAGR)が12%に達すると見込まれており、仏Schneiderや独シーメンスなどの資本財企業では中間決算での増益が見込まれます。 規模、研究開発力、設備投資余力を持つ大手OEM企業は、より柔軟な対応力で小規模な競合から市場シェアを奪う可能性があります。
データセンター売上高、年12%成長で730億ドル達成か
生産能力の拡大で制約が緩和され、人口知能(AI)投資が電気機器関連企業の売上高を押し上げ始める中、データセンター向けインフラ市場(BIの推計では2024年時点で462億ドル規模)の成長率は2025年に25%に達する可能性があります。Schneiderは、2024年から2027年にかけてデータセンターや電化事業への投資を含む総額20億ユーロ(約3240億円)の生産能力拡大計画を表明しています。BIのシナリオ分析では、同市場は2028年まで年平均12%の成長が見込まれますが、電力・人材・機器へのアクセスや土地の確保が課題となり、成長が鈍化する可能性も指摘されています。
データセンターの増設で、Schneider、シーメンス、スイスの電力・自動化テクノロジー会社ABB、および仏電気機器会社Legrandの売上高見通しは向上しており、米国のデジタルインフラ設備メーカー、Vertiv Holdingsや電力管理会社Eatonも同様の状況となっています。電化需要は構造的成長段階(スーパーサイクル)局面に入ると思われます。

生成AIで電気機器の需要と利益率が上昇
AIの導入は、Schneider、Vertiv、Legrandが展開する熱管理・配電・ラックシステムの需要が高まっています。量的な需要に加え、価格設定や製品構成(ミックス)の最適化を通じて、利益率の押し上げにもつながっています。生成AIへの対応で、新たなデータセンターの設置が不可欠となる一方、既存データセンターも改修を余儀なくされています。 AIシステムは電力密度が高く、発熱量も多いため、これが電気機器需要の増加要因となっています。大規模言語モデル(LLM)のトレーニングには、従来の用途の10倍を超えるエネルギー密度が必要であり、GPUベースのアーキテクチャーではラック単位で同4倍超の電力が求められます。
AIブームを受けてOEM企業の受注残は、他のあらゆる市場セグメントを上回るペースで拡大しており、売上高の押し上げ要因になっています。インフラ容量を確保しようとするクラウド事業者やハウジングサービス(コロケーション)利用者による前倒し発注が進み、注文履行の遅延が拡大しています。

ラック当たり平均電力密度は2027年までに20kWか
AIのエネルギー需要に対応してラック当たりの電力容量は上昇傾向にありますが、設置済み市場では依然として20kW未満の低容量ラックが主流を占めると見られます。Legrandは、20kW超のラックが今後3年間で倍増し全体の42%に達する一方で、2027年時点でも20kW未満のラックが全体の過半を占めると予測しています。これにより、平均電力密度は2023年の12kWから2027年までに20kWになる見込みです。
ラック密度の上昇に伴い、冷却機能はデータセンターの運営に不可欠な要素となっています。冷却は全体の中で2番目にエネルギーを消費するプロセスであり、効率的な冷却設備は顧客がサービスプロバイダーを選定する際の重要な決め手となるでしょう。Schneiderは米液冷設備メーカーMotivairの買収により、Legrandは最大200kW対応のリアドア熱交換器(RDHx)の技術を通じて、市場シェアの拡大が期待されています。両社ともに、既存データセンターの改修需要にも柔軟に対応できる体制を整えています。

AIブーム主導の拡張に続き、効率化も急務に
AIアプリケーションの導入を背景に、今後2年間でデータセンターの電力容量が急速に拡大する見込みです。調査会社Omdiaによると、2026年までにデータセンターは総電力容量の約40%を占めると予測されており、その後も効率化の取り組みによって拡張が続く可能性があります。このため、2023年から2030年にかけて総容量は年平均13%のペースで拡大すると思われます。気候中立データセンター協定(Climate Neutral Data Centre Pact)に署名した事業者は、新設データセンターにおいて電力使用効率(PUE)を平均1.6から1.3〜1.4に改善する目標を掲げています。一方で、エネルギー不足が進む中で、EUのエネルギー効率指令(EED)に準じて規制が一段と厳格化される可能性も指摘されています。
AI専用の電力需要は、2023年から2030年にかけて年平均26%で成長する見通しです。 一方、他の用途向けの成長率は年平均7%にとどまると予測されています。

電力・労働力が課題となる中、大手資本財企業がシェア獲得
データセンター展開には多くのリスクが伴うため、小規模事業者では十分に対応できず、スケールを持つ大手企業が市場シェアを拡大する傾向にあります。Schneiderは、売上高に対して7%の研究開発費を投じる方針を掲げるとともに、生産能力の増強にも注力しており、同分野での市場シェアは首位とされています。労働力や電力の不足を背景に、監視ソリューションやソフトウエアの高度化、代替エネルギー源を送電網に接続する機器への需要が高まっています。 こうした設備はいずれも高付加価値な製品群に分類されます。
Schneiderが展開するプレハブ型設備は、データセンターへの人員常駐を最小限に抑えるソリューションとして注目されています。 一方、フィンランドのエンジンメーカーWartsilaは、AI負荷のピーク時に対応可能なオンサイト発電設備の提供を発表しています。

電気OEM企業のデータセンター売上高の比率が上昇
Schneider、Vertiv、Eaton、シーメンスなどの主要資本財企業は、AIとデータセンター分野へのエクスポージャー(事業比率)の拡大により、成長機会を獲得しています。これらの企業が提供する製品は、電源供給から冷却、ラック配電に至るまで、データセンターのライフサイクル全体に広く使用されており、設備投資の約43%を占めています。物理インフラ領域でSchneiderは世界市場シェア19%(BI推定)でトップ、次いでVertivが17%と続きます。
Schneiderはエネルギー管理部門を軸に、売上高の約21%をデータセンターが占めており、続いてLegrand(20%)、ABB(6%、主に電化部門)が続きます。シーメンスでは2025年の暦年ベースで3%を占めるデータセンター関連事業が、同社のスマートインフラ戦略において成長の要と位置付けられています。

柔軟性と設置スピードで市場シェアを拡大
データセンターインフラにおいて、柔軟な設計対応力と迅速な設置スピードは、プロバイダーやユーザーにとって重要な選定基準となっています。土地、労働力、エネルギー、水といったリソースの制約により新設が難しい地域では、既存設備の改修がより現実的かつ有望な成長機会とされており、アイルランドのように新設を一時停止している市場では特にこの傾向が顕著です。
新設プロジェクトの設計は、実行段階での仕様変更に対応可能な柔軟性を備えており、事業継続性を維持しながら迅速なソリューションの導入を可能にします。Legrandのタップオフ技術は、専任スタッフを配置することなくバスウェイ(プレハブ型配電システム)への素早い接続を可能にし、データセンターの運営を中断することなくインフラの撤去・交換を迅速に実施できます。また、事前組み立て済みのキャビネットは、設置作業の迅速化に寄与する可能性があります。
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