自然関連データ収集の複雑さ

Read the English version published on July 16, 2024.

投資判断において自然関連リスクを考慮しようとする投資家がますます増えています。また、新たな開示基準の採用に伴って報告の要求が高まる中、金融市場参加者は、より具体的で一貫性のある生物多様性や自然関連のデータを求めています。ブルームバーグのサステナブル・ファイナンス・ソリューションのプロダクトマネジャーとして、自然資本と生物多様性に焦点を当てるChristian O’Dwyerが、投資家が必要とするデータ収集の複雑さについて解説します。

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Responsible Investor(RI):生物多様性や自然関連データに関して、投資家はどのようなことを求めているのでしょうか。

Christian O’Dwyer(COD):市場は、企業が高リスクのセクターや地域で事業を展開しているか、サプライチェーンを通じてリスクの高い原料を調達しているか、もしそうであればトレーサビリティー(追跡可能性)と認証が実施されているかどうかを確認したいと考えています。また、企業が独自のガバナンスプロセスや指標、目標に関してどのような報告をしているのかについても把握したいとも考えています。資産運用会社は、この情報をESGチームの中だけにとどめず、投資の意思決定やリスク管理の実践、および注目が高まっている分野の金融商品の開発に反映させるため、組織全体に情報を共有することを求めています。

投資家は、特にデータの出所や算出方法の透明性を求めています。 ESGアナリストが株式ポートフォリオの運用チームに対し、ある企業の売却を提案する際、その提案が複数層のモデリングから引き出された情報に基づいている場合、それを実行する理由を明確にすることがより困難になります。

RI:生物多様性関連データの収集と評価が非常に複雑なのはなぜですか。

COD:データ収集がいかに複雑化するかを示す指標として気候変動を見てみましょう。まず、スコープ1、2、3のデータがあります。近年、気候変動に注目が集まっているとはいえ、ブルームバーグがESG報告データを保持している1万5000社以上の企業のうち、2022年度にスコープ3排出量を報告したのは3分の1にも達していません。次に、排出量削減目標がありますが、これには絶対量ベースと原単位ベースがあります。

また、投資家は、企業が移行計画を通じてどのように目標を達成しようとしているかを検証し、排出量削減に向けて順調に進んでいるかどうかを問う必要があります。

自然関連のリスクを考慮する際には土地利用、水ストレス、プラスチック廃棄物などの問題も、同じレベルで詳細に評価する必要があります。従って、投資家は確固たる結論に達するために必要な水準の質の高い情報を得るべく、データ収集の取り組みを強化する必要があります。

自然関連の課題を網羅し、取得可能なデータセットは、データがまばらな場合があります。そのギャップを埋めるために、資産運用会社は多くの場合、プロキシデータ、推定データ、その他の種類のデータに頼る必要があります。しかし、特定の企業が特定の場所で何をしているのか把握することは重要であり、地域ベースのデータだけでなく、それらの資産固有の、その他のメタデータも必要になります。

RI:投資家が入手できる自然関連のデータセットはどのように進化していますか。

COD:市場は、ホットスポットをピンポイントで特定する平均生物種豊富度(MSA)や潜在的消失割合(PDF)などの生物多様性フットプリントといった、万能な指標を使用することの難しさに気付いています。現在は、資産やサプライチェーンに関する企業および発行体レベルのデータにできる限り近づく方向に向かっています。これにより、投資家は同様の地域で類似の活動を行っている企業を区別できるようになります。 例えば投資家は、製品構成、資産の所在地、サプライチェーンなど、具体的なデータを求めています。 先ほども述べたように透明性に欠ける可能性があり、高度にモデル化されたデータへの依存から脱却しつつあるようです。

全体として、質が高い投資適格データは、セクター固有のリスク、地域固有のリスク、サプライチェーンベースのリスクとリスク軽減に基づく必要があります。

RI:質の高いデータへのアクセスを容易にするには、何が役立つでしょうか。

COD:金融業界とデータ業界は、非政府機関、学術機関、公共部門など、おそらくこれまで協力したことのないパートナーと連携し、データセットを組み合わせる必要があります。 ブルームバーグはロンドン自然史博物館と提携して、同博物館が開発した生物多様性完全度指数(Biodiveristy Intactness Index、BII)とブルームバーグのデータセットを組み合わせるべく取り組んでいますが、これは先ほど述べたイニシアチブの一例です。

同時に資産運用会社は、投資先企業に対して情報開示と自然関連リスクの重要性を伝える必要があります。 このトピックに財務的マテリアリティ(重要性)からの視点を適用するケースが増えています。 不十分なリスク管理が、論争、罰金、株価への影響につながった具体的な事例が多ければ多いほど、市場が注目し、動く可能性が高くなります。 この点について、注目を集めるケーススタディーがいくつかあります。ブルームバーグNEFは、リポート「When the Bee Stings: Counting the Cost of Nature-Related Risks(「蜂が刺すとき」:自然関連リスクのコスト算出)」で大手企業が深刻な財務的影響を被った10の事例を取り上げています。

RI:自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、報告システムにどのような影響を及ぼしましたか。また質の高いデータの収集をサポートするために、規制環境はどのように変化していますか。

COD:TNFDの結果、現在、金融機関はリスク管理、報告、開示に積極的に取り組んでいます。TNFDの枠組みは、より広範なサステナビリティ基準を設定した2023年に開始されました。投資家主導のイニシアチブである「ネイチャー・アクション100」には賛同者が多く集まり、欧州連合(EU)はEU森林破壊防止規則(EUDR)案を可決しました。

今年は、TNFDの早期導入企業が報告を開始しており、報告を義務付けるEUの「企業サステナビリティ報告指令(CSRD)」の施行と国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の基準により、関連する情報開示が促されています。生物多様性分野における規制の強化により、質の高い投資適格データセットに対する市場の需要がさらに高まり、相互運用性を目標として、さまざまな基準設定機関が協働しています。

RI:ブルームバーグはBIIのデータをどのように使用していますか。

COD:ロンドン自然史博物館は世界の陸地をマッピングした地理空間データの層を構築し、生物多様性の完全度をパーセントで推計しています。ここで、100%は完全に損なわれていない自然のままの生物多様性を示します。簡単に言うと、BIIは、人間の活動が特定の地域の陸上生物多様性に与えた影響の度合いを測定したものです。同博物館独自のPREDICTSデータベースを入力値として用い、科学的に検証され査読済みのデータを提供します。

ブルームバーグは、企業構造や資産所在地に関するブルームバーグのデータセットとBIIを組み合わせることで、完全な生態系に近い場所で操業している企業や、生物多様性が時間の経過とともに失われている地域で事業を運営している企業をユーザーが確認できるようにしています。ブルームバーグでは現在、既存の分析にこのデータを統合し、資産運用会社や銀行が他のデータセットと組み合わせて、企業の自然関連リスクプロフィールに関する詳細な質問に答えたり、自社のTNFD報告を支援できるよう取り組んでいます。将来的な活用事例としては、時間の経過とともに指数が改善した地域で事業を行う企業や、企業が意図的に生物多様性の回復を支援している地域を特定することも考えられます。

RI:今後、業界はどこに焦点を当てるべきでしょうか。

COD:気候変動に関連するリスクと機会を説明するための信頼できるデータとインサイトを投資家に提供するためには、発行体独自のデータ収集、透明性、情報開示を推進するためのバイサイドとセルサイドの関与が鍵となるでしょう。

この記事は、Responsible Investorから転載されました。本稿は英文で発行された記事を翻訳したものです。英語の原文と翻訳内容に相違がある場合には原文が優先します。

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